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60年代の重いテーマをコミカル・ドラマで呼び出すマジック。

『コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話』(2022年製作/121分/PG12/アメリカ)【監督】フィリス・ナジー 【キャスト】エリザベス・バンクス,シガニ―・ウィーバー,クリス・メッシーナ,ケイト・マーラ,ウンミ・モサク,コーリー・マイケル・スミス,グレイス・エドワーズ,ジョン・マガロ


女性の選択の権利としての人工妊娠中絶を題材に、1960年代後半から70年代初頭にかけてアメリカで推定1万2000人の中絶を手助けしたとされる団体「ジェーン」の実話をもとに描いた社会派ドラマ。

1968年、シカゴ。裕福な主婦ジョイは何不自由ない暮らしを送っていたが、2人目の子どもの妊娠時に心臓の病気が悪化してしまう。唯一の治療法は妊娠をやめることだと担当医に言われたものの、当時の法律で中絶は許されておらず、地元病院の責任者である男性全員から手術を拒否されてしまう。そんな中、ジョイは街で目にした張り紙から、違法だが安全な中絶手術を提供するアンダーグラウンドな団体「ジェーン」にたどり着く。その後ジョイは「ジェーン」の一員となり、中絶が必要な女性たちを救うべく奔走するが……。

主人公ジョイを「ピッチ・パーフェクト」シリーズのエリザベス・バンクス、「ジェーン」のリーダー、バージニアを「エイリアン」シリーズのシガニー・ウィーバーが演じる。「キャロル」の脚本家フィリス・ナジーが監督を務めた。2022年・第72回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。

似たような作品にノーベル賞作家アニー・エルノー原作の『あのこと』という映画があったのだが、フランスとアメリカでは同じ中絶を扱うにしてもずいぶん見せ方が違っていた。

アメリカ映画は、最初は保守的な主婦が出てきてドラマっぽい作りなのだがフランス映画のようなリアリティに欠ける映画だと思っていたのだが。観ているうちに惹きつけられて、映画が一つの教育というか、そういう現実もあったと教えているようだった。それは今の時代の保守的な主婦に対しての喜劇的な風刺ドラマを観るような感覚なのかと思った。

どう考えても保守的な弁護士の妻(法を遵守する夫の妻なのだ)が中絶という当時の違法に関わっていくストーリーが面白く描かれているのだ。それはリーダーの女性をシガニー・ウィーバーが演じているのが魅力的なのか?1968年の社会運動家の古参という女性闘志であるのだけど、彼女は男社会での社会運動に女性の自由はなかったと感じていたのだ。今のフェミニズムの走りのようで面白かった。

それは彼女をリーダーとして、黒人運動家の女性(ブラックパンサー支持の過激な女性)もいれば、主人公のように弁護士の妻であるような保守層や、修道院の尼さんまでが多様な女性が集っている違法中絶手術の組織なのである。その借りの名が「ジェーン」という仮名であり、その脚本がまず上手いと思った。

フィクションであることで、一人の保守的な主婦がどうして違法組織に属するかというより、もはやその中心となってしまう物語なのである。まさに一人の保守的な主婦の成長物語を描いているのだが、それが当時のポップスナンバーのような明るさで描かれているのだった。なによりもあの当時の音楽が素晴らしい。

ラストで「レット・ザ・サンシャイン・イン」が流れるのも現代風にアレンジされたものだったのか?映画も現代風にアレンジされているような気がした。

そこに60年代ポップスの明るさとお気楽さの中に違法中絶という重いテーマを見事にポップな感じで描いた映画なのであった。


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