見出し画像

古典演劇のメタフィクション

『シラノ・ド・ベルジュラック』ロスタン , 渡辺 守章 (翻訳) (光文社古典新訳文庫)

ガスコンの青年隊シラノは詩人で軍人、豪快にして心優しい剣士だが、二枚目とは言えない大鼻の持ち主。秘かに思いを寄せる従妹ロクサーヌに恋した美男の同僚クリスチャンのために尽くすのだが……。30歳でレジオン・ドヌール勲章を叙勲し、33歳でアカデミー・フランセーズに選出された天才ロスタンの代表作。1世紀を経た今も世界的に上演される、最も人気の高いフランスの傑作戯曲をキレのいい新訳で。

映画『シラノ』が思ってた以上に良かったので原作も読んでみた。解説は映画観る前に読んでいた。韻文の戯曲という古典スタイルをミュージカル映画としたのも成功した要因だろう。

映画と違うのは主人公が違うのもそうなのだが、原作の方はよりコメディ的要素が強い。登場人物が言葉の掛け合いで盛り上げていく感じだ。ただ読書となると目で追っていくので、もう一つ理解するのには時間がかかるような気がする(映画を観ていたのでそのへんのストーリーは頭に入ってはいたが)。

シラノの決闘シーンもシラノの言葉の掛け合いで盛り上げているのがよく分かる。日本でいうと江戸時代の講談のような盛り上げ方。映画ではアクションで魅せるのだが。

戦場シーンでロクサーヌが訪問するシーンは映画ではなかった。そこはけっこう重要だとは思うのだが、ロクサーヌが兵舎を訪問することで、実際にクリスチャンの死に出会うのだし、シラノのクリスチャンの死とロクサーヌの愛で引き裂かれる内面の葛藤が物語を盛り上げていくと思うのだが。

そこでラストの「心意気だ!」という「羽飾り」のプライドが羽ばたくのだ。

映画の方でも書いたのだが、シェイクスピア『ロミオとジュリエット』のパロディ的作品でもあり、古典時代の演劇のメタフィクションとして、近代(ラシーヌの頃だから、近代か)演劇の批評をも含んでいるのである。それは、最初の劇場で大根役者の道化役を罵倒するシラノによって描かれる。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?