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ごはんで人は変わる

食と環境で人は変わる

ままごとハウスという3食飯付きのほぼ下宿といってもいいほど、実家感しかないシェアハウスに住んでいた。ここには年間150人以上お客さんが来て、ご飯を食べたり寝泊まりしていく。朝起きたら知らない人がいたりする。これだけ人の出入りが多くても争いひとつなく、むしろあんしんかんがあるのは信用で成り立っているからだと思う。

去年の夏休み2人の大学生が我が家に滞在した。ゆいとしおり。

ゆいは2週間、しおりは3週間ほどいたと思う。2人ともSOKOAGE campの参加者で、共通のコミュニティはあったが2人で早朝から起きだし、よく大声で歌っていた。しおりは吹奏楽をしているから、発声がしっかりしていて早朝に歌われるとしっかり目が覚めた。毎月行われている家族会議で、朝に歌うのは勘弁して、と議題に上がって2人は昼間歌うようになった。

ずっと寝てしまうししおり

夏休みになる直前しおりはままごとハウスに来て「ずっと寝てしまう」ことに悩んでいてママ(シェアハウスに住む61歳・オーナーの母)に相談していた。自分の特性上平気で1日くらい眠り続けてしまうらしい。

「うちにきなよ」ママが言う。そんな会話の中でサラッと言われた言葉のとおりしおりは夏休みに我が家へやってきた。

しおりのことはまた今度書きたい。

好き嫌いが多くて、偏食気味なゆい

ゆいが我が家へ来ることになったのはあつさん(オーナー)とゆいとの話がきっかけだったと思う。あつさんはいつも「明日から○○がくるから」と急に来客の報告をし、あとは住民になんとかしておいてといわんばかりの放置具合である。ママはいつも気をもんでいる。

きっかけはゆいが一人暮らししていたお家に虫が出たから食べ物を全部捨ててしまったから全然ご飯を食べなくてがりがりに痩せてしまったこと、恋愛も将来のこともどうにかしたいと思っていたこと、海外で克服したと思っていた潔癖がまた増えてきたことなどあった。好き嫌いが多くて偏食な女の子が来るということだけは聞いていて、私はママと「大丈夫かなあ」などと話していた。

来た当初のゆいは彼氏ともうまくいっていなくて、当時のパートナーに容姿のことを否定されていたらしく、第一印象は自信がなさそうな静かな女の子だった。

2人が来ても、6人の住民のペースは変わらずそれぞれで進んでいた。その中で2人も自分たちのペースを見つけていく。しおりが働き始めると、ゆいも派遣に登録し、働いたり、2人で派遣をさぼったり、散歩をしたり自由に暮らしていた。

ゆいのご飯を心配していたママも、その割にいつもと変わらず多めの品数で野菜メインの我流の料理を作り続けていた。ゆいがご飯を食べているだけで大喜びしていた。そこからは毎日のように食べられるもの探しが始まった。

ママは「いやだったら食べなくていいよ」といつもゆいに言った。ゆいの食べられるものが新たに見つかるとほかの住民に報告して周り、ゆいがご飯を食べているだけで褒めた。

はたから見ると何をやっているんだと思うけど、これはすごいことで、食べることを通してママはゆいの自己肯定感を高めていた。食べられる自分に肯定し、それに伴って身体の健康や肌の美しさが伴ってゆいはみるみる元気になっていった。

家族以外の人と暮らしと許容

これはゆいの夏の滞在が終わった後に聞いたことだけど、ゆいはかなり潔癖症だったらしい。外出するごとにシャワーを浴び、着替えをして、1日に何度も洗濯機を回した。ごはんを食べるときもおかずも、ごはんもそれぞれの皿に盛って、味が混ざってしまうのも嫌だったらしい。

6人もすんでいるシェアハウスに加わると、自分のこだわりが他人にとってどうでもいいことだと気づくことがある。一方で自分が無意識にしていたことで、誰かが嫌な気分になっていることもあるとわかるようになる。

ままごとでは洗うお皿を削減したいずぼらな気持ちから、取り皿にご飯もおかずも全部載せて食べる「皿食い」が流行していて、ママはそれを見てありえないと笑いながらもみんな皿洗いが楽だからと実践していた。

ゆいからしたらこの「皿食い」の習慣も許せないし、いろんな人が出入りしている空間では何度も気が得たかっただろうけど、ままごとに住み始めると許容ができりるようになったという。

しおりも元気になった。もともとユーモアあふれる面白い子だったけど、美味しいものを作るようになったり、不思議な動画を撮ったり、しおりなりに回復していった様子だった。

食べることと暮らすこと、誰かに存在を認められること、そんな単純なことだけど、満たされることで人は顔つきも雰囲気も変わる。そのことを2人を見て強く思った。

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基盤を整えることは食べること。

食べることを喜ぶことが、あの家には伝播していたと今強く思う。

「走れ絶望に追いつかれない速さで」と言う映画を知っているだろうか。シェアハウスの本を書くための出版会議を何度かしたことがあり、その時にオーナーアツさんが教えてくれた映画。映画の中に、親友を失って絶望した主人公が魂の抜けたような顔でご飯をかっ込み、号泣するシーンがある。その時に食べていたのは確か、すき焼きだった。このシーンに人間の根幹が詰まっていると思う。

食べることは生きること。すごく当たり前かもしれないけど、ただこの繰り返しなんだ。誰かを失っても、辛い状況でも、元気が無くなっても食べる。食べることを楽しむ、毎日の喧騒の中で大事にできなくなってしまうこともあるけど、豊かな生活に豊かな食事は欠かせない。ごくごく普通の赤ちゃんもおばあちゃんも、どの国の人も、動物も、みんな食べて生きている。

食べることを喜ぶ生活を!

いただいたサポートで私はもっと私に優しく生きていきます。銭湯に行ったり、甘酒を作るなど、