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ご迷惑をお掛けします。

窓から覗くと、外は真っ暗だ。
運転しているお母さんが軽く振り向いて、「どうした?」と声をかけてくる。

信号機は赤の点滅。
走ってる車はうちの車だけ。
今は夜中の3時だ。

あの後、お母さんに連れられて病院に行った。
点滴をして、吸入をして。

知ってる?吸入する煙ってちょっとまずい。

さっきの呼吸苦がまるで嘘のよう。
吸うのも吐くのもなんともない。
試しに10秒位息を止めてみる。やっぱりなんともない。
ずっと、このままならいいのに。

あしたは、、いや、今日は学校に行かなきゃ。
帰ったら3時間位は寝れるもんね。

「学校どうする?休んでもいいよ?」と、お母さん。

「んー。、、、いくよ。なんともないし。」

「じゃあ連絡帳出しといてね。」

「うん。」

喘息は辛いけど、朝のこの時間。
この町で僕だけが起きているのかも知れないと思うと、なんだか特別な気持ちなれた。

道路も独り占めだし。家に着いて少しすると、もう空は薄ら明るくなってきた。

この空を見ることができるのも、きっと僕だけだ。なんだか気持ちいい。楽になった呼吸で胸いっぱいの空気を吸い込む。

「はぁぁぁぁ、、、!」思わず声も出ちゃう。

だって信じられない。さっきまで死ぬかも知れないって思ってたのに。
今はこんなにもスースーなんだ。

吸うっていうか、勝手に空気が入ってくる感じ最高だね!

お父さんが、家に戻った僕に気付いて起きてくる。

「どうだ?平気か?」

「うん。なんともない。息もスースーだよ。」

「そっか。少し寝なさい。」

「うん。」

どんな小学生だったの?って聞かれたら、僕の場合は至極かんたん。
体が弱くて、家と学校と病院を行ったり来たりした小学生。勉強も得意じゃなかったけど、体育はほとんどできなかった。

たったこれだけ。

こんなことを繰り返してきた僕の小学生。
病院の先生は、体力がつけば勝手に治るって言ってた。
でも僕、運動できないのにどうやって体力がつくんだろうなぁ。
全く実感がわかないんだけど。

-夜中に病気に行きました。今日も眠たいかも知れません。ご迷惑をおかけします。-

連絡帳を開いてみると、お母さんが鉛筆でそう書いてくれていた。

うん。そうだよね。
やっぱり先生も迷惑だよね。だって僕、授業中にうとうとしちゃうもん。

どうか神様。
喘息を治す方法があるんだったら教えてください。

今度のクリスマスプレゼントはそれでいいです。

お母さん、お父さん、おねーちゃん。学校の先生、お医者さん。

ご迷惑をお掛けします。

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