#ネタバレ 映画「インファナル・アフェア」
「インファナル・アフェア」
https://eiga.com/movie/1089/photo/
2002年作品
一滴
2003/10/19 10:44 by 未登録ユーザ さくらんぼ (修正あり)
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)
「不本意な世界で生きる者の哀しみ、苦しみ」を描いた映画と言えば「藍色夏恋」、「グラン・ブルー」などもそうではないだろうか。他にも古今東西いろいろ有ると思う。
では、この「インファナル・アフェア」のセールスポイントはなんだろうか。全体の完成度もなかなかのものだが、他にも、いわゆる「イケメンの魅力」をムンムンさせている事と、映画が一枚の「地獄絵図」になっている事だと思う。
この「男の魅力」は男性でも感じるので女性ファンにはたまらないだろう。
また「地獄絵図」に関しては、ストーリーも単刀直入に善と悪の対立を描いているし、甘さなども無い。映像は北野ブルーを思わせるトーンで、しかも粒子を荒く演出している様で、とても効果的に仕上がっている。まさに冷ややかでヒリヒリするような、ムキ出しの「地獄絵図」である。
ところで、この映画はいったい誰のためのものだろう。リアルで「不本意な世界で生きている人」は、この映画は、鑑賞するには重すぎるのではないだろうか。
たとえば純朴な少女が出てくる映画、美しい海が出てくる映画、その中に一滴の哀しみが描かれている。
それは一滴にしか見えないのかもしれないけれど、本当はそうではない事を観るものは知っている。
主人公がさり気なく振舞う姿に、言葉では上手く説明できなくても不思議と魅かれる。癒される。だから繰り返し観たくなる。私はそんな映画に旅してみたい。
追記 ( ラストシーンです )
2003/10/19 11:02 by 未登録ユーザさくらんぼ
エレベーターは映画の中で効果的に使われるが、この映画でもラストはエレベーターが出てきた。「変化のシンボル」エレベーターである。
体をドアに半分挟まれたまま息絶える男は、身分が完全に回復しないうちに人生を終えた。
そして、後の男二人は移動するエレベーターの中で人生に決着をつける。次にドアが開いたときには総てが終了していたのである。
追記Ⅱ (「地獄絵図」)
2003/10/22 6:50 by 未登録ユーザさくらんぼ
なぜ「地獄絵図」が描かれたのか、それは男たちのドラマを効果的に演出するためだと思う。
むかし健さんなどの映画ではよく「冬の北国」が舞台になった。その寒々とした風景は健さんの心象風景だと思う。しかし、あれは美しい風景だった。
それを「インファナル・アフェア」では、ブルーでザラリとした画面に独特のカット割を使い、「地獄絵図」として描いている。もちろん両者は同じではないが、登場人物を効果的に魅せる舞台セットとしての機能は同じである。
それで1+1=3(登場人物+舞台セット=相乗効果)を狙っているのだろう。
しかし、私には1+1=0になってしまったのだ。
なぜだか不思議だったが、たぶんそれは「地獄絵図」の不快に対し、私は心を閉ざして防衛体制をとったからだと思う。触るとイソギンチャクが触手を引っ込めるのと同じである。
映画鑑賞では、普段は心を全開にして画面と対峙する。日常生活とは正反対の快感である。しかし、この映画は例外だった。
この映画にも男たちの熱いドラマは存在する。しかし、たぶん、そんな理由で味わえなかった。これは監督にとっても予定外の出来事だと思う。
追記Ⅲ (バラード)
2003/10/25 17:09 by 未登録ユーザ さくらんぼ
カセットテープの時代、私はFMラジオから録音していた音楽を聴きながら夜を過ごす事が多かった。
でも美しいメロディーでうっとりしていると、突然音楽が止むことがある。テープがエンドになったのである。
経験のある方もいらっしゃると思うが、その時の心のショックはとても大きい。美しい音楽で無防備状態になった心は、そんなささいな事でも衝撃を受ける。
映画「インファナル・アフェア」の中になぜかオーディオのエピソードが出てくる。
たぶんオーディオマニアの大多数は男なので、男の趣味、男の世界、のシンボル的な意味合いも有るのかもしれないし、それにピュアな世界を求める趣味なので、ヤンがオーディオマニアだったのは、満たされぬ世界で生きているがゆえに、ひと時の現実逃避をはかっていたのだろう、ともとれる。
