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#ネタバレ 映画「リアル~完全なる首長竜の日~」

「リアル~完全なる首長竜の日~」
2013年作品
知らぬ間にサイバー戦争
2013/6/7 13:37 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

いつでしたか映画「病院で死ぬということ」を映画館で観たときから、私は延命治療をしないと決心しました。植物人間状態になって、体の苦しさから誘発された、もし覚めない悪夢を見続けたら、それこそ、この世の生き地獄ではないかと怯えたからです。ひょっとしたら夢など見ていないのかもしれませんが、そう言われても、うかつに信じるわけにはいきません。

幸いあの頃とくらべて、今は延命治療をしないという選択への世論の理解も深まってきたと感じられるので、なんだかホットしている今日この頃です。そんな折、この映画「リアル」を観て、久し振りに、あの覚めない悪夢の話を思い出したのでした。

ところで映画「リアル」のチラシには、浩一と淳美の顔写真の半分だけが載っていますね。これは「ツインソウル」の記号ではないでしょうか。二人は時空を超えて惹かれあう運命のカップルだったのです。しかし、そんなこととは夢にも知らない、その他の男女が、我こそは恋人になるにふさわしい者、とばかりに接近してくるので、そこに悲劇が生まれたのです。

この映画では、子供時代には淳美をめぐっての三角関係があり、その際に浩一の心に住み着いた罪の意識が、首長竜(蛇は男性のシンボルなので首長竜も同じと判断。)としてシンボライズされているのでしょう。

そして、現在においても精神科医の相原が、浩一をめぐって淳美と執念の三角関係になっているのです。

きっとセンシングをする前の、精神科医自身の言葉による診察段階で、熱心に浩一と交流している内に、不覚にも惚れてしまったのでしょう。患者が医者に惚れるのは珍しくないようですが、今回は、その逆パターンなのです。

相原は、毎晩、浩一が一人で寝ている時に密かに近づき、熱く手を握り、話しかけ、架空の話しを信じ込ませ、淳美との恋愛関係が破綻するように仕向けたのです。浩一と淳美が逆転して、能動的なのが浩一だったのはそのせいかもしれません。いわゆるオレオレ詐欺も連想します。

首長竜は淳美と引き離して浩一を殺そうとし、相原は淳美と引き離して浩一を回収しようと(ハニーを横取りしようと)していたのです。いわば脳内スペースというサイバー空間を使用し、めぐり合ったツインソウルを分解させ、取り込もうとする、壮絶な、三角関係バトルが行なわれていたのです。

キャッチ・コピーの「きみを救うため、ぼくは何度でもきみの頭のなかへ入っていく」。これは、秘密作戦を遂行する相原の言葉でもあったのです。

この映画で恐ろしかったのはフィロソフィカル・ゾンビでした。かつて顔を見せない貞子の恐怖が一世を風靡しましたが、内面の無い、外面だけのフィロソフィカル・ゾンビの怖さも格別です。これは人型ロボットの不気味さに近いですね。

★★★★

追記 ( 宇宙戦艦ヤマト ) 
2013/6/10 13:18 by さくらんぼ

そして首長竜は突然海から襲ってきて、愛する人を海へひきずりこもうとします。それは津波の脅威にも感じられました。喰らいついてくるヌメッとした長い首は、まるで津波の波頭の様です。

目の前で流されていく人を救えなかった人は皆、悔しさ、申し訳なさを胸におさめて耐えているのかもしれない。

それから廃墟と残骸、いつ終わるとも知れない後片付け、そのボランティアにいかない人の、いくらかの良心の痛み。

原発も壊れ、放射能で故郷を追われた人も多いというのに、一瞬にして、家族、友人、知人、ご近所、学校の友達、会社の同僚、さらに昨日まで周りに在った家並みが丸ごと消滅してしまった人も多いというのに、あいかわらず何事も無かったように平穏無事な暮らしを続けている私たち。私たちは加害者でもないのに良心が痛い。

その良心の痛みから逃げるために「災害なんてもう忘れよう、無かったことにしよう」と心の深層では思い始めていたりして・・・でも、簡単には忘れさる事などできません。

そんな3.11以降の、日本人の集合的無意識が、この映画の基調低音(隠し味)になっていたのかもしれません。

映画「宇宙戦艦ヤマト」のシリーズが、実在の大和沈没で経験した日本人の集合的無意識的なトラウマを癒やすのに役立っているのだとしたら、この映画「リアル」も3.11で苦しむ人々の癒やしに少しでも役立てば良いと、監督はそんなことも思っていたのでしょうか。



(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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