最寄りの天国 3月31日


たまたま両親が休みだった昨日の朝、9時頃に
家の愛犬が天国に旅立った。

母の腕の中で発作を起こし、たぶんそのまま逝ったのだ。

発作は老犬の家の犬にとって珍しい事ではなかった。
母も、「今回の発作は長いな。」くらいにしか思っていなかった。

発作後、母は洗い物やらをするために愛犬をふかふかの毛布の上におろした。

私がその頃に起きてきて、Jazzを流しながら大学のレポートを書き始めた。

小春日和、温かいリビングに、柔らかなJazzと共に3人は居た。

私は、レポートを書きながら「なんて良い日なんだろう。」と春の陽気に心を和ませていた。

すると、突然母の「龍!目を開けて!」と言う声が聞こえた。
次第に泣き声が混じり、隣の和室から父も駆けつけた。

私はPCをたたく手を止め、光の差し込む所に置かれていたふかふかの毛布の上で寝ているはずの龍と泣き崩れる母と、座り込んで龍を見つめる父を、呆然として見た。

頭の中では、「あぁ、龍が逝ってしまった。母、龍が逝ったなら、目を覚ますのは無理だと思うよ。」と冷静な声が聞こえた。

私はパジャマだったし、父は末っ子の私に対してよく分からぬプライドがあるので、私がそこにいたら泣けないだろうと思い、着替えをしに2階に行った。

着替えて、1階に降りた時、龍は父に抱かれていた。
生前のように赤ちゃん抱っこをされていた。

一瞬「え?生きてるの?呼吸が戻ったの?」と思った。

それで父に「え?どっち?」と今思えば、かなり最低な聞き方をした。

父が「龍、死んだわ。」と言った。「明音も抱っこするか?」

「うん。」

父から渡された龍はぐにゃりとしていて、重かった。
腕の中の龍が死んでいるのが信じられなかった。

「死ぬ」なんて考えてたけど、やっぱり分かってなかった。

その日、ずっと泣いた。

夕方はバイトに行った。最近はとんでもなく忙しい店だったのに、なぜか昨日は落ち着いていた。気を抜くと涙がこぼれそうで、お客さんに食事を提供する際の声が震えるのをこらえた。

家に帰ると、龍は朝と比べると固くなっていた。

龍は顎を撫でられるのが好きだった。
固くなった龍の顎を撫でた時、心から「戻ってきてほしい」と思った。

白色と黄金のふわふわの毛だ。
固い小さい顎。

「もう、龍のこの顎は撫でられない。」

ぷにぷにの肉球も、晩年はやせて固かったけど、背中もお腹も、頭をなでる時はぴんと立っている耳を気持ちよさそうに倒した可愛い顔も全て。

明日、お寺で龍を火葬する。

龍、本当にありがとう。
14年と10か月、龍の個性がこんなに好きだったとは気づいていなかった。

龍は天国に知り合いがいない。
人見知り、犬見知りが激しいくせに、外面の良い彼だったから、天国でのびのびと出来ているかが心配だ。美人で若くして亡くなった知らないお姉さんに可愛がられているといいな。

龍は優しいお姉さん大好きだった。

龍にいつかどこかでまた会える日を信じている。
龍という魂が好きだった。

龍、本当にありがとう。
心から愛している。

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