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#ネタバレ 映画「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」

「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」
2015年作品
優先順位
2017/1/15 11:22 by さくらんぼ


( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

上映途中でハッと気づきました。「私だけでなく観客全員が息をひそめ、今、事の成り行きを見守っている」と。こんな一体感はめずらしい。

映画「ヒトラーの忘れもの」の、ドカン!と来る動物的な恐怖に打ちのめされたら、今度は「大人のTVゲーム」に真綿で首を締めつけられ、己の限界を感じてほしい。ほら、トランプ・ゲームをしているあなたも。

★★★★★

追記 ( 優先順位 ) 
2017/1/16 14:51 by さくらんぼ

この映画にもありましたが、私たちの日常にも、トイレの個室でケータイが鳴り、しかたなく電話に出る人がいます。そのときトイレの個室だから電話に出ないのか、個室でも出る必要があるのか、それは緊急性というか、優先順位の問題でもありましょう。

そしてそれは男女差別の問題にも発展します。

今でこそ日本でも護衛艦の艦長をしている若き女性もいらっしゃいますが(素直に尊敬)、軍隊という場所は長らく男性の仕事場でした。そこに入ってきた女性と男性の間には、優先順位と言うか、差別意識・被差別意識はないのでしょうか。

この映画の冒頭にも、女性の将校キャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)に無断で、ドローンか何かの装備を変更し、パウエル大佐が不快感を表明するシーンがありました。けっこう重要シーンのはず。

あの直後に作戦会議が開始されます。パルエル大佐の決意には「男性になめられてたまるか!」とのバイアスが密かにかかったのでしょう。「男性よりも雄々しく」振るまいます。

そして「軍人・(ここでは男性の記号)」を小ばかにし、「軍人は戦争の代償を知らない」と言ったもう一人の女性幹部は、逆に「あくまでも女性であろうとしている」様に見えました。

では男性たちはと言うと、多くは決断を避け、責任回避に走ります。仲間の冷ややかな視線の中でも、それ以上の能力はありませんでした。

たしか「国家の品格」(藤原正彦 著)の中に、「どの論理を選択するかは、その人の『情緒』による」との趣旨の話が出てきます。つまり、情緒の段階で道を誤り、論理だけに走ると、「筋だけが通った誤り」に到達するわけです。

これが怖い。

ヒトラーとか、デンマークの地雷撤去の話、なんかもそうだと思いますが、ふと映画「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」の作戦会議からも、その話を思い出したのでした。

追記Ⅱ ( マーケット ) 
2017/1/16 15:17 by さくらんぼ

ミサイルのターゲットになる、テロリストのアジト前で、突然9歳の少女がパンを売りだしました。なぜ、こんなシナリオにしたのでしょう。

たぶんアジト前を「マーケット」にしたかったからでしょう。

ご承知のとおり、テロリストたちは人がたくさん集まるマーケットなどで自爆テロを行います。つまり、あの場所にミサイルを撃ち込むことは、英米による自爆テロにも等しいと映画は言っているのです。

特殊部隊を送り込んで、少女を逃がし、地上戦をするならまだしも、問答無用の遠隔操作ミサイル攻撃です。攻撃される周辺の身になれば、その驚きは爆弾テロと同じです。

ヒトラーを恐れた者たちが、地雷撤去で少年にヒトラーのような残酷をしいたように。これも同じなのでしょう。たとえ作戦が成功しても、苦い後味が残ったのはそのせいです。もっと言えば「彼らの良心が、お前も同じ卑怯者だと叫んでいる」。

そして苦悩する作戦会議室は、どこかの国のマーケット移転問題で、有害物質が出て移転が不透明になっていることを連想させます。そうです。非情にもあの少女が、作戦遂行上の、有害物質です。

追記Ⅲ ( 阿吽の呼吸 ) 
2017/1/16 16:08 by さくらんぼ

紆余曲折逢ってミサイルは発射されました。

なぜ発射されたのか、それは少女への被害率を計算する男が、パルエル大佐の「攻撃したい」という気持を忖度し、被害率を「改ざん」したからです。男がこの後、結果的に出世できたにせよ、出世欲ではないでしょう。あえて言えばパルエル大佐を尊敬していた。人間として好きだったのです。あるいは少し気が弱かったのかも。

