見出し画像

#ネタバレ 映画「ファンタジア」

「ファンタジア」
1940年作品
「利き酒」で聴いている人もいるのか
2015/6/28 15:52 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

子供のころの話、母とデパートで歩き疲れた帰りに、タクシーに乗ったことがありました。

そう言えば、あの頃のタクシーは、きまってAMラジオが鳴っていて、それを、ぼんやりと街の電線など見ながら聴いていました。

なぜ、覚えているのかと言えば、カーラジオの音が格別によかったからです。

たしか自宅ではまだ真空管ラジオで、ぴ~ぴ~、ガーガー雑音が入って不安定な音でしたが(ラジオが温まると同調がズレてくる)、なぜかカーラジオの音はうっとりするような安定した美音でしたから。それは、まるでビロードのような触感でした。帰り道にそれで聴いた流行歌は、ほんとうにおいしかった。

「ビロードのような感触の音」。

あれが「音を見ていた」最初の記憶かもしれません。

いえ、見るだけではなく「音に触ってもいたのです」。音を聴覚だけでなく、視覚と触覚でも感じていたのです。でも、たぶん生まれつきの感覚なので、数年前まで、自覚することが無かったのでしょう。

「共感覚」という言葉があります。

詳細は長くなりますので、興味のある方はネットでご覧いただきたいのですが、一口で言うと、一つの刺激(たとえば音)などから、聴覚だけでなく同時に複数の感覚(たとえば視覚と触覚)にも刺激を感じることを言います。

有名な共感覚の例としては、モノクロ印刷の文字を見ても、文字にいろんな色がついてみえる事例です。

しかし私は、文字に色は見えません。なので他人様には自信をもっては言えなかった。でも、ある日、図書館で本を見つけて、あるていどの確信を持ちました。やっと自分の異感覚にも名前が付いたと、自分自身で安心できたのです。

その本は「ねこは青、子ねこは黄緑(共感覚者が自ら語る不思議な世界)」パトリシア・リン・ダフィー著/石田理恵〔訳〕です。

長いので全文を書くことはできませんが…

『トーキーと話をしているうちに、彼の場合、音楽を聞くと視覚と触覚が刺激されるのだが、それがあまりに鮮明なため、観客もそれを知覚していると錯覚してしまうことがあるとわかった。

「曲を指揮する時は、色だけはでなく、形など、誰もが見ている音楽の現象をも活用するようにしているんだ」と言うのだ。

そして空に円を描きながらこう続けた。「フレンチ・ホルンの音は丸」、人さし指で空気をつつくように動かしながら「トランペットの音は先が尖った感じ」、指をすり合わせながら「フルートは綿のような音」、すべすべした表面を指でなぞるかのように動かしながら「クラリネットは滑らかな音。まるでヒョウの毛皮のような感じ」と言う。

そこで私は彼に念を押した。これらの描写を比喩として理解できる人は多いだろうが、ほとんどの人は実際にはフレンチ・ホルンの音は丸いとか、トランペットの音は先が尖っているとか、フルートの音は綿のようだとか、クラリネットの音はヒョウの毛皮のようだとかとは知覚しないものなのだと。』

( 6章「作曲家マイケル・トーキーと音楽の音色」より抜粋 )

これを読んだとき、私は喜びのあまり、孤独な砂漠で親友にめぐりあったような気分になりました。それどころか「これは私だ」とさえ思ったのです。

すでに私は、他のレビューで「気やオーラが見える」とも、お話ししました。その上さらに「音が見えて触れる」などと言おうものなら、さすがに気味悪がって逃げだす人もいるかもしれませんね。でも私は正常ですし、隠さなければならない悪いことではないので、勇気を出して今日はお話ししました。

この本には、さらに面白い絵も載っていました。

それは「マーク・サファンの作品(無題)。彼は、このイメージを思い浮かべるとチェロの音色が聞こえてくるという」と付記された絵でした。

ここで言う彼とは誰なのかは、今、手元にあるのは本の抜粋コピーだけなので分かりませんが、絵を見ると、チェロだと言われれば、私にもチェロの音との関連は分かるのです。

絵はここに載せられないので、以下は絵を文章化した私の解説です。

「それは、空に雲が浮かんでいる絵です。

モノクロ印刷ですが、茶色いインクを使っています。

左下の1/4ほどに、タイル状に割れたガラスのようなものが、数枚描かれていています。

ガラスは角が尖っています。

ちょうどカッターナイフの刃のように鋭利な感じのタイル。

透明なタイルなので、向こうの空や雲が、タイル状にゆがみながらも透けて見えます。」

どうでしょうか。

絵のイメージは出来ましたでしょうか。

私が想像するに…

この絵の、茶色い色は、チェロの落ち着いた音色の、イメージカラーです。

カッターナイフのような鋭角なタイルは、チェロの弓が弦をひっかくと気のガリっという刺激音です。

それが全体の1/4と言うのは、刺激音の音量でしょう。

背景の空と雲は、チェロの胴鳴りです。雲のようにふわ~っと拡散しますから。

チェロだと言われれば、私もチェロの音色を感じることができます。でも、音を見て触る、のは容易でも、絵から音源の種類を特定する、のは難しい。

むろんイメージですから、この絵に限定されることは無いのでしょう。例えば「コンクリートブロックの塀の3/4に何かの毛皮が干してある写真をセピア色印刷」しても、完成度や芸術性はともかく、似たような感触になりますからね。

