違法の冷蔵庫
冷蔵庫を開けると、色とりどりのお菓子が並んでいる。タケルは目を輝かせて、それを覗き込んだ。
「これ、ケンのお母さんの手作り?」
「なんか急にお菓子作りにハマったみたいでさ。食べてけよ」
食べやすいように小分けにされたタルトを渡す。ベリー味のそれを口に入れると、タケルの口元が緩んだ。
「果肉もジャムもいっぱいで、うまい!」
「だろ? このままじゃ太りそうで怖いよ」
「これだけうまいと依存しちまいそう……麻薬でも入ってたりして」
タケルはそう茶化すと、タルトをもうひとつ手に取った。
「でも、なんで急にお菓子作りにハマったんだ?」
「ああ、パパが帰ってこなくなってから。もしかしたら……寂しいのかもしれない」
「そっか。お母さんのこと、気にかけてやれよ」
タケルが帰ってから、僕はママに聞いてみた。
「ねぇ、パパがいないと寂しい?」
ママは鍋を混ぜながら微笑む。
「寂しくなんてないわよ。パパはケンちゃんの一部になって、今も生きているんだから」
(了)
作品題名:5.『違法の冷蔵庫』
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