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雑記 48 / 丹波焼の歴史を背負って

6月22日(土)から白白庵では大上裕樹個展『Inlays on the ridge』がスタート。開催に先立って作家インタビューも白白庵のnoteにて公開しています。

素直な言葉で語られる良い記事になっているかと思いますのでぜひご覧ください。ここで語られたことを噛み砕きながら作品を鑑賞しつつ、この記事を作成したのはとても楽しい時間でした。

40代を目の前にして陶芸家として「ターニングポイントを作る」という意識で今回の作品ラインナップが決まったそうです。
これまで取り組んできた装飾技法の感覚を意識しつつ、新たに取り組まれた薪窯焼成の作品たちは眺めて触れてみると、とても素直で心地よい焼き物です。
そのラインナップはこちらのオンラインショップでもご覧いただけます。

(期間限定なので6月30日の19時以降は消滅するページです)

覗いてみるとその制作技法は多種多様です。
個展タイトルの『Inlays on the ridge』は彼独自の技法である『鎬象嵌(しのぎぞうがん)』を指します。一度削ったパーツを再度嵌め込むことで独特のリズムと超時代的というか、オーパーツ的なレトロフューチャー感が生まれます。
例えば急須なんかは形だけ見ると、クラシカルな民芸スタイルのフォルムなのに、この鎬象嵌が入ることで過去か未来かいつの時代とも知れぬ、またどこの国かも分からない不思議な佇まいとなります。


大上裕樹「鎬象嵌急須」

この鎬象嵌とギラギラのプラチナ彩が作家・大上裕樹の代名詞的な扱いではありましたが、今回は薪窯で、丹波の歴史性を強く打ち出した作品が多く並びます。
前回の白白庵個展『Time Maschine』でも古い丹波焼のフォルムをモチーフにした作品が多数出展されていましたが、そこには鎬象嵌やプラチナ彩が施され、装飾的に「大上裕樹作品」として成立させていたように思います。

今回はより素朴に、丹波伝統技法と真っ直ぐに向き合った上での焼成とフォルムが並びます。彼独自の装飾技法の下にあるフォルムをすっぴんのままに取り出して、丹波焼的な姿で現れます。
こうした歴史性を背負った焼き物、特に民芸的な特色のあるエリアの場合だと清貧さや守るべきとされる伝統の重みによって、ともすれば閉塞的な雰囲気を感じさせる場合が多いのですが、彼の場合はそのローカル感覚を外に向けてアピールすることができるポジティブさが備わっていると感じます。

このラインナップ全体を眺めることで、装飾技法の内側に覆われていた、陶芸家・大上裕樹の作品における本質的な姿が見えてくるように思います。
全体像からぼんやりと大上さんという個人のありようが、言うなれば丹波焼の歴史性の中からも浮かび上がってくるようにも見えます。

良い展覧会です。
今回のこの展覧会を見て、この先の大上裕樹を追いかけるのはとても楽しいことになると思います。

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