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夕蝉や半分だけのパラダイス

『パラダイス/半島』(2023/日本)監督:稲葉雄介 出演:染谷俊之、 吉田美月喜、 立川かしめ、 松村龍之介、 谷川愛梨、 西村季里子、 藤田朋子


有名俳優とその姪、逃亡犯・・・世間から少し離れたこの半島で、 三人は思いもよらない共同生活を始める。
有名俳優・真英は、積年の疲労を癒すため、畑付きの⼀軒家で長期休養中。 ゆとりある暮らしのおかげで、今では心身共にだいぶ回復を果たした。 新しい大作映画への出演も決まり、完全復帰も間近である。 そんな彼の元に、突然親友の⻯が訪ねて来る。 彼は、とある事件の冤罪で逮捕・勾留されている。 真英の紹介した弁護士と奮闘するも、結局起訴されることとなり、逃げてきたのだと言う。 ⽴場上そんな⻯と関わりたくない真英は、彼を⼀晩だけ匿い、外に追い出す。 翌朝、暇を持て余した姪の⼣起が真英の家に滞在しに来る。

余白がある映画。伊豆半島は真ん中に山があって夕陽が沈むのは片側の沿岸では見えないという。半島の半分だけ隠れた世界というような。充電期間中の俳優の元に親友が尋ねてくるのだが、どうも事件に巻き込まれたらしい。その半分の事実が見えないところに姪っ子がやってきて、姪っ子にしても二人の関係性がよくわからない。そういう人間の暗部みたいなものをおどろおどろしく描くのではなくユーモアタッチで描くのだ。

それは主人公が俳句作りに熱中しているのだが、そういう余白を読ます詫びの世界というような。そういうすべてが明らかになるのではなく、親友がどうして事件を起こしたのかもよくわからない。それでも俳優は映画出演がキャンセルされて、ふたたび猶予期間のようになるのだ。伊豆の別荘(祖父の家)みたいになってそこが隠れ家的なのも面白かった。

またこの映画は夕陽に染まった雲とかの情景がいいのだ。そして夜の花火。季節が夏で今の時期に相応しい映画だった。大人の男二人と若い娘の三人関係の映画。最後に20年ぶりの犬がやってくるというのは幽霊か何かだろう。彼岸と此岸というような境界の映画なんだと思う。

「パタダイス」というのも後から考えればあの時間がパラダイスだったのかというような蝉の鳴き声が哀しい夏映画。


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