第1回APD講演会レポート
2019年11月17日に開催した第1回APD(聴覚情報処理障害)講演会レポートになります。
定員30名に対し、62名にお申し込みいただきました。キャンセル等あり、当日の参加者は27名でした。
今回は、国際医療福祉大学の小渕千絵先生をお招きし、「APDにどのように向き合うのか? -評価や支援に関わる最新知見を含めて-」というテーマで講演していただきました。
流れとしては、講演会の後に質疑応答の時間を設けて参加者の質問に対して小渕先生にお答えしていただく形式にしています。
講演会の内容
最初に小渕先生からAPDの研究を始めた経緯やこれまでの経過をお話しいただきました。15年ほど前からAPDに着目していたようです。
講演会では下記の内容をお話しいただきました。
・APDの症状と原因、その評価について
・APDの定義に関わる近年の動向
・APDの支援に関わる最近の動向
・APDとどのように向き合うのか?将来展望も含めて
・その他の質問への返答
小渕先生の講演内容からいくつか抜粋して紹介します。
APD(聴覚情報処理障害)とは?
まず、講演会の内容に入る前にAPDについて説明します。
APD は「Auditory Processing Disorder(聴覚情報処理障害)」の略称です。
APD とは聴力検査では異常が認められないのにも関わらず、日常生活の聞き取り困難を有する障害とされています。
APD は解明された単一の障害ではなく、研究途上の症状で、正しく理解することが必要です。 詳しくは『APD の理解と支援』をご覧ください。
APDの症状
・耳のみで指示を理解することが難しい 52.6%
・雑音の中での聞き取りが難しい 31.6%
・複数人との会話が難しい 10.5%
・耳のみで覚えるのが難しい 5.3%
※約100名の方の問診時に記載された主訴を集計した結果
背景要因の内訳(成人の場合)
・ADD(注意欠陥障害)
・ASD(自閉症スペクトラム障害)
・認知的な偏り(不注意傾向、記銘力弱い)
・心理的な問題
・その他の要因(睡眠障害など)
・問題なし(緊張高い、気にし過ぎなど)
※2006年1月から2019年10月までに「聞き取り困難」で来院された方のうち、様々な検査を実施でき、背景要因を識別できた方の内訳
発達障害の診断には至らないグレーな方が多くなっている。(不注意傾向、記銘力の弱さなど)
診断のための検査内容(成人の場合)
APDかどうか判断するためには、いくつかの聴覚検査や認知、発達検査を行う。
・聴力検査→難聴があるかないか、判断するため
・聴覚情報処理に関係する調査→症状を客観的にとらえる
・注意や記憶に関わる検査、発達障害に関わる質問紙、性格検査など→原因につながる個々の状況を把握する
・成人のAPD症状を鑑別するための質問紙
聞き取り困難への支援方法
⑴環境調整
⑵聴覚トレーニング
⑶代償的な手法の活用
⑷心理的なサポート
環境調整はまず必須の対応。職場や学校において、周りの人に理解してもらい必要な配慮を受ける。
ロジャーフォーカスを使用すると、送信機(マイク)を付けた人の声を装用した受信機から聴取できる。学校生活で利用する上では効果がある。
日常生活上のトレーニングとして、「ラジオの音声、朗読CDを聞き取る」「音楽を聴く際に歌詞を追従する」などがある。耳で聞き、理解する力を伸ばし「聞く自信」をつける。
その他にUDトーク、ノイズキャンセラーヘッドホンの活用。
本人自身、気づきにくいストレスや不安が隠れている場合が多く、カウンセリングを併用した方が良い場合もある。
APDとどのように向き合うのか?
