日記でGO 5月20日

5月20日

大河ドラマ『いだてん』を見たあと、令和の女が晩飯を作ってくれた。食パンにとろけるチーズを一枚のせて、グリルで軽く焼いたものだ。ものの一分でそいつを平らげて夜勤へ出たのが昨夜の21時過ぎで、今は職場。食堂の柱に取り付けられた時計の針が二本、てっぺんで重なっている。今日と呼ばれていたものが昨日になり、明日と呼ばれていたものが今日になっていた。利用者は皆眠っている。「ドライ」で駆動させたエアコンの音だけが低く響いている。
雨はやんだ。あれほど蒸し暑かった昼間に、さては長く降り続くかと予想していたがあっけない。夜の空気で一服したら排泄介助に入ろう。
星は見えなかった。空気はひんやりと澄んでいた。山は影。その輪郭を目でなぞった。三、四種類の虫の声と室外機の音。昨日も猫は帰ってこなかった。

利用者の体が熱い。意思疎通ができない方なので気分状態はわからないが、表情はいつも通りに見える。
バイタルチェックを行う。38.5℃。ここからまだ上がるかもしれない。脈拍が100回と普段より多い。気になるが、ナースに電話報告はしなかった。
鼻から気管に通しているプラスチックの管にカニューレを突っ込んで吸引を行う。痰がかなり多い。これもいつも通りなのでこのまま様子観察。後頭部と脇と足の付け根にクーリングを施行。

最初に入った利用者が熱発だったので手間取ったけれど、なんとか全員の排泄介助は無事終了。私にしては珍しく、一時間近くもかかった。背中が汗ばんでいる。手を洗って、先程のバイタルサインをノートに記録する。
屋外に出て、また一服。夜風が心地よい。
排泄介助の前後に一服するのがルーティンになっている。夜勤がある限り禁煙はできそうもない、というのは言い訳か。だらしない男だ。

2時に再度熱を測ろうかと思っていたが、気になるため1時半に訪室。39.3℃。顔面が紅潮し、目が潤み、表情は険しい。脈は106回。
他のユニットスタッフに相談後、ナースに電話報告を行う。SpO2をこまめに測ってーーと指示を受ける。痰は依然として多量に引けるが黄色くはない。風邪ではないようだ。ここまで痰が多いのに、SpO2は97%もある。しかし安心できないのは、この利用者は突然の意識レベルの低下で緊急搬送されたことが以前にあったからだ。その入院中に、鼻から気管へと管が通された。痰を引きやすくするためだ。
(「SpO2」とは、動脈の赤血球中のヘモグロビンが酸素と結合している割合をパーセンテージで示したもの。正常であれば96%を超える)。

2時。普段ならこの時間からナースコールが鳴り始めるが、今夜は静か。助かる。ソファで寝転んで目を閉じたが眠れない。

2時半。痰がかたい利用者2名にネブライザーを使用する。ネブライザーとは、水や薬剤を霧状に変えて利用者に噴射し、気道内を加湿する装置だ。これで痰が柔らかくなり、幾分引きやすくなるーーって、さっきからオレは、どこのだれに向けて、こんなにも説明的な文章をダラダラと書いているのかしら。まあいいけど。

3時。頻尿の利用者が起き出した。失禁と発汗。全更衣を行う。これまでに何度も転倒している方なのでベッドにはセンサーがついている。起き上がるたびにそいつが反応し、ナースコールを鳴らす。
この利用者、ときどき這って廊下に出てくる。排泄したばかりなのに、「トイレ、おしっこ」という訴えがほとんどだ。彼女は10分〜40分間隔でポータブルトイレに座る。その度にナースコールが鳴る。
当たり前だが、彼女の介助や見守りをしている間もその他の利用者への対応をしている。徘徊の恐れのある方、ベッド上で体動の激しい方など、センサーをつけているベッドは他にもある。でも、かといって休めないわけでもない。こうやって日記?をつける暇もある。どんな状況でもヒトは慣れる。慣れると休める。休んでも、しんどいのはしんどいんだけどね。わはは。

3時台に二回目の排泄介助に入る。途中、熱発の利用者のバイタルチェックも行う。熱、脈拍、血圧、SpO2に変化なし。ぬるくなったアイスノンを交換する。
排泄介助の合間に経管栄養の利用者3名の口腔ケアを行う。歯磨きとか舌や唇の乾きをケアする薬の塗布とか。口腔ケアはモーニングケアの一環なので6時台かせめて5時台にやってあげたいけれど、忙しくてとてもじゃないが無理だ。吸引機の掃除や起床介助や夜勤帯の記録や朝食のお茶の準備(むせ込みのある利用者にはトロミをつけている)でこちとらてんやわんやのお祭りマンボである。

(ここから先は帰宅してから書いた。4時以降は忙しいのです)。

正確には頻尿ではないけれど、男性介護士が夜勤のときだけナースコールを何度も押す利用者がいて、つまり性的なアレで。明け方にそれが激しくなるようだ。男性に排泄介助されたいのだろうが、正直いい気分はしない。ひどいときは10分おきにナースコールが。。ほとんど無表情と無言で対応している。

五時。ナースから送りのあった3名のバイタルチェック。熱発の方は多量の発汗で一気に熱が下がっていた。これはこれで怖い。クーリングを中止して、更衣を行う。吸引もこまめに。
ついでにモーニングケアを行う。寝たきりに近い方々の顔をおしぼりで拭き、髪を整える。
朝食のお茶の準備をする。トロミが必要な方は9名。それぞれに必要なトロミの強弱があるので、かなり面倒くさい。その他のお茶も準備。熱いお茶を出すと火傷するので、この時間でコップに五分の一ほど注いでおく。すべてのコップにラップをかけて準備終了。
ネブライザーを再度使用して、最後の排泄介助に備える。この間もナースコールの対応や巡視を行う。

屋外に出て、一服。もう少しですべてが終わるから頑張れ、私。

六時。最後の排泄介助に入る。吸引が必要な方のオムツ交換を終わらせて、吸引機の掃除をする。排便が滞っている方には、経管でセンナ茶を流す。このお茶は効く。どかっと出る。
食堂で食べられる方を排泄介助が終わった順に起こしていく。最後の最後にきつい仕事である。ベッドから車椅子へ、ベッドから車椅子へ、ベッドから車椅子へ。
起こしたらモーニングケア。入れ歯を入れたり、靴下を履かせたり、覚醒させるために大きな声で挨拶など。基本、容姿を褒めまくる。ばあ様は顔や髪の艶などを褒めれば覚醒する。女なんてちょろいものである。食事の姿勢がうまく取れない方にはクッションで調整する。

六時四十五分。早番が来る。あとは任せた。一晩で溜まったゴミ袋を捨てる。失禁で汚染した衣服を洗濯場へ運ぶ。残りの記録仕事をする。早番に夜勤帯の状況を送る。起こした利用者にお茶を配り、ゼリーを配り、冷水を配り、エプロンを配る。

7時、夜勤終了です。

あとは飲むだけ。夜勤がある限り、禁酒はできぬ。これがないと興奮がおさまらず、いつまでたっても眠れない。やばいよね。


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