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ウルトラマン世代の悪夢のインフル

『インフル病みのペトロフ家』(2021/ロシア)監督キリル・セレブレンニコフ 出演セミョーン・セルジン/チュルパン・ハマートヴァ/ユリヤ・ペレシリド

解説/あらすじ
ソヴィエト崩壊後、2004年のロシア、エカテリンブルグで、インフルエンザが流行する中、主人公のペトロフは高熱にうなされる。妄想と現実の間を行ったり来たりするうちに、次第にペトロフの妄想は、まだ国がソヴィエトだった子供時代の記憶へと回帰していく…。

2004年のロシアが舞台で、プーチンが登場する前のエリツィン時代の混乱期。インフルエンザが時代の病のように流行り末期状態のソ連社会。原作があるのだが(アレクセイ・サリニコフ『インフル病みのペトロフ家とその周辺』未訳)、読んでみたい。今のコロナ禍の混乱期と繋がるような話だし、監督がロシアの反体制派の監督で、この映画を作るのも軟禁状態だったとか。もうロシアにいられないだろうな。

ペドロフ家の核家族。父親が酒飲みで母は図書館員でストレスだらけ。子供は母親のいうことを聞かない。ソ連社会が末期だから町中で銃殺刑はあるは、酔っぱらいばかりだわでプーチンが出てきて歓迎されたのもわかるような映画。その病をインフルエンザが象徴している。

ロシアではもう映画は撮れそうもないぐらいにハチャメチャの群像劇。霊柩車で死体を誘拐して、その死体が町中を彷徨うというラストはゴーゴリだった。ロシア文学のゴーゴリの系統のブラックユーモア。ソローキンと似ているかもしれない。資本社会の欲望が一気に入ってきて、格差社会。

70年代の経済成長期の夢。ロケットとかそういう日本の高度成長期世代とも重なる。あの頃の懐かしさがある。それは今の世代のウルトラマンとかと同じなんだが、夢しかすがることが出来ない大人たちなのだ。そんな男は漫画家というのも面白い。ファンタジーの世界しか逃げる場所がない。

そういう作家はうんざりするほどいて、図書館員である妻のところにもそういう者が集まってくるのだが、うんざりする会合で、その図書会員の妻はストレスで暴力的な殺人者であるという設定。このへんはタランティーノ展開!

男が幼い頃の連れて行ってくれた復活祭?のパーティで雪の王女と会うファンタジーが、のちのち男のロマンになるのだが、その役者の女性の現実は地方と都市の格差で中絶するしかないというヒロインだったわけだ。ファンタジーの裏にやり切れない現実がある。それを知ってしまった男だから酒浸りなっていくのだろう?そして、子供までもがインフルエンザでUFOに助けを求めたりする。

インフルエンザという疫病が今の世界のようだ。その後にプーチンのような徹底的な管理社会がやってくると思うと先見性がある映画なのか?音楽がパンクだったりラップだったり今の怒りの歌なんで良かった。そして70年代の懐メロでしんみりさせてくれる。「空飛ぶクジラ」の歌のようなのは、ソ連にもあったんだな。


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