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#ネタバレ 映画「あなたを抱きしめる日まで」

「あなたを抱きしめる日まで」
2013年作品
神のことは神に訊け
2014/3/26 16:27 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

いろいろあって、家族の葬儀をカトリック・スタイルで行ったときの事です。周囲からも事前に噂さが聞こえてきましたが、そのときの担当の老神父さんが、とても厳格な人だったのです。

詳しくは書きませんが、私の印象では、日頃、私たちが神父さんに対してイメージする「優しい人」とは離れた人物でした。神父さんというよりは、どこの学校にでも大抵一人は居る、生徒から見れば、厳しいだけで、あまり愛情の感じられない先生のようでした。

私が初めて接した生身の神父さんがそんな人物でしたから、聖書で学び、憧れていたキリスト教に、少し残念な気持ちを持ってしまったのでした。

オーバーに言えば、あのとき私は路頭に迷ったのです。

そう。当時の、私の気持ちを素直に表現すると、まさに迷った子羊、でした。

でも、この映画「あなたを抱きしめる日まで」を観て、やっと納得できたように思いました。この映画は、まさに福音です。

主人公のフィロミナは、10代で未婚のまま出産し、修道院から、その罪と罰を受けるのですが、それは、あまりにも理不尽なものでした。

それでも若いころには「しかたないこと」として甘受したフェロミナですが、さすがに50年間も経ってみると、それは「理不尽なことだった」と言わざるを得ないことに気がつくのです。

映画の後半、フェロミナは見知らぬ教会に飛び込み懺悔をしますが、そのシーンで、フェロミナの懺悔は終始無言のままです。あそこには、いろんな解釈ができそうですが、私は、一つには、フェロミナが目の前にいる人間を飛び越えて、神と直接、心で、会話していたのだと思いました。

フェロミナ:「私は10代のころ、確かに罪を犯しましたが、それは50年間懺悔しても、まだ許されないものなのですか?」

フェロミナ:「それとも、私が、現在も、まだ罪を犯し続けていると言うのですか?」

フェロミナ:「シスターに取り上げられた子どもに逢いたいのです。どうしたら再会させてもらえるのですか?」などと、語っていたのでしょう。

シスターに反感を持つ彼女は、直感的に、人間を飛ばして、神と直接会話すべきだと思ったのでしょう。

どんな社会にも人間臭い人というか、問題児が居ます。どこかで聞いた未確認統計では30人に1人の割合だとか。だいたい観光バス1台に1人程度。学校のクラスに1人程度。それは聖職者であっても例外ではないのでしょう。

この映画では、若いシスターたちが、自分たちがHの欲望を我慢してひたすら修行に励んでいるのに、隣にはHを自由に楽しんでいる同世代の女性がいることが、きっと妬ましかったのですね。

だから、彼女らが未婚で妊娠したと知ると、まってましたとばかりに、神の名を借りて、神の名を隠れ蓑にして、うっぷんばらしの汚い報復をしたのでしょう。

ラストでフェロミナが(シスターに)「あなたを許します」と言ったのは溜飲が下がりました。罪びとであったはずのフェロミナが、逆転して、神の代理人になってしまった感がありました。あの展開は、たぶん前段の、神との直接会話と対になっており、あれが神からの返信だったのでしょう。

直後に記者のマーティンが「僕は許さない」と言います。彼は無神論者ですから、人間界の世論が神ですね。その物差しからいえば当然でしょう。シスターの犯した罪の、罪深さは、身震いするほど、暗く、おぞましいものした。その極悪に気づいていないシスターがさらに恐ろしくもあります。荒れ放題の墓が証拠として雄弁でした。

主演のジュディ・デンチさんのしわだらけの顔が幾度となくアップで出てきますが、逆に、その、美しいこと。この映画で初めて、顔のしわは女性の美しさを隠せない、事を知ったのでした。

あそこにオバチャンの理想像がありました。

★★★★★

追記 (持たざる者は嫉妬する) 
2014/3/27 14:49 by さくらんぼ

若いころ、私はフォルクスワーゲンの名車「ゴルフ」が欲しかった。三角窓の付いた、名デザイナーのジウジアーロ氏がデザインした初代ゴルフのことです。

あの車、デザインも最高なら、性能も最高だった。実用車としては世界的な優等生です。だから憧れていました。

でも、当時、似たスタイルの国産車が約半値で買えたので、そんな中「ゴルフ」を選択する贅沢は、残念ながら私にはできませんでした。だから、乗っている人を見ると羨ましかった。

映画「あなたを抱きしめる日まで」の中でも、唐突に、他人様の乗る自動車が話題になっています。世界的なブランド車はもとより、単純に外車と言うだけでも、持たざる者にとっては羨望と嫉妬の対象になるのです。

唐突に話題になっているように、この映画の主題は「嫉妬」でしょう。

聖人は俗人に嫉妬し、俗人は聖人に嫉妬するのでした。

また、ジャーナリストのマーティンが身に覚えのない事でBBCを首になります。きっと彼が優秀なのでジェラシーを感じた同僚に足を引っ張られたのでしょう。

ニュースになっている様々なトラブルの陰には、一滴たりとも、そんな事がない事を祈ります。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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