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自律神経について

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中枢神経疾患における自律神経症候の病態生理学

序論中枢自律神経ネットワーク(CAN)は、視床下部、辺縁系(扁桃体、前部帯状回、島皮質など)、脳幹網様体などの領域から構成される重要なネットワークです。このCANは、自律神経系の中枢的な制御を担っており、その機能は体内環境の維持に不可欠なホメオスタシスと密接に関係しています。 CANの障害により、頻脈、多汗、高血圧などの多彩な自律神経症候が現れることが知られています。特に、脳卒中患者では突然死の頻度が高く、辺縁系を構成する右島皮質の病変との関連が指摘されています。また、成

唾液腺の自律神経支配

序論唾液腺は、生体における重要な外分泌腺の一つです。主要な唾液腺には耳下腺、顎下腺、舌下腺の3つがあり、これらは複雑な構造を持っています. 耳下腺は最大の唾液腺で、主に漿液性分泌を担います。顎下腺と舌下腺は粘液性分泌を主とし、唾液の粘稠性を高めています。これらの唾液腺は、様々な消化酵素や免疫関連物質を含む唾液を分泌し、口腔内環境の維持や食事の円滑な進行に寄与しています. 唾液腺の分泌機能は、自律神経系の二重支配を受けています。交感神経は血管収縮を引き起こし、唾液分泌を抑

ストレス防衛反応を制御する中枢自律神経系

序論ストレス反応は生体にとって極めて重要な防衛機構である。適切なストレス反応が引き起こされることで、生体の恒常性が維持される。一方で、オレキシン神経への抑制が弱いと、この反応が過剰になる可能性がある。また、オレキシン神経は睡眠覚醒サイクルの覚醒相の調節に重要な役割を果たしており、オレキシン神経細胞の脱落はナルコレプシーの発症につながる。さらに、ストレス誘発発熱においては、オレキシン以外の神経伝達物質が重要な役割を果たしている可能性があり、ストレス反応のメカニズムを詳しく解明

心理ストレスに対する交感神経反応と行動反応の中枢神経メカニズム

序論ストレスとは、人生の重大な出来事や環境の変化など、生体に過度の負荷がかかる状況において生じる反応です。ストレスが加わると、交感神経系が活性化され、体温上昇、頻脈、血圧上昇などの生理的変化が引き起こされます。長期的なストレスが続くと、高血圧や糖尿病などの生活習慣病のリスクが高まります。 また、ストレスは不安やうつ病、PTSDなどの精神疾患の原因にもなり得ます。つまり、ストレスは身体と心の両面に深刻な影響を及ぼす可能性があります。ストレス反応の中枢神経メカニズムとして、

感情を生み出す脳と身体の相互作用

序論感情の認知神経科学的アプローチによる研究は、近年非常に盛んに行われており、感情のメカニズムについて多くの新しい知見が得られている。感情のメカニズムを解明することが、この分野の主要な目的である。感情に関する重要な問いとして、1)感情に関連する脳部位やネットワークがどのような役割を果たしているか、2)自律神経機能が感情の知覚や発生にどのように関与しているか、3)感情障害や自律神経障害を対象とした研究にはどのような意義があるか、などが挙げられる。 本論文では、まずEmoti

Fight or flight と視床下部

序論生物は外部からの危険な刺激に直面した際、「戦うか逃げるか」の選択を迫られる「Fight or Flight」反応を示します。この概念は1929年にハーバード大学のWalter Bradford Cannonによって提唱されました。Cannonは、生命体がホメオスタシスを維持するために自律神経系や内分泌系を使うという考えを発展させ、外部の感情刺激が視床を活性化し、大脳皮質に伝わって情動体験が生じると同時に、視床下部が活性化されて身体反応が引き起こされるとしました。つまり、脊

精神的ストレス時の呼吸反応における視床下部と中脳の役割

はじめに私たちの自律神経系は、内的・外的環境の変化に対してホメオスタシス(恒常性の維持)とストレス適応の2つの異なるメカニズムで対応しています。前者はフィードバック制御によるもので、後者はフィードフォワード制御によるものです。精神的ストレスは、行動変化と交感神経活動の亢進を伴う自律反応を引き起こすことが知られており、これは私たちが獲得した「生き残り戦略」の一環である防御反応に起因していると考えられています。 この防御反応の中枢として、視床下部背内側核(DMN)と中脳中心灰

