見出し画像

ラップ歌手のままの方が良かったのではないか?

『テノール! 人生はハーモニー』(2021年/フランス)監督:クロード・ジディ・ジュニア 出演:ミシェル・ラロック、MB14、ギョーム・デュエーム、ロベルト・アラーニャ


あらすじ
芸術の中心地パリ、オペラ座・ガルニエ宮。スシ屋の出前でやってきた青年がエリートレッスン生に見下され仕返しに歌ったオペラの歌真似がプロも驚くまさかの超美声!? 彼の名はアントワーヌ。ラップが趣味のその日暮らしのフリーターだ。そんな彼の才能にほれ込んだオペラ教師マリーはバイト先にも押しかけ猛スカウト!次第にオペラに興味を持ちはじめるアントワーヌは、“オペラ座とは住む世界が違う”と思いながらも、内緒でマリーとふたりのオペラ猛レッスンを始めるが――

似たような映画で『母へ捧げる僕たちのアリア』を成長した姿かなとも思った。

こういう映画はよくあるけど、いまいちだったのはフランスの階級社会が見え見えだったから。監督の主張は「天井桟敷」にも言及していたので、その意識はないとは思うが、どう見てもラップの方が一段下に見られてオペラで成功すれば上流階級の仲間入りというような感じを受けてしまった(オペラ座の豪華絢爛さは見る価値があるかもしれない)。

彼はオペラ歌手として成功を夢見るのだが、それは女性オペラ歌手の先生の夢であると思うのだ。彼女はオペラ座に自分の居場所を見つけた。そして低所得層のラップをやる青年の美声に惚れる。ただストーリーがあまりにも安易すぎる。そんなにすぐに才能だけでオペラ歌手になれるとも思わないし、オペラの扱いもいまいち軽いような気がする。それはエンディング曲は、この映画のアンサーソングなのだが、それは今流行りのポップスなのだ。その安ぽっさが映画を語っている。オペラが悪いというのはなく、なぜラップミュージシャンで戦わないのかということだ。オペラの要素を組み込めばラップは変わるけど、オペラに行ってラップを捨てるのだったらそこまでの話だった。偉大な歌手はいるかもしれないが、革命的な偉大さではないんだよな。2パックはそういう革新性を持っていたのではないのか?世界に影響を与える歌手として。

この主人公がオペラ歌手として出てもこのままでは革新性もなくただ低所得層から出てきたオペラを歌うことの出来る歌手ぐらいだろう。革新性はない。物語としては先生の夢を叶えるという「ハーモニー」といえば「ハーモニー」なのだが、ストーリーが甘すぎるのだ。ラップ青年のコメディ(喜劇)なんだ。

ユゴー『ノートル=ダム・ド・パリ』がディズニー映画の『ノートルダムの鐘』になってしまったような映画。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?