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#ネタバレ 映画「白ゆき姫殺人事件」

「白ゆき姫殺人事件」
2014年作品
つぶやきと言う火遊びもある
2014/4/19 22:13 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

美姫にとって、芹沢ブラザーズの雅也は、ヒミツの花園的存在であり、つまらない現実世界から逃避する、数少ない、心のよりどころでした。

しかし典子は、いやがらせのために、自分は雅也と特別に親しい関係だと、美姫に誤解させたのです。

だから美姫は、典子と雅也の両方に憎しみを抱いたのでした。

そして、あの日。

典子からコンサートのチケットを盗んだ美姫は、大急ぎで会場に駆けつけました。

そのとき美姫は、会場入りしようと車から降りてきた雅也と遭遇したのです。

たしかに雅也に対して憎しみはありましたが、だから、どうする、という決断は、映画では、その瞬間までは、たぶん無かったと思います。ただ美姫には、ファン特有の、熱烈歓迎の眼差しはありませんでした。

しかし美姫は、熱烈なファンのごとく、雅也に握手を求めるがごとく接近し、そして、混雑の中、ドサクサまぎれに、階段から突き落としたのです。

そして、一目散に逃亡した。美姫は立派な犯罪者です。突き落としの殺人犯になる可能性もあったのです。

火遊びをすると火傷をする、というのは、よく言われる言葉です。

典子は、ファンという、ある意味、仮想上の恋人を美姫から奪った報いを受けたのです。そして、雅也もとばっちりで怪我をしました。仮想上の恨みが、現実世界にリンクした瞬間でした。

それから、

美姫は、幼なじみの夕子と、実家の二階窓で、光通信ごっこをしていましたね。

ロウソクを使っているところがミソです。

火遊びの記号ですね。

火遊びをすると炎上の危険があります。

母親が見つけて叱ったので、美姫は懐中電灯をだしましたが、それも、取り上げられました。

ロウソク(リアル)でも、電気(ネット)でも、炎上の危険があります。だから、あえて、懐中電灯のシーンがあるのでしょう。

そして鎮守の森も、典子も、炎上したのでした。

ちなみに、

美姫と夕子の双方が、これからも等しく不幸であればよいですが、どちらか一方だけが、先に幸福になり、他方が発信するロウソク通信を「ウザイ!!!」と、無視するようになれば、また、新たな悲劇が起こりそうな予感がします。

先に幸福になりそうな確率が高いのは、引きこもりではない美姫でしょう。

美姫が先に幸福になり、光通信の返信が夕子にこなくなって、そのうち、なにか、虫の居所が悪くて、酒に酔ったりした美姫から、ネットに「ウザイ」とでもつぶやかれたりしたら、最悪ですね。そのときには逆上した夕子から撃墜されるのです。

そのときは、美姫が芹沢ブラザーズの雅也を撃墜した報い、その因果応報なのかもしれません。

つぶやきと言う火遊びもあるのです。

これからの、高齢化社会、悪意がなくとも炎上するときがあります。

たとえば1か月先の予定を友人に告げたりすることがあります。「来月末の日曜日に俺の家に遊びに来いよ。自家用車で送迎するから」などと。

しかし、誘った人が、認知症とは言いませんが、高齢で、約束の記憶が消滅することがあります。

でも、誘われた方はしっかり覚えていて、前日に「あした遊びに行くから、自家用車で送迎よろしく」と軽く甘えたりします。

でも誘った方は、完全に記憶が飛んでいるので「いきなり、なんて、ずうずうししい奴だ、しかも送迎しろだと? あんな男だとは思わんかった」と思うのですね。

誘われてOKしただけなのに、喜んでもらえると思っていたのに、逆に、わけも分からず、悪人にされて、捨てられてしまうのです。

歳を取ると、こうやって、失わなくてもよい親友を失っていく場合もあるのかもしれません。

★★★★

追記 ( スパイ大作戦 ) 
2014/4/21 22:08 by さくらんぼ

思い起こせば、美姫は子供時代から、したたか者でした。時を見て、他人に積極的に声をかけて、自分の世界(ヒミツの花園もその一つ)へ引きずり込む才能がありました。

一見すると、いじめられっ子ですが、決してそうではなかった。

そんな、美姫が、大人になったら、急に、いじめられっ子になった!?

それは、どうでしょうか。

そう言えば、典子を殺すために里沙子が美姫を利用したという証言がありました。

でも里沙子が美姫を利用した可能性があるのなら、逆に、真実は、美姫が里沙子を利用した可能性も否定できないのではないでしょうか。

芹沢ブラザーズのコンサートへ行った美姫には、うまい具合に典子殺人のアリバイができましたしね。

美姫は里沙子を巧妙に操り、美姫はコンサートで自分のアリバイを作ったうえで、里沙子に典子殺人の犯行を実行させる。

里沙子は自分がいじめられた腹いせに典子を殺したのは事実なので、そう自白するわけですが、里沙子が典子を殺すように、気づかれないように、巧妙に、スパイ大作戦ばりに、誘導していったのは、美姫なのです。

でも里沙子は自分が美姫に誘導されたとは思っていないので、自白するわけです。なんと、恐ろしい事でしょう。

そんな、事が可能なのかって?

