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#ネタバレ 映画「終戦のエンペラー」

「終戦のエンペラー」
2012年作品
権力より、愛だね
2013/8/5 16:32 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

このタイトルは、TOYOTAさんの、素敵なピンクのハイブリット・クラウンのキャッチ・コピーから拝借しました。ピッタリだと思ってしまいましたので・・・。

又、この映画は歴史的な実話でありますが、映画「奇跡のリンゴ」と同様に、細部は創作であり、私は実話をモチーフとして、さまざまな主題を伝えるために作られた多くの創作ドラマの一つとして、観ていきたいと思います。以下は、そのつもりでお読み下さい。

冒頭、文字通りの最終兵器である原爆(有無を言わせぬ強権の記号でもある)が広島に投下されます。

実写フィルムの様です。いままでTVなどで、何回も観てきた映像ですが、映画館の大画面で観ると、さすがに胸に突き刺さります。あの瞬間、ふくれていく巨大なキノコ雲の下で、どれだけ、たくさんの人々が亡くなったことでしょう。こんな気持ちは、3.11の津波の映像を観たとき以来です。

やがて、米軍GHQのマッカーサーが登場します。

たしか本物のマッカーサーはもう少しハンサムだったと思いますが、そのままでも怪獣ゴジラが演じられそうな、強面のトミー・リー・ジョーンズさんが演じた理由もあるのでしょう。あの不敵な面構えは、幾多の修羅場を乗り越えてきた、これもまたツワモノの記号なのだと思います。

しかし、原爆の後、さらに、その先へ進むために、猛者であるマッカーサーが求めたスーパー・ウエポンは、意外にも「愛」だったのでした。

最近でもアメリカのある諜報活動が暴露されてニュースになっていましたが、マッカーサーも「右腕であるフェラーズの日本女性・アヤとの恋愛」を知らぬはずはありません。黄門様も、助さん角さんのプライバシーなど、とうにチェック済みでしょう。どこにでも忍びの者はいます。この女性は現実には存在しない、との話しをどこかで読んだ記憶もありますが、もし、そうだとしたら、それでも登場させた理由に興味があります。

マッカーサーはフェラーズがアヤを守るために空襲の目標を変更させた事に着目し、アヤを不幸にしない占領政策について考えていました。つまり普遍的な価値観として、恋人同士が行なう「愛」に基づいたプランは、そうでないプランに対して、往々にして高度な正解である事を知っていたのでしょう。逆に言えば、いかに合理的なプランであろうとも、愛の無いものは不毛なのです。

またフェラーズの専属通訳も家族を戦災で失った日本人男性でした。これもアヤをヒントにしたマッカーサーの知恵でしょう。フェラーズは彼と通訳の仕事を通して心を通わせて友情を育ませ、同時に、彼をも(その他大勢の日本人の記号)不幸にしないプランを求めていたのです。

マッカーサーには、直感的に、困難な任務の先にある正解の芽が見えていた。これは彼に限らずリーダーに必要な才能の一つでしょう。だから、マッカーサーは柄にも無く、自らの中にあるロマンチストな部分を宿したようなフェラーズを、自らの分身として送り出したのでした。彼ならきっと期待に応えてくれると信じて。

そんな折、フェラーズを不適格者だとして進言してきたリクターはマッカーサーにとって低次元の「うざい奴」だったのでした。リクターにご褒美の金一封を出すと言ったマッカーサーのオーラからは感謝や喜びは感じられませんでした。あれは彼一流のイヤミだったのです。案の定、リクターはやがて飛ばされることになります。

また、同時に「愛」と言えばフェラーズがアヤを守ろうとした気持ちは、誤解を恐れずにいえば、ある意味、日本国民が天皇を敬う気持ち、さらには戦争責任から擁護してきた気持ちと似ているのですね。天皇と国民は、権力だけではなく愛でも繋がっているのです。

でも当時の日本人は安易に「愛」などという言葉は使いません。もともと恋愛に対して奥ゆかしい日本人でしたから、ましてや天皇に対しては、かえって不敬にすらなりかねません。なにしろ、当時は、最高の敬意が後ろ向きになることですから・・・。そんな意味でも、皆、奥歯に物の挟まったような物言いで、もぐもぐと語るだけなのです。

強権行使ではなく「ともだち作戦」、いや、「作戦名・愛」を模索し始めたマッカーサー、でも、フェラーズ以外に理解者はいませんでした。異国の地での彼は、崇高な作戦の前に孤独だったのです。

しかし、最終決断のために昭和天皇と会見して、天皇から国民を想う気持ちを直に聞いて、ここにピュアな「愛」を見つけたのでした。マッカーサーは異国の地で、敵将に会って、初めて心の通い合う理解者にめぐりあったのでした。

この映画、私は面白く観えました。私もあんな上司(映画の中のマッカーサー)の下でなら働いてもかまいません!?

ただ、あの男、リタイアしたのち、第二の人生では、フェラーズの様な物腰の柔らかさを、天皇の様な上品さを身に着けないと、対等だと思って近づいてきた友達から、あまりにもの上から目線に、あきれて逃げられます。私でも逃げます。権力より、愛です。ご用心を・・・。

ハイブリットなすべての男たちに乾杯。

★★★★

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