男はパウエル大佐の再々計算の依頼を受けるとすぐに「ここなら45パーセント」だと答えました。つい先ほどまで「不可能」だと言っていたのに、時間がかかる再々計算もせずに、暗算でもしたように即答したのです。

そして、その時の目には、苦労の末にやっと正解を見つけた歓びや自信の色はなく、苦悩と怯えの色が浮かんでいました。

パウエル大佐は一目でそれを察知した。しかし、わざと騙されることにしたのです。そして、ミサイルは着弾し、とうぜんに想定外の被害が出た。

パウエル大佐は男に「被害率は45パーセントだったと報告書に書きなさい」と念を押しました。これは「すでに私たちは共犯関係です。あなたは死ぬまで45パーセントだと言い続けなければなりません」と言ったのと同じです。

追記Ⅳ ( 「戦争で一番最初の犠牲者は真実である」 ) 
2017/1/17 21:51 by さくらんぼ

>なぜ発射されたのか、それは少女への被害率を計算する男が、パルエル大佐の「攻撃したい」という気持を忖度し、被害率を「改ざん」したからです。… (追記Ⅲより)

映画の冒頭に、こんな言葉が出てきます。「戦争で一番最初の犠牲者は真実である」。

この言葉がどこにかかるのか、と言うと、それが秘めやかな「被害率の改ざん」エピソードなのでしょう。

追記Ⅴ ( 欲望は嘘を生む ) 
2017/1/17 22:30 by さくらんぼ

>映画の冒頭に、こんな言葉が出てきます。「戦争で一番最初の犠牲者は真実である」。(追記Ⅳより)

では、それが主題なのかというと、私はこう思っています。

作戦を成功させたい、上司の希望に応えたい、という欲望が、担当者に嘘をつかせました。

そしてナイロビの少女と父は、狂信者に内緒で、西洋の玩具であるフラフープを楽しみました。

さらに、私の記憶が確かなら、少女を早く逃げさせるためにパンをすべて買おうとした潜入メンバーは、「代金の先払い」をしました。しかし直後に敵に見つかり、パンを放りだして逃亡。

すると少女は地面のパンを拾って、素知らぬ顔で、再び売り始めたのです。つまり二倍の利益を目論んだ。しかし、その為に逃げ遅れて…これはある意味、少女の欲望が生んだ悲劇、とも言えるのです。

つまり主題は「欲望は嘘を生む」という事かもしれません。自爆テロからして騙して潜入するわけですし。

追記Ⅵ ( 修羅場での武装解除 ) 
2017/1/17 22:36 by さくらんぼ

少女がミサイルに倒れた直後、両親が走ってきて少女を抱きかかえ、到着した機関銃を乗せた軽トラックに「助けてくれ!」と叫びます。救急車代わりにしたいわけです。すると、すぐに兵士たちは台座ごと機関銃を外してスペースを確保し、3人を乗せたのでした。

ナイロビの兵士たちは、ミサイル着弾直後の修羅場でも、武装解除して、少女の救出に走ったのです。ここは英米の作戦指令室のクールな空気とは対照的に作られているように思います。

追記Ⅶ ( 「もう、お開きにしませんか」 ) 
2017/1/19 10:14 by さくらんぼ

私たちはこの映画で、「神の視点で戦争を俯瞰できる」のです。映画を観てレビューを書いた、今の私の感想は、どんな大義名分があろうとも、「つくづく戦争はばからしいものだ」という当たり前のものになりました。仲裁に入って両者に映画を観せ、「もう、お開きにしませんか」と、そんな気分です。

追記Ⅷ ( 確率計算の先にある良心の痛み ) 
2017/1/20 9:19 by さくらんぼ

「1人の少女の犠牲で80人を救うべきか」が映画の中で問題になっています。

でも、1人でも犠牲にしたら人間の良心が痛みます。コンピューター君に良心は無いので、平然と確率計算をしてきますが、それだけで人の心は割り切れません。

この映画が真に問いたいのは、「確率計算の先にある良心の痛みをどう考えるか」でしょう。

「痛み」という警告サインがある以上、そこはまだ人間にとって「正解ではない」可能性が大変高いのです。

追記Ⅸ ( オモチャは成長すると手放すもの ) 
2017/1/21 14:45 by さくらんぼ

その昔、核兵器という名のオモチャを持った人類は、「最高の武器」だと思って使いました。でも威力がありすぎて「使えない武器」だと分かり、現在に至ります。多くの犠牲を払い、人類は少しだけ賢くなりました。