物語の世界ですから、なんでも、ありでしょう。ライターなら、それぐらい創作できるはず。

その方が、物語として、面白いと思いませんか。ライターは、面白い方にかじを切るはずでしょ。つまり面白い方が正解の可能性が高い。

しおらしい顔をして、美姫は、悪人だったのかもしれません。

もう一度、観て、その可能性を検証してみたいですが、それは、また、いつかのお楽しみにしておきます。

追記Ⅱ ( 森を見て木を見る ) 
2014/4/29 11:42 by さくらんぼ

映画の再観は、いつかレンタルでするとして…
ちょっと、思い出したことを書いておきます。

子供時代の、美姫の空想癖が紹介されていましたが、広義の意味の空想癖とも言えるものが、「登場人物たちの嘘」ですね。

里沙子は美姫に殺人の濡れ衣を着せようとしていましたし、典子も美姫に芹沢ブラザーズの件で嘘をついてイジメていました。ネットでのつぶやきも、空想の吐露でしょう。

この物語は空想や嘘を主題に描いており、その収束点が、いわゆる美姫のスパイ大作戦なのでしょう。

これでシンフォニーの定石がなりたちます。

もし美姫だけが嘘をついていない、などと言う解釈があったとしたら、それは、すでに、冒頭での美姫の空想壁とも、主題とも矛盾しており、定石が成り立たなくなります。

追記Ⅲ ( 後ろの人影だあれ ) 
2014/4/29 11:48 by さくらんぼ

映画の終わりごろ、美姫が夕子と光通信をしているとき、後ろに怪しい人影があったことが一部で話題になっています。

私も、そう言えば、そんな記憶もあります。あると言われれば、あったなぁ、と言う程度ですが…最近、注意力が散漫になり、いろいろと、いけません。

そんな程度ですが、あえて推理をしてみます。

あの怪しい人影は、観客の心理を不安にさせました。でも劇中の美姫は、あのとき親友と、光通信でリラックス・タイムのはず。

それなのに、なぜ不安材料を混ぜ込んだのか…。

たぶん、あの演出は、美姫の深層心理にある不安の記号なのでしょう美姫の正体は悪人なので、美姫自身、不安を消せないでいるのです

そして、観客に対する物語の結末の暗示なのでしょう。具体的に言えば、怪しい人影は、刑事でしょう。芹沢ブラザーズの雅也を階段から突き落とした容疑で、事情聴取のために、任意同行を求めに来たのでしょう。今はどこにも監視カメラがありますからね。

そして美姫の家に上がってみたら、ちょうど、光通信の真っ最中なので、あれは、なんだ、とばかりに、刑事は後ろで見ていたわけです。共犯がいるのか、と注視していたわけです。

さらに美姫の自家用車は、里沙子が典子殺害のために、使用しましたので、その件でも、美姫も事情聴取は当然と思われます。

刑事ならば、加えて周辺を調べれば、ここで、美姫、典子、芹沢ブラザーズの疑惑3つが線で結ばれるのがわかります。よくある職場のイジメではなく、意外な痴情のもつれ疑惑、の線がです。

では、もし美姫を逮捕したとしても、殺人罪で有罪に持ち込めるのでしょうか。私は法律の専門家ではないのでわかりません。

でも、それ以前に、里沙子は100パーセント美姫に操られており、里沙子自身には典子殺害の気持ちが、まったく存在しない、ことを証明することも至難の業でしょう。里沙子が典子を恨んでいたことも事実ですからね。

追記Ⅳ ( 映画「CURE」 ) 
2014/7/22 6:47 by さくらんぼ

追記で「スパイ大作戦」と書きましたが、むしろ映画「CURE」に近いかもしれない。

映画「CURE」は、催眠術で他人を操り、ちょっと話をしただけの、まったくの赤の他人を、夢遊病者にも似た殺人者へと、豹変させてしまう男の話です。

操られた他人は、普通なら殺人なんてするはずもない、どこにでもいる善良な人たちなんですが、催眠術にかけられているから、人から蚊に刺された程度の不快感でも受け取ると、いとも簡単に反撃して、殺してしまうんです。

映画「白ゆき姫殺人事件」でも、子供のころの美姫が、すでに他人を自分の世界に引きずり込む、特異な才能に長けていることが、はっきりと描かれていました。

その延長線上、大人になってパワーアップした美姫が、毛を逆立てて激怒したらどうなってしまうのか、そのてんまつを、遠まわしに描いたのがこの映画だったのかもしれません。

つまり、これも身の毛もよだつサイコホラーだったのです。映画「キャリー」にも似ているが、はるかに陰湿で東洋的な。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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