ヤンがオーディオマニアだった事は状況や言動からたぶん間違いないと思う。しかしラウは違うのかも知れない。あのシステムは初心者が気軽に購入するグレードではない。
もちろん初心者が購入しても良いが、その場合、オーディオマニアなら目をギラギラさせて機械の吟味をする。あのグレードの機械を購入しようとする初心者なら、相当のこだわりが有る筈だ。しかしラウからはその情熱は感じられなかった。
もっとも、枯れた境地になると、選び方に淡白になる人もいるが、ラウにはまだその雰囲気はない。
ラウにとっては高級であれば良いようだ。他人の評価ではなく自分の琴線に触れるかどうかといった、厳しいオーディオ選びの本質や知識は薄く感じられた。
あのオーディオシステムはラウから妻へのプレゼントだったのかもしれない。ラウの部屋でソファーのオットマンがお気に入りのサイズではないから取り替えるなどといったような夫婦の会話がある。夫婦はインテリアにもこだわっている様だ。
ラウは忙しくてなかなか家にも帰れないので、寂しく待つ妻のために、高級AVシステムや、すわり心地の良いソファーをプレゼントしていたのだろう。
ところがある日、ヤンが電気屋を装ってラウの正体を暴露したCDを置いてゆく・・・。
ラウが家に帰ってくると、妻が怯えた様な顔で待っていた。私にもその時の妻の気持ちが分かるつもりだ。
聞きなれた美しいバラードに酔っている時に、突然それが中断するだけでなく、天地をひっくり返すほどの衝撃的なメッセージが入る。無防備状態の彼女の心はえぐられるようなダメージを受けた。ヤンの凄まじい反撃であった。彼女は共犯者ではない。はたしてシナリオライターは事の意味を理解していたのだろうか。
追記Ⅳ (「純なものの中に潜む不純なもの」)
2003/10/26 7:37 by 未登録ユーザさくらんぼ
ある意味では、シナリオライターも分かっていたと言えるのかもしれない。
「純なものの中に潜む不純なもの」という映画のエッセンスを考えれば、あのCDのエピソードは同じモチーフを使った洗練されたものだと思う。
また、ヤンとラウは、これで最愛の人を失うので、バランスがとれることになる。女性を排除し、極力男のドラマに仕立て上げるつもりなのだろう。そのため、残念ながら排除される女性の事までは考慮されていないシナリオなのかも知れない。
また、どなたかも言っておられたが、このドラマからはふと韓国映画のテイストが感じられる。では延長線上には何が見えるのだろうか。韓国では南北問題が深いところで影響を与えているドラマが多いとしたら、こちらはイギリスと中国なのだろうか。
追記Ⅴ ( オーディオマニア )
2003/10/26 15:46 by 未登録ユーザさくらんぼ
店舗でオーディオ製品を購入する最終決断をマニアがする時というのは、苦しみを味わっていることが多いと思います。
神経を集中させて、自分とは何ものか、この製品はなにものか、製品の絶対評価は、自分との相性の評価は、絶対評価と相性が違えばどちらを優先すべきか、その判断で将来にわたって満足できるか・・・。
その修羅場を知っているシナリオライター(監督)なら、あのように店舗のラウを淡白には描かなかったと思いました。
あれは友人の家に招かれて、寛いで友人のシステムを楽しむ風情です。
そうでなければ本文でも触れましたが、枯れた境地のベテランマニアが、何十年にも及ぶ修羅場の数々から直感的な感覚を身につけ、オーディオシステムと対峙しただけで、ほとんどろくに音も聞かずに判断する事がある場合ですが、それはラウの年齢を持ち出す必要もなく、きわめて特殊な事例でこのシーンには馴染みません。そんなふうに思って本文を書いたのです。
追記Ⅵ ( オーディオマニア② )
2003/10/26 18:01 by 未登録ユーザさくらんぼ
ラウが来店したときにヤンは店の隅でしゃがんでいましたので、私はスピーカーケーブルの結線をしていたか、真空管のストックを見ていたか何かと思いました。たんなる店番だったのだけれど、じっとしてはいられなかった。それはオーディオに感心が有る描写と思ったのです。もっとも二人がどれほどのマニアかといえば微妙なところですね。
追記Ⅶ ( 無防備のこわさ )