今、ドローンを初めとする無人・ロボット兵器というオモチャを研究する人類は、これこそ「最高の武器」」だとして使い始めました。しかし、それは神の領域に踏み込むことでもありました。(ここから未来の話→)やがて「使ってはならない武器」であると悟ります。人類はまた少し大人になりました。

この映画「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」には、お人形さんとか、フラフープとか、TVゲームとかのオモチャが出てきます。なぜ戦争映画にオモチャが出てくるのか、それは「人が大人になる過渡期に手にし、成長すると手放す」ものだからです。

映画のラストで一発目のミサイルが着弾し、テロリストの女と、9歳の少女の二人が瀕死の重傷を負いますが、まだ動いています。

①英米は女テロリストめがけ、ドローン(オモチャの意味)から、とどめの二発目を撃ちます。

②ナイロビの兵士たちは機関銃(オモチャの意味)をトラックの荷台から撤去(武装解除)し、9歳の少女と両親を乗せて病院に運びます。

対照的な①と②には、きっと、そんな意味が込められているはず。

追記Ⅹ ( 映画「眼下の敵」 ) 
2020/3/24 14:28 by さくらんぼ

追記Ⅹは、映画「眼下の敵」の追記Ⅳに書きましたので、よろしければご覧ください。

追記11 ( 戦場で使用か AI兵器 ) 
2021/12/17 9:15 by さくらんぼ

「 空飛ぶ殺人ロボット、戦場で使用か AI兵器、世界初? 」

(朝日新聞デジタル)

追記12 ( 勝てば官軍 ) 
2021/12/17 9:29 by さくらんぼ

AI兵器については世界各国いろいろな考えがあるようです。

①自立型と言いましょうか、自分で攻撃の判断をする兵器と、②遠くから人間が攻撃の判断をする兵器とがあるようですが、②の場合には引き金を引くまでのタイムラグが発生しますから、①②が敵味方に分かれて戦えば②は負ける可能性が増えるのではないでしょうか。

映画「トップガン」の主人公・天才パイロットのマーベリック(トーマス・クルーズさん)が、教官から「どのように考えてその操縦をするのだ」と聞かれ、「(条件反射のようなものだから)考えていない」「考えていたら負ける」と答えていたのを思い出します。

しかし、①のように機械に判断させれば、誤爆を含めた不適正な攻撃をする心配があります。でも、(残酷な表現であることを承知で言えば)その小規模な被害を回避するために②を導入し、「勝てば官軍」の戦争に負けることもあるわけです。

そして、交通事故を考えれば分かりますが、人間とて間違いをしますし、「小規模な被害を意図的に出しても戦争に勝つ」という戦術は、映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」にも描かれております。

つまり誤爆はAI兵器に限ったことではないし、時に人間はそれ以上の非情を行うという事です。

さらに、①を使う国には、人権意識が低い国が多そうだという心配があります。そして、そのような国に戦争で負けるのは、さらに悲劇です。

これは一つの視点の提示であり、私が①の推進派という事ではありません。

追記13 ( 「日本沈没ー希望のひとー」 ) 
2021/12/17 9:33 by さくらんぼ

(  以下、TVドラマ「日本沈没ー希望のひとー」のネタバレにも触れています。 )

TVドラマ「日本沈没ー希望のひとー」のラスト近く、当然ですが公務員なども避難する時間が必要だとして(最後まで残っている中枢部の公務員などが全滅してしまうと、移民先での適切なリーダーがいなくなる恐れもありますし)、確か200万人余りの北海道の避難希望者を置き去りにしていく決断を総理はしました。その200万人は最後まで避難を渋っていた人たちのようですから、半分自己責任みたいなところもありますが。

結果的に北海道は沈没を免れましたが、そうでなければ、200万人は海に沈んだのです。何も言いたいのかと言えば、大きな作戦を成功させるためには、時に犠牲もやむを得ないという決断が、日本でも起こりえるという事です。新型コロナでの医療崩壊も少し連想しました。


( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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