まずは自分を知ることから始めてみる。
次に、自分の特性から何が有効な対処法なのかを知る。
そしていろいろと試してみて、少しでも軽減を図る。
自分自身の捉え方の転換も必要となる。
当事者会にお願いしたいこと
当事者にしかわからない、理解できないこともある。当事者目線から、過ごし方、有効な対処法を今後も発信してほしい。
世界的に見ても、APDはまだよくわかっていない。その発症メカニズム、有効な対処方法が開発できるよう、ご協力をいただきたい。
感想
APDに関わる最新の知見を聞けて、とても有意義な時間を過ごせました。インターネットや本だけでは入手できない最新の研究や小渕先生の活動などの情報を得られたことが良かったです。講演は、参加者が聞きとりやすいようにゆっくりと穏やかに話してくださり、先生の心遣いが伺えました。
講演会では、「きこえにくさに対する質問紙」が配布されました。160点満点で109点以下だとAPDの可能性が高いとのことです。回答したところ、私は75点でした。
聞こえにくさのなかでも、「音声聴取」「空間知覚」「聞こえの質」「心理的側面」の項目があり、どの項目が苦手なのか客観的に見えてきます。私の場合は、「音声聴取」の項目の得点が低く出ました。特に複数人との会話についての質問の得点が低かったです。
APD当事者への支援としての心理的ケアの部分は当事者会でも担っていけたらと思います。まわりに相談できる人がいない方や情報を求めている方、他の人がどのようにしているか知りたい方などの場として機能していきたいです。
APDとの向き合い方で、まず自分を知ることから始めるのはとても大切だと考えます。自分の傾向を知り、有効な対処法を考えて実践する。それによって、困りごとが少しでも軽減し、より良い生活につながると思いますね。
自分を知ることで、不得意なことだけに着目だけでなく、得意なことも見えてきます。まわりと比べて得意なことではなく自分のなかで得意なことを見つけていくのが良いと考えますね。
あとは、「受け入れて折り合いをつけていく」「自分の苦手なところ、弱いところを受け入れて認める」との考え方もあります。
他には、APDがICD‐10に規定されていることやイギリスにAPDの情報サイトがあること、APDと発達障害グレーゾーンが関連深いこと,、性格傾向が関連している可能性があることを知れたのは新たな情報でした。
また、今後は、APD (Auditory Processing Disorder)から、聞き取り困難(Listening Difficulties)に名称を変更した方が良いか、との議論があるそうです。
今回、当事者会のリーフレットを作成したので配布しました。APDや当事者会を知ってもらうきっかけになるので、これからいろんなところに置いてもらえるよう動いていきたいと思います。
参加者の感想
・聞き取りの困難は認知も関わっていることが知れた。雑音による聞き取りにくさだけではなく、言葉の理解、推測などにより聞き取り力を上げていくのは参考になりました。
・APDの現状をわかりやすく知ることができた。私にとって有用だった。先生の話は分かりやすく、聞き取りやすい。
・自分が自覚していなかった症状にも触れていて、症状の傾向がわかった。性格の傾向も影響していると考えられることがわかった。
・小渕先生のお話は大変わかりやすく実例もあって良かったです。改めてAPDのメカニズムが少しずつですがわかりかけたような気がします。
・周りに話しづらく、最近この症状がAPDでは?と思い気になっていました。インターネットでの情報もあまりないのでとても参考になりました。
・初めてAPDのことを直接研究している先生から聞けた。本ではわからなかった、心理的要因やメカニズムなど背景と対処について学べた。
・APDについて情報を得られ、理解や他に悩んでいる人がいるとわかった。聴覚トレーニングという方法があったことが発見でした。とてもためになり、今後の自分とどう付き合っていくかを考える機会になりました。
・自分の要因として、心理的側面の影響が大きいことに気付くことができました。
・自分の知らないことを知れた。ストレスや不安も聞き取りに影響することがある。APDだが発達障害を持たない人もいる。
・小渕先生の考えや研究内容を聞けて良かった。私は当事者ではないので実際にどのように聞こえているのかイメージできるものを知りたいです。
・最新の情報が聞けた。当事者ではない理解者の言葉には重みがある。認知の仕方による部分も大きいということ。
・詳しいお話が聞けて、勉強になりました。「自分の特性」というのがとても大事になると思いました。
参加者からのご意見・ご要望
・研究のアップデート状況を定期的に知りたい
・APDの方々がどのように日常や仕事で対応しているのか知りたい
・実際に行う検査項目の詳細内容を取り上げてほしい
・イヤホンとかどれが自分に合うのかわからないので試せる企画があるとよい
・実際にどのような聞こえ方なのかイメージできるものを知りたい
・聞き取りが良くなる訓練方法を知りたい
・雑音対策や耳にストレスのかからない場所のマップを作る、情報サイトを作るなど、困りごとや対策を話し合うだけでなく、より多くの人とシェアできるような機会があると嬉しい
キングジムのデジタル耳栓やロジャーの聴覚補助システムを試せるイベント、できたらいいなと思います。キングジムさんに連絡したら来てもらえるものなのか気になります。
耳にストレスがかからない場所のマップ、個人的にも個室があるお店や静かなお店を知りたいです。投稿型のサイトを作れば情報が集まってきそうですね。
他には、「強迫性障害」「うつ病」「アンガーマネジメント」「HSP」についてのイベントを開催してもらいたいとの要望をいただきました。
ライフハック研究会を開催してもらいたいとの要望をいただいたので、2020年3月あたりに開催できればと考えています。
講演会には、NHKの記者さんが取材に来てくださり、講演会の様子が「おはよう日本」で放送されました。記事にもなっています。
ご参加いただいた皆様をはじめ、講演会の依頼を受けてくださった小渕先生、運営にご協力いただいた方々、メディアの方々、みなさんありがとうございました。
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