他愛もない散文です。

何故、唐突に雪印コーヒー牛乳をしこしこ書いとるかともうしますと、駅のホームで電車を待っていたときです。
ふくよかを通りこした男が、ホームに上がってきた。(デブと称するのも気が悪いので)
ふくよかを通り越した男はベンチに座ると、やおらビニール袋を漁りだし、歌舞伎揚げと雪印コーヒー牛乳を取り出した。
歌舞伎揚げなのだから緑茶のほうが合うのでは、というのは野暮。
この男が甘味に甘味をぶつける剛の者。もう、何も言うまい。

ふくよかを通り越した男の面構えといったらだらしなく、かといって人を不快にはさせない妙ちきりんになにやにやを浮かべている。

人差し指と親指で、器用に歌舞伎揚げを三枚づつ重ねて摘み、一定のリズムを保って、次々に口に放り込んでいく。

その力みのない所作は達人の域であり、見ていて心地よさえ感じる。
そこでふと気づいた。
ふくよかを通り越した男は、歌舞伎揚げばかり喰い、カシュカシュと咀嚼音をだしていて、まるで水分をとっていない。
コーヒー牛乳は、ふくよかを通り越した男の膝の上で結露を残し、置いてある。

やい、その食いっぷりでは口の水分はなくなり、歌舞伎揚げで口のなかを切ってしまわないか。やや心配になり、俺は粟立つ。
<中編>

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