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【35話】ぶっとびカード②【まだ人間?】

最近身の回りが忙しい...

こんな生活をしている以上、せめて人とはちゃんと関わってたいと思うので、先輩の盆には顔を出したいし、後輩とは飲みに行きたい。

尊敬するD先輩にも、「フッ軽でいないとだめよ」と言われているので、なるべくお誘いには喜んで行きたいと思っている。


もう2年以上前になるだろうか、

とある盆に参加させて貰っている時にテレビでナイター中継のプロ野球がライブで流れていた。

いつも通り身内でワイワイとホールデムを楽しんでいる中、ディーラー席の正面にあるテレビに、4番シートからテーブルに背中を向け、見辛そうにナイター中継を真っ赤な目で見つめる仲間が居た。

その時俺は右隣の3番シート。俺はちょっと体を傾ければ見れる状態だったので、大した野球に興味も無い俺もつられてなんとなく観ていた。


「打ってるの?」


なんとなく聞いてみた。


「巨人に...」


俺にしか聞こえない小さな声でそう言って、彼はテーブルの下で指を3本立てて、周りに見えないように俺にサインを送った。

100万オーバーの負けも頻発するレートのホールデムをやりながら、それに集中せずに観ているのだから、彼の太い3本指が30万なんかでは無い事は用意に想像できた。

試合も後半、巨人が3対1で負けていたのは今でも覚えている。


ちなみにこの彼(今回はイニシャルは伏せるが...)、俺より遥か年下、出会った時は20代前半。大きな体躯に全身スウェットで、派手な眼鏡をかけている、

知り合いじゃ無ければ目も合わせたくないような見た目だ。

(なんなら初対面の時は敬語で話してた)

彼は俺と出会う数年前、ハタチそこそこの時代からアングラのバカラに通い、日に数百万とかを吹っ飛ばすくらいの羽振りの良さだったそうだ

仲良くなれば愛嬌もあって会話も面白いとても良いヤツでみんな大好きだった。


一時も栄華も、落ち目のギャンブラーに吹く風は冷たい。


当時は彼がそこまで困窮している事は想像していなかった。

ただ少し、負けの払いが遅れたりしているのは聞いていたが、気が付いたら彼は週明けにこの街から居なくなっていた。


プロ野球がメインとなるスポーツ賭博は、移動日にあたる月曜が清算日となるのが慣例だ。

火曜から翌日曜までのベットの清算を行うのだが、日曜のナイターで「当たれば戻る」最後の勝負を仕掛けたのだろう。


巨人戦は裏の最後の攻撃も虚しく終了し、彼の3本指は泡となった。


この時の心境はどんなものだったのか。

あの時のテーブルに、背中で中継されている彼の死にもの狂いの勝負を知っていた人間が俺以外に何人居たのだろうか。


デポジット(一時的に預けるお金)も無しに3本のベットを受けて貰えるくらい、彼に信用があったのは明白だ。

ちゃんとお願いすれば、手を差し伸べてくれる人間は何人も居たかもしれない。

しかし彼は静かに街を去った。

こうして屈強なギャンブラーが今日もどこかでまた一人居なくなる。


明日は我が身とならぬように、勝ち続けなければならない。


俺も大好きで、みんなの人気者だった彼が、今でも日本の何処かで元気に生きている事を祈る。


-続く-





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