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#ネタバレ 映画「男はつらいよ 寅次郎頑張れ!」

「男はつらいよ 寅次郎頑張れ!」
1977年作品
実は逆転している寅さんの世界
2015/6/5 21:43 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

私の知人に「寅さんみたいな奴が親戚にいたら困る」と言う人がいます。私も同感。。。

たしかに今まではそうでした。

でも、久しぶりに寅さんを観たら、ちょっと印象が変わってきたのです。

これは、寅さん全シリーズに共通の話ですが…

今まで寅さんは、ガサツな男、と言う印象でした。「とらや」の住人は皆紳士なのに。

しかし、最近は、寅さんは紳士なのに「とらや」の住人はどうも・・・と言う印象に変わってきました。

逆転現象。

目で見た印象や、すぐに大声を出しておこる、など、表面的なことを言えば、もちろん寅さんがガサツです。

でも、内面的なものを見れば、そうではないと感じ始めたのです。

ただし、とらやの住人が全員と言うわけではありません。さくらや、その夫などは、少し違います。

しかし、下絛 正巳さん、扮する、おいちゃんは・・・。

あのキャラは、寅さんと正反対でした(年齢のことではありませんよ、あくまで内面のことです)。

実は、寅さんは、浮世離れした、アーティスティックなロマンチストだったのです。でも、見た目があれだから理解されない。

おなじみの寅さんの失恋話も、私が見る限り、(寅さんに惚れてるそぶりを感じさせる)女性の無神経!?が寅さんの傷口を広げていました。

そして、久しぶりに観た、この映画「男はつらいよ 寅次郎頑張れ!」は面白かった。

中村雅俊さんも大竹しのぶさんも、良い味を出していて好感が持てました。あの大竹しのぶさんには、私も惚れてしまいそう。

寅さんの美しさに気がついたら、

主題さがしを忘れてしまいました。

★★★★

追記 ( 寅さん映画は「才と徳」 ) 
2015/9/25 21:57 by さくらんぼ

7年ぐらい前に、山田 洋次監督の講演を聴いたことがあります。

当然、寅さんの話もありました。それによると、私の記憶違いでなければ「高度経済成長期になり、経済優先の社会の中、人々が忘れていったものを描いたのが寅さんです」と、正確ではありませんが、そんな意味のお話をされたのを覚えています。

そして、最近、ある方のツイッターで「才と徳」についても勉強させていただきました。

その、山田監督と、ツイッターのお話と、両方の情報を合わせてみましたら、寅さん映画の構造が分かったような気がします。

つまり「寅さんは徳の神(記号)」であり、その他大勢の登場人物は、高度経済成長に代表されるように、利益を最大化することを是とする「才」の記号なのでしょう。

寅さんが旅先で出あった女性たちは、そのほとんどが、寅さんを慕って東京のとらやまで、はるばる、やってきます。その瞬間、たぶん潜在意識では寅さんに恋してる。でも、陰にいた別の恋人(才)を無意識に再選択し、去って行くのです。

これは、人々が、寅さん映画の人気があるように、寅さんを求めつつも、寅さんではなく、経済を選択した時代と重なるのでした。

もちろん、人情喜劇ですから、随所にデフォルメがあったり、非該当な部分もありますが、概ねこのような構造なのではないでしょうか。

本日も、録画していた「徳の神」を拝んできました。ご利益がありますように。

追記Ⅱ ( 2度観必見の映画 ) 
2015/9/27 21:06 by さくらんぼ

「寅さんが徳の神」ならば、映画のラストで、いつもきまって片思いの女性から振られ、哀しみながら、寅さんが去って行く、あの、もてない男子にとって無念の思いがよみがえる理不尽なシーンは、寅次郎の失恋であるよりも、「捨てられた徳の神の姿」と、とらえた方がより真実に迫るのでしょう。そう気がつくと、あのシーンは必要悪に昇華されます。

いったんは徳に惚れながらも、やっぱり才を選び、経済成長の坂道を登っていった人々を、残された徳の神は、どのような気持ちで見送ったのでしょう。そう考えると、寅さんも「2度観必見の映画」になってしまいそうです。

追記Ⅲ ( 他の寅さん作品もおもしろい ) 
2015/9/28 7:36 by さくらんぼ

申し遅れましたが、このレビューは、最初こそ映画「男はつらいよ 寅次郎頑張れ! 」のレビューを書くつもりでしたが、どうやら寅さんシリーズ全体を総括したレビューになってしまいました。もしDVD購入の参考にされる方はご注意ください。言い換えれば、この作品も面白いですが、他の寅さんシリーズを買ってもきっと面白いです。

追記Ⅳ ( 寅さん映画にあるリアル ) 
2015/9/28 8:46 by さくらんぼ

何十年かぶりに会いました。顔も忘れかけていた、幼い頃の同居人にです。その人とは笑顔で10分ほど話をしただけ。でも彼は、寅さんのような存在感を残して帰って行きました。

寅さん映画では、旅先で知り合った女性たちが、寅さんに再会したくて、皆、とらやにやってきます。今回、初めてその気持ちが分かる気がしました。

寅さんの、温かく、ぶ厚いパワー感。その強いエネルギーの真(まこと)にひと時でも包まれた人は、今までの人生で出逢った、その他大勢の人とは、まったく別格のサムシングを感じとり、まるで一目ぼれの恋でもしたかのように、ふらふらと…気がつくと、ほんとうに、ふらふらと、寅さんの家にやってくるのでしょう。これもまた、どなたかも言っておられた「徳」と言うものの一つなのかもしれません。

この稀有な体験をしてから、寅さん映画にあるリアルが感じられるようになったのです。

追記Ⅴ ( リアル寅さん ) 
2016/12/1 18:19 by さくらんぼ

「喪中につき新年の…」。先日ポストを見たらそんな葉書がありました。今まで何枚も受け取ってきた喪中はがきですが、今回ばかりは言葉を失ってその場に立ちつくしました。

亡くなったのは若いころお世話になった上司です。すでに定年退職され、悠々自適の生活を楽しんでおられた方です。その様子はいつも年賀状から伝わってきました。

その方の個性をひと言で言えば「寅さん」でした。そのため嫌う人も少なくありませんでしたが、妙に私を可愛がってくれ、私にはあったかい人でした。

いつだったかお茶に誘われて「○○君、俺、定年までまだ〇年もあるんだよ。どうしたらいい…」と、部下であり、一回り以上も年下の私に、「仕事が嫌になった」と本音を吐露したのです。どこか愛嬌のある方でした。そのとき未熟者の私はなんと答えたのか…きっと「少しづつ有給休暇を使って、だましだまし仕事したらどうですか」とでも言ったのかもしれません。それでも上司は嬉しそうに聴いてくれました。

そんな上司も無事に定年まで勤め上げ、元気にリタイアされました。

今あらためて気づきました。失礼ながら、あそこに愛すべき「リアル寅さん」が居たのです。

追記Ⅵ ( 実は逆転している寅さんの世界 )
2018/1/4 10:07 by さくらんぼ

寅さんが「在日の人」をモチーフにして生まれた、差別の哀しみを描いたものなら(第一作目のレビュー参照)、寅さん映画の深層は、「寅さんを笑っている登場人物たちを笑うもの」だったのかもしれません。


(  最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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