ところで映画「ファンタジア」ですが、

これはクラシックの名曲からイマジネーションされる物語をアニメで描いた名作ですね。子供のころ親せきのおじさんと一緒に映画館で観ました。まだ、わが家にはステレオもクラシック音楽のレコードも無かった時代に、絵に合わせて動く音も新鮮で、忘れられない一本になりました。

しかし、あれは、音を共感覚を用いてダイレクトに視覚化したものでは無いので、もし共感覚で作ったらどうなるのだろうと想像してもみましたが、たぶん…5分程度の短編作品で前座上映にするのが良い塩梅で、2時間もの長い作品にしてしまうと、観る方が疲れてしまうと思います。

やはり音は、良いオーディオで、チェロの松脂が飛んでくるような鮮度の高い音だとか、美人歌手の喉ちんこが見えそうにリアルだとか、そんなふうに、ぶつぶつ言いながら、楽しんだ方が良いようです。

★★★★★

追記 ( 初恋の声は ) 
2015/6/29 22:40 by さくらんぼ

森山良子さんが20代の頃からのファンでした。

生まれて初めて買った30センチLPレコードも彼女のものです。

初期の、彼女の歌声は①「バケツからタンクへ注がれる温かいミルクの流れ」のように見えました。

その後、彼女は、その美しいミルクトーンだけでなく②「手で引きちぎったブリキ板(実際にはひきちぎれないと思いますが)」のような声も目立つようになり…

やがて、ロック・ギタリストが、わざと歪ませた音を出すように③「新雪の朝、雪の上に点々と飛び出している庭木の小枝」みたいな声も出すようになったのです。

個人的嗜好を言えば、①が大好きです。

②は、ときどき、スパイス程度なら許容範囲かな。

③については、当時は、「何かの間違いであってほしい」と切に…そして、とうとう、このあたりで、ついていけなくなって…

あれから何十年かたちますが、今ふりかえると、彼女の①は「初恋の声」でした。

ですから、今でも、その系統の歌手をみつけると、ついCDをポチってしまいます。たとえばノラ・ジョーンズさんがそうですね。

と、そんなことを長年思っていましたが、これも共感覚的な感想なのでしょうか。

森山良子さんの最近のCDは買っていませんが、今はどんなお声なのでしょう。私は女性の歌が好きですが、例外的に、直太朗さんの歌(雨に濡れて形が少しゆがんだ段ボール箱てきな声)は大好きです。比喩は上品ではないかもしれませんが、決してけなしてはいません。今は、息子さんも応援しています。

追記Ⅱ ( 味覚、視覚と、聴覚 ) 
2015/6/30 6:28 by さくらんぼ

ドレッシングも何もかけていないレタスの、くすんだ緑味は、シンフォニーの音に感じます。

むかし好きだった安物の輸入ワインの味には、新品(より刺激的)で安物のツイーター(高音専用スピーカー)から出る、質の悪い汚れた高音みたいな雑味が残りました。

そして、日本酒ですが、一般的には、ポリプロピレン(よくタッパーウエアなどに用いられる半透明の柔軟な合成樹脂)を振動板に用いた、ロジャースのスピーカーの音、あるいはポリプロピレン自体の共振音、とでも言った方が良いかもしれません。それを感じます。

もし、その日本酒が安物だった場合には(私が飲んでいるような)、ツンと鼻をつくアルコールの刺激臭がすることがありますが、あれからは、セットしたばかり(いわゆる新品)の安いスピーカーコード(たとえば赤黒・白黒のコード)が鳴らす、高音のしゃくれ上がった刺激音に感じます。しばらくすると接点が酸化してくるのか、刺激音も多少落ち着きますが。

例えば、何とかタワーがライトアップされているとき、タワーの内側の色が外側と違う場合には、その内側からはラジカセが鳴らす様な、やや刺激的な中音域を感じます。外側にアンテナなどが雑木林のように密集して付いていれば、昔遊んだゼンマイ式のオモチャの戦車の様な、心を削り取るような不快感と紙一重の走行音を感じます。

でも、それは望遠レンズで、これでもか、的にアップにしたときの話。もし遠景で見れば、きっと夕涼みにもってこいの風情であり、美でしょうね。

私の場合、これを聴こえると言うのか、ただ感じているだけなのか、よく分かりませんが。



(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?