2003/10/26 20:43 by 未登録ユーザさくらんぼ
もし誤解があってはいけませんので、念のため繰り返しますと、私が追記Ⅲで書いたCDの件は、「はたしてシナリオライターは事の意味を理解してたのだろうか」という自問です。ヤンの事ではありません。そして、それは追記Ⅳで自答をしています。
追記Ⅷ 2022.10.23 ( お借りした画像は )
キーワード「純粋」でご縁がありました。意表を突く組み合わせですね。色も表情もおもしろいです。少し上下しました。ありがとうございました。
追記Ⅸ ( モールス信号 )
2003/10/31 22:23 by 未登録ユーザ さくらんぼ
実は、前から思っていたことがある。それはモールス信号のことだ。
刑事ドラマやスパイ映画、戦争映画などで、たまに「壁をコツコツ叩いたりして」モールス信号を送るシーンがある。
あれを正確に受信する事は本当はとても難しいのではないかと思う。ピー、ピーという本物の信号音ではないからだ。
ちょうど「インファナル・アフェア」にも出てきたので、この機会に少しだけ書いてみようと思う。別に映画の欠点探しをしているわけではないので誤解しないでほしい。ただの話題の一つだと思っていただければ幸いです。
例えば、A,B,C とモールス信号で打つと、
.ー -... -.ー.
A B C となる。
しかし、コツコツだけでは長音が使えないので、
.. . ... . .. . にもとれてしまう。
I E S E I E
つまり誤読される恐れがあると思うのだ。
モールス信号による交信においては、すぐに質問が可能な受信漏れよりも、誤読の方が問題視される。知らぬ間に情報が誤って伝わる事の方が大問題だからだろう。だから、コツコツのモールス信号は、私から見れば怖い。
しかし、人間の能力は素晴らしいので、本物のモールス信号の受信練習だけでなく、壁を叩いての送受信練習もすれば、そちらの勘も養われるのかもしれない。
でも、簡単にこの誤読の心配を無くす方法も有るのではないだろうか、単に壁などを叩くだけでなく、「引っかく」「叩く」を使い分け、「ジリジリ」「トン」と打てば良いのではないかと密かに思っているのだが、映画などではまだその様なシーンには出会ったことはない。
追記Ⅹ ( モールス信号② )
2003/11/1 14:48 by 未登録ユーザさくらんぼ
ところで、今の警察官や兵士が皆モールス信号で交信出来るのかどうかは残念ながら知りません。私は専門家ではないですが、昔少しだけ勉強したときには、すでに通信の主流では有りませんでした。でも、「無線通信に携わる人であれば、使わなくても当然知っているべき基本的な教養」の様な位置づけだったと記憶しています。
ただ、あれは本で勉強してペーパーテストで100点を取れたとしても、それだけではまず実用にはならないから面倒です。次々と音楽の様に流れてくる信号を、次々と詰まることなく言葉に翻訳していく必要が有り、考えている時間などないからです。送信についても同様に練習が必要です。
でも、仮に廃れていく運命だとしても、なぜかロマンは残りますね。
追記11 ( モールス信号③ )
2010/11/23 21:33 by さくらんぼ
> でも、簡単にこの誤読の心配を無くす方法も有るのではないだろうか、単に壁などを叩くだけでなく、「引っかく」「叩く」を使い分け、「ジリジリ」「トン」と打てば良いのではないかと密かに思っているのだが、映画などではまだその様なシーンには出会ったことはない。(追記Ⅸより)
映画「ぼくのエリ200歳の少女」を観たら、少年がモールス信号を使うシーンが出てきて、悲願の「ジリジリ」「トン」方式を使用していました(レビューが無い場合は順次掲載予定)。
「そうそう、そうでなきゃ!」と私は心でツブヤキながら感激していましたら、肝心の送信内容を傍受するのをすっかり忘れていました。
あの映画はオススメです。
追記12 2022.10.24 ( 文体について )
いつも稚拙な文章で失礼しています。
ところで、私の文章は、今は「ですます調」がほとんどですが、このレビューを書いた当時は、「である調」にしようか「ですます調」かと迷っていたので、無意識に二つが混在しているようです。ご容赦ください。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)