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ニッポンバンザイとは言えない人の詠嘆表現は?

『短歌 2022年3月号』

もののあはれを知る

【カラーグラビア】
名湯ものがたり 法師温泉…伊藤一彦
空の歌…盛田志保子 選

【巻頭コラム】うたの名言…佐佐木幸綱

【巻頭作品28首】秋葉四郎・玉井清弘・花山多佳子・小島ゆかり
【巻頭作品10首】志垣澄幸・森山晴美・三井ゆき・田村広志・阿木津英・尾崎まゆみ・真中朋久・山川築

【実作特集】詠嘆の可能性
総論―実作篇 短歌と詠嘆…栗木京子
総論―歴史篇 詠嘆の今昔…寺井龍哉
各論 詠嘆の助詞の用法…藤島秀憲・今井恵子
各論 詠嘆の助動詞の用法…楠 誓英
詠嘆表現のいま…恒成美代子・永井祐
胸を揺さぶる詠嘆秀歌 30首…大松達知

【特別企画】生誕160年 落合直文――近代短歌の源流から未来へ
現代に見る落合直文の意義…三枝昂之
”直文山脈”の交友…安田純生
作品鑑賞…堂園昌彦
『ことばの泉』の辞書史的意義…境田稔信
一首鑑賞…桜川冴子・本田一弘・堀田季何・北山あさひ・井上法子・山階基・阿波野巧也
50首…山田吉郎 選
直文ガイド…三枝昂之
生家・資料…編集部
年譜…編集部
鼎談「未来につなげる落合直文」…今野寿美・吉川宏志・梶原さい子

【作品12首】宇都宮とよ・小林サダ子・森重香代子・井谷まさみち・浜 守・茅野信二・飯沼鮎子・黒羽 泉・喜多昭夫・田村元
作品7首…渡辺礼比子・市村善郎・鹿井いつ子・風間博夫・柴田仁美・菊池 裕・浦河奈々・柳澤美晴

【連載】
ぼくは散文が書けない…山田航
挽歌の華…道浦母都子
啄木ごっこ…松村正直
かなしみの歌びとたち…坂井修一
歌人解剖 〇〇がスゴい!…齋藤芳生
うたよみの水源――現代短歌の先駆者を辿る…千種創一
一葉の記憶 ―私の公募短歌館―…磯田ひさ子
嗜好品のうた…下村すみよ
見のがせない秀歌集…岡本育与
短歌の底荷…太郎と花子・麓
ふるさとの話をしよう 滋賀県…前川登代子

【歌壇時評】前田宏・田中翠香
【月評】森藍火・生沼義朗
【歌集歌書を読む】若菜邦彦・尾崎朗子

【書評】
来嶋靖生『続 作歌相談室』…大石直孝
加藤治郎『岡井隆と現代短歌』…本多稜
時田則雄『樹のように石のように2-ポロシリ庵雑記帖』…棗 隆
竹中優子『輪をつくる』…藤原龍一郎
日高堯子『水衣集』…永田紅
平塚宗臣『古都鎌倉 短歌を携えて巡る鎌倉の神社・仏閣』…木村雅子
岡野治代『雲の上の空』…上村典子
櫻井貞代『冬枯れのまんなかで』…小松久美江
大津仁昭『天使の課題』…北久保まりこ

【投稿】
角川歌壇…黒木三千代・福島泰樹・水原紫苑・谷岡亜紀 選
題詠…中根誠 選

宮中歌会始詠進要領
歌壇掲示板
読者の声
編集後記/次号予告

目次

『短歌 2022年7月号』の読書欄を読んで、啄木の記事(『啄木ごっこ』松村正直)が金田一京助のことだと知って読みたくなったのだ。記事は金田一京助『石川啄木』を踏まえたようで新しいことは書いてないような。

それ以外にも、「詠嘆の可能性」や「落合直文」という知らない歌人の興味もあった。

相変わらず作品はそれほど興味を引かないのだが、そんな中で、渡辺礼比子「姫柚子」が面白かった。生活短歌だが、「ダークダックス」とか「明星グラビア」とかの懐かしさと共に惚けの始まりという可笑しさに共感する。同時代性の生活短歌が一番共感するものなのか?時事短歌は少し過去の号なので、それほど惹きつけられる歌はなかった。この雑誌は全体的に高齢化雑誌だから、それほど革新的な歌もない。