自己免疫性自律神経節障害

序論自己免疫性自律神経節障害 (Autoimmune Autonomic Ganglionopathy: AAG) は、自己免疫の異常により広範な自律神経障害を引き起こす後天性の疾患です。AAGにおける中核的な免疫異常は、血清中に存在する抗自律神経節アセチルコリン受容体 (ganglionic acetylcholine receptor: gAChR) 抗体です 。この抗gAChR抗体は1998年にMayo Clinicのグループにより発見され 、特発性自律神経障害患者の

自律神経障害はこう診断し治療する

はじめに自律神経障害とは、自律神経系の機能不全により引き起こされる様々な症状の総称です。自律神経系は交感神経と副交感神経で構成され、意識下で心臓、血管、消化器、排尿機能、発汗など、ほとんどすべての身体機能を調節しています。この自律神経系に何らかの障害が生じると、多彩な症状が現れます。 代表的な症状として、失神があげられます。失神は一過性の意識消失発作で、脳への一時的な血流低下が原因です。血管迷走神経反射や頚動脈洞反射により、末梢血管の拡張と徐脈が生じ、脳血流量が低下して

頭痛における自律神経機能

序論片頭痛は発作性の経過と自律神経系の関与が特徴的な頭痛疾患である。主な症状としては、発作時に一側性の強い拍動性頭痛を呈し、吐き気、光・音への過敏性などの自律神経症状を伴うことが多い 。また、脳血流の変化や発汗機能の異常も認められる 。 発作間欠期には交感神経機能が低下し、血管調節障害を引き起こす 。同時に、ニューロペプチドの変化により血管拡張が生じやすくなる 。さらに一酸化窒素の産生亢進により、その血管拡張作用が増強される 。これらの自律神経機能異常が相まって、脳血管の

運動とストレス:急性自律生理反応の生成メカニズム

序論自律神経系は、交感神経系と副交感神経系から成る神経系であり、呼吸、循環、消化などの身体の内臓機能を無意識のうちに調節している。運動時には、骨格筋での代謝需要の増加に伴い、交感神経活性が亢進し、心拍出量や血圧が上昇するなどの生理反応が引き起こされる。一方、心理的ストレス時には、恐怖や不安などの情動反応により、交感神経活性が高まるが、運動時とは異なる反応パターンを示すことが分かっている。例えば、恐怖時には徐脈が生じる。このように、自律神経系は運動やストレスに対して、適切な生

内受容感覚と感情をつなぐ心理・神経メカニズム

序論内受容感覚とは、自身の身体内部状態を感知する機能のことである。例えば、心拍数の変化、呼吸のリズム、胃の動きなどの感覚を意識的に認識することができる。このような身体内部からの信号は、感情の形成や自己認識に深く関係している。したがって、内受容感覚が果たす役割を理解することは、心理学や神経科学の分野において重要な研究課題となっている. 本研究では、内受容感覚が感情や情緒障害に与える影響を探求することを目的とする。情緒障害患者における内受容感覚の特徴を明らかにし、そこから得ら

感覚と情動から心身相関を考える

序論私たちの心と身体は密接に関係し合っており、一方の変化が他方に影響を及ぼすことが知られています。この「心身相関」という概念は、特に情動の理解において重要な意味を持ちます。なぜなら、感覚入力が情動を引き起こし、その情動が身体反応を生み出し、その身体反応が再び脳に伝わることで情動が変化するという、感覚と情動の相互作用が存在するからです。 本研究では、このような感覚と情動の相互作用が心身相関においてどのように機能しているのかを探究します。感覚入力から情動が生じ、情動に伴う身体

ライフスタイルと辺縁系!

序論近年、慢性痛やストレスなどの健康問題が深刻化している。その背景には、現代社会における「座り過ぎ」などのライフスタイルの変化が大きく影響していると考えられている。資料によると、「座り過ぎ」は虚血性心疾患や糖尿病、慢性痛の原因の30-95%を占めており、現代社会では慢性痛を抱える人が15-20%に達し、QOLの低下と社会経済的損失を招いている。 このようなライフスタイルの変化が、脳内の辺縁系(mesocortico-limbic system)の機能不全を引き起こしている