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ゾラはそろそろ読んだ方がいいかも

『オリヴィエ・ベカイユの死/呪われた家 ゾラ傑作短篇集 』ゾラ , (翻訳) 國分 俊宏(光文社古典新訳文庫)

完全に意識はあるが肉体が動かず、周囲に死んだと思われた男の視点から綴られる「オリヴィエ・ベカイユの死」。新進気鋭の画家とその不器量な妻との奇妙な共犯関係を描いた「スルディス夫人」など、稀代のストーリーテラーとしてのゾラの才能が凝縮された5篇を収録。
目次
オリヴィエ・ベカイユの死
ナンタス
呪われた家──アンジュリーヌ
シャーブル氏の貝
スルディス夫人

エミール・ゾラはフランスの大作家というイメージだがこれまで読んで来なかったのは自然主義=私小説という日本のイメージで捉えていたのかな。解説にもあるとおり、日本の自然主義という感じではなく(日本では自然主義を違ったイメージで捉えていた、白樺派から私小説というようなイメージか?)、どちらかと言えばストーリーテラー的な物語の面白さがあった。

それはミステリーあり、ラブ・ロマンスあり、成り上がり者の成功物語ありの短編集なのだ。ゾラの小説の魅力が収められている入門書に値する短編集だと思う。フランス文学はバルザックとか最近では再評価がある作家にゾラも含まれるのだろうか?

オリヴィエ・ベカイユの死

日本やアジア圏では死者は魂が幽体離脱するのだけどこの話の主人公は相変わらず死体に留まったままだった。仮死状態ということなのかもしれない。そこから死んだ主人公が新婚の妻の悲嘆を思いながらも身体は動かない。妻は親切な他の男が介抱し、お節介なオバサンが役立たずの医者と葬儀屋を呼んでしまって墓に閉じ込められるのである。そこからなんとか脱出しようとする様がリアリティあるように書かれている。

こういう部分が科学的な論理性の中で構築されていくフィクションなのだがそれは日本の自然主義文学と違い自然を愛そうとか私小説を描くというのとは違っていた。この話も一見ホラーじみていていてポーのような話かと思うがそこで終わらない。主人公は新妻が新しい男と結婚したのを知って孤独な人生を諦念を悟った出家僧のように生き続けるのだ。死の観念についての実験的な作品のように思える。

ナンタス

貧しくて無産者の主人公が妊娠したブルジョア娘と偽装結婚して、成り上がっていくのだが、そのブルジョア娘の愛だけは得られずに、最後は何もかも得てハッピーエンドという成り上がりものストーリー。これも革命後のブルジョアジーを皮肉った実験小説かもしれなかった。

呪われた家──アンジュリーヌ

先日観たアガサ・クリステイ映画『名探偵ポアロ ベネチアの亡霊』(原作は『ハロウィン・パーティ』)に似ていたからクリスティが真似したのかもしれない。よく出来たミステリーで、継母と娘が対立して殺人か自殺かというミステリーに纏わる今にも崩壊しそうな廃墟から聞こえる少女を呼ぶ声の不気味さ。解決してみればなるほどのストーリーで面白い。

シャーブル氏の貝

貝に暗喩的な性的な意味を纏わせたメロドラマ(ラブロマンス)なのだが、子供が出来ない夫婦が医者の勧めによって貝類を食べれば妊娠するという勧めに従ってある海岸の村に行く。そこで若い妻は若い男とアヴァンチュールを楽しむのだが、その情景の描き方とか洞窟が多い海の満ち引き潮の描写とか素晴らしい。そのあと妻は無事妊娠するという話なんだが。

スルディス夫人

絵の才能はあるが女性であるために画家としては一段低く観られる女性が画家志望の青年と結婚して、彼を影で支えながら彼の絵を描いていてサロンでも話題になって成功するという話。ゾラはサロンで絵の評論もやっていたのでその時の経験が生かされているという。実際にその作品を妻に書かせていたと作家がいたのだという。ドーテがモデルだと言うが真意は?


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