【実作特集】詠嘆の可能性

短歌が万葉の和歌の時代から歌い手の感情をものに寄せ、それに人々が共感してゆくという詠嘆のうたとして存在し続けたのは事実であろう。しかし、それはあまりにも歌い手の感情に同調してしまうことの恐怖を戦時中に感じた世代の中で詩人の小野十三郎が「奴隷の韻律」として諌めたのは、短歌や俳句ばかりではなく、それが他の詩や散文の中にまで浸透してゆくことで、より強力な同調性の言論を生み出してゆく危機感なのであった。その詠嘆調を現代短歌はどう克服したのだろうか?そうした、危険を現在の歌人たちは感じているのだろうか?折しもワールドカップで世間は一色になってゆく。その時に歌人たちは素直に詠嘆の日本勝利の歌を詠めるのだろうか?(寺井龍哉「詠嘆は日々に輝く」を読んで)

現代歌人たちの、特に口語における詠嘆表現について。

付合せのキャベツのサラダごまだれのかかつたサラダ 寿司にサラダか  山下翔

山下翔『meal』

「か」は「かな」と同じような詠嘆の助詞。疑問の意味を持ちながら詠嘆する同一性に対する疑問を示す。

東京の夜空のぶあつき霞いちまい剥がせばしたたる星の分布よ  

小谷智子『ベイビー・ブレス』

見ることが叶わない現実世界への呼びかけの「よ」も現代の詠嘆として使用される。

蝉鳴りに濡れる大樹の公園の人ひとりなく暑いってやあね

のつちえこ「徒人」『短歌 2021年10月号』

掛詞的に叙景を読んだあとに口語(蝉鳴りに反しているので同調してはいない詠み手であるが同調を求めている)で受ける詠嘆表現。

延命医療こばんで父は餓死したり かなしき父とおもうふまじ、まじ

日高堯子『水衣集』

文語の「まじ」は打ち消しの推量だが、二回目の「まじ」は口語の反語詠嘆。感傷的な詠嘆は否定するが、そこに客観的なもう一人の自分がいる。

電話口でおっ、て言って前みたいにおっ、て言って言って言ってよ

東直子『青卵』

言葉を重ねることで、詠嘆の度合いがますが、対象者との距離感の歌なのだ。

ほんとうにおれのもんかよ冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙は  

穂村弘『シンジケート』

「かよ」の効用。演劇的機能。

【特別企画】生誕160年 落合直文――近代短歌の源流から未来へ

落合直文は初めて知った歌人。正岡子規と同時代であり、「明星」で与謝野鉄幹や晶子に影響を与えたようだ。国語辞書の編集者としても有名だったらしい。短歌は古典調だと思うが、ひとつだけ気になったのは円環的表現という、正岡子規は直線的な表現で最初から読めば意味が汲み取れるが、円環的な表現は言葉通りに読んで意味がつかめず、最後まで読んでまた最初に戻って意味を見出すという歌だという。

簪もて深さはかりし少女子のたもとにつきぬ春のあわ雪

落合直文

正岡子規は最後まで読まなければ歌意が通らないとして、「あわ雪」を最初に示すべきだと主張した。こういう円環的な短歌のテクニックは古今和歌集以降に多いという。万葉調は一直線に歌われるのだ。正岡子規が好んだのもそのような歌だった。それで斎藤茂吉とか釈迢空は、走ってゆく歌や山の中を奥深く歩いて行くイメージが多いのかなと思ったり。ずんずん進んで立ち止まらないイメージなのかな。円環的なイメージの短歌。

砂の上にわが恋人の名をかけば波よせきてかげもとどめず
うつしばな雲雀の影もうつるべし写真日和のうららけき空
うたたねに風邪をひくなと羽織ぬぎてかけ給ひしよはしき姉君
父と母といずれよきと子に問へば父よといひて母をかへりみぬ
夕ぐれを何とはなしに野にいでて何とはなしに家にかへりぬ
いつはりの人ほど歌はたくみなりうちうなづくな姫百合の花

落合直文




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