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天皇の戦争の下に

『名もなき人々の戦争』(2021/日本ヒストリーチャンネル・オリジナル)監督:小野怜



全ての日本人が、戦っていた。いわゆる"15年戦争"を一般市民の目線で辿るヒストリーチャンネル制作オリジナルドキュメンタリー。日本を破滅へ追いやった戦争を政治・思想・プロパガンダ・ポップカルチャーなど様々な角度から専門家たちが紐解き、当事者たちの証言で激動の時代が蘇る。

ヒストリーチャンネル制作のドキュメンタリー。すでに地上波の戦争特集が腑抜けたものになっているので、配信局の作るドキュメンタリーは貴重だ。というより国内向けでもないから、世界発信を前提として作られているから政治家に忖度なしに作られる。まあ、アメリカ発信ということなんだが。

沖縄疎開船の対馬丸撃沈の生存者の証言がリアリティがあった。魚雷の爆発と共に目が覚め、混乱した様子、逃げ惑うこどもたちの叫び声と、自身も助けを求める従姉妹の手を繋いでいたが台風ということもあって手を離さなければならなかった。その台風一過のあとの静けさの中で死体が浮かび上がってくる。そして救助筏への必死の遊泳。6日間も漂流した挙げ句にやっと無人島に漂着する(ここは詳しくは語られなかった)。沖縄に戻ってからの従姉妹の母に言われた一言で、加害者の気持ちになる。

「生きて虜囚の辱めを受けず」という戦陣訓が敗戦間際になると民間人にも言われたこと。鬼畜米兵は情けもないからということなのだが、沖縄で捕虜に食料も治療もすると白旗を上げて説得に行った民間人をスパイだと言って日本刀で首を切った話も。その後に抵抗する日本兵に機銃掃射で全員死亡。沖縄での本土にいる天皇の捨て石のための時間稼ぎだったのは岡本喜八『激動の昭和史 沖縄決戦』にも描かれているが、映画を裏付ける証言の数々。沖縄の自決の証言が多い。

当時の女性雑誌の資料も提示していたが、敗戦間際ではわら半紙を綴じたものだった。そして、編集後記では死ぬまで闘うという決意。今の北朝鮮を笑えない。そういう極貧生活でありながら自己犠牲的にお国のためにという皇国史観の教育で洗脳されていたのだ。

また焼夷弾が日本の家屋を破壊するために作られたという話も興味深い。それは民間人攻撃を想定していたということだ。日本も酷いけどアメリカもだった。粘着性のガソリンは水では消火出来ないようになっていた。それを消すように訓練されていたのだから悲劇だった。

民間の犠牲者を多く出すことで米軍の戦意喪失を目論んでいたとか、ほんとふざけた話ばかり出てくる。そんな国家主義だったのだ。

実際にポツダム宣言をすぐに受け入れていれば、沖縄も広島も長崎の悲劇もなかった。その上満州ではソ連侵攻を許して悲惨な難民を出した(さらにシベリア収容所送り)。そして、天皇の玉音放送での真逆の民主主義へ。それは事大主義(上からの命令)だから、日本に根づくこと無く今に至る。

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