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ネタバレ 映画「小早川家の秋」

「小早川家の秋」
1961年作品
女のプライド
2016/6/18 14:22 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

まだ消化できていない映画です。もう一度観る必要があるけれど…とりあえずの話を書いておきます。

映画の冒頭、造り酒屋の長男の未亡人(原節子さん)へのお見合いが描かれます。でも、それがお見合いだと知らされていたのは相手の男(森繁久彌さん)だけで、未亡人には秘密にされていたのです。この話、後になってから、未亡人にも知らされますが、話は、ほぼそこで終り、映画は別の話に移ります。

造り酒屋の主・小早川万兵衛(二代目・中村雁治郎さん)が、偶然再会した昔の愛人(浪花千栄子さん)と、その娘(団令子さん)の元へ密かに通う話になります。主の妻はすでに亡くなっています。そして、いろいろあった後に、小早川万兵衛は心筋梗塞で亡くなるのです。愛人宅で。

彼が亡くなった後の愛人は、それまでの温かな態度とは違い、どこか棘があり、冷ややかになります。又、悲しむ様子も娘共々ありません。娘など、葬式前からいそいそデートに出かけます。止めもしない愛人。

愛人には、後妻に納まったり、娘を認知させたり、財産分与を狙ったり、密かにいろいろな夢と打算があったのでしょう。しかし妻も亡くなっているのに、最後まで「密かな愛人としての身分」しか与えられなかった。それで「ばかにされた」と思ったのかもしれません。

愛人は、駆けつけた小早川万兵衛の身内の質問に、遺言は「これでおしまいか」だけ、と言いました。でもそれは、「愛人の気持ちを吐露したもの」でもあったのでしょう。

そして、この「ばかにされた感」は、きっと冒頭の未亡人(原節子さん)の気持ちでもあったのです。だから、彼女も色よい返事をしません。それどころか、相手が未亡人のことを気にいったらしいと知るや、すぐには断らず、のらりくらりと生殺しにするのでした。

追記 ( 伏線 )
2016/6/19 6:04 by さくらんぼ

>映画の冒頭、造り酒屋の長男の未亡人(原節子)へのお見合いが描かれます。でも、それがお見合いだと知らされていたのは相手の男(森繁久彌)だけで、未亡人には秘密にされていたのです。

>造り酒屋の主・小早川万兵衛(二代目中村雁治郎)が、偶然再会した昔の愛人(浪花千栄子)と、その娘(団令子)の元へ密かに通う話になります。主の妻はすでに亡くなっています。

「 しめしめ、タイミングよく、昔の愛人と偶然再会できた 」と思っていたのは、造り酒屋の主・小早川万兵衛だけで、実は、主の妻が亡くなったと知った愛人が、偶然を装って待ち伏せしたのではないでしょうか。

それなら、冒頭のお見合い陰謀話が、伏線として、さらに生きてくるのです。シナリオの構成上、その可能性が高いと思います。

そして、二つとも成就しないのです。

「…あの娘がふられたと 噂にきいたけど

わたしは自分から 云いよったりしない

別の人がくれた ラヴ・レター見せたり

偶然をよそおい 帰り道で待つわ

好きだったのよあなた 胸の奥でずっと

もうすぐわたしきっと あなたをふりむかせる…」

( 「まちぶせ」より抜粋 歌:石川ひとみ )

追記Ⅱ ( 映画「列車に乗った男」 ) 
2016/6/21 6:58 by さくらんぼ

この映画「小早川家の秋」(1961年)について少々えぐいレビューを書きましたが、この映画だけがそうであるとか、私が偏った見方をしているのかと言えば、必ずしもそうとは言えないと思います。

代表作である映画「東京物語」においても、一見「おだやか」でありながら「えぐい」のはご承知のとおりで、これは「小津映画の属性」なのかもしれません。

さらに、小津監督の生涯は(1903年12月12日 - 1963年12月12日)となっています。映画「小早川家の秋」は、小津監督が病気のため60歳ぐらいで亡くなる2年ほど前、つまり最晩年に作られたものです。そして、理由は知りませんが、彼は生涯独身で過ごしました。この辺りにも映画「小早川家の秋」を読み解くカギがあるように思います。

又、映画「列車に乗った男」(仏・パトリス・ルコント監督)にも描かれている様に、人は晩年になると「己と正反対の人生を夢見る」瞬間があるものです。考えても見てください、映画を通して、くり返したくさんの夫婦を描いていた小津監督には「愛する妻がいなかった」のです。そんな彼は、あえて「結婚」の中に隠れた「エグイ」ものまで見つめることで、己の最晩年を納得させようとしていたのかもしれません。

この映画のラストは葬式であり、葬列、墓石にとまった黒いカラス、火葬場の煙突からでる煙などが映ります。まるで己の死期がせまるのを悟っていたかのように。


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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