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シン・俳句レッスン12

今日の一句


白い雲雨雲雲隠れ

雲のブレイン・ストーム(連想ゲーム)の手法をやってみたけどいまいちだ。

白い雲暗雲言葉雲隠れ

綿雲や暗雲暗喩雲隠れ

現代俳句──芥川龍之介

川名大『現代俳句下』も返却期間が来たので、下巻も俳句の個人個人より系譜ごとに紹介されているので俳句界の流れを知ることが出来る。だいたい虚子の「アララギ派」に対して反発や独立するように新興俳句系かポスト・アララギ派のようなグループ(俳句誌を中心とする結社)があるわけだが、俳壇の中心はアララギ派のような気がする。次々に結社はできるけどアララギ派のように長く存続するところはないような。文人俳句では芥川龍之介の俳句がいい。

木がらしや東京の日のありどころ
木がらしや目刺にのこる海のいろ
元日や手を洗ひをる夕ごころ
炎天のあがりて消えぬ箕のほこり
蝶の舌ゼンマイに似る暑さかな
庭土に皐月の蝿の親しさよ
初秋の蝗つかめば柔かき
茶畑に入り日しづもる所在かな
たんたんの咳を出したる夜寒かな

最初の「木がらし」の句は蕪村の「凧(いかのぼり)きのうの空のありどころ」の本歌取りのようだ。上五(季語+や)下五(体言止め)の基本を踏まえている。芥川の東京下町出身のありどころが明確に示されている句だという。

次の「木がらし」の句の方が有名か?最初は「凩や」と表記した。この句もまた池西言水「木枯らしの果てはありけり海の音」の句から発想を得たとするが、さらに描写が鋭いのはクローズアップの手法だろうか?芥川の目指したのは芭蕉の漂泊の句よりも蕪村の郷愁性を求めていたという(書斎派とも)。

「元旦や」と新年挨拶句だが、芥川らしさは「夕ごころ」という夕方の哀感にある。元旦の気苦労は誰もが知るところだがそこを「夕ごころ」とする芥川の表現の確かさ。

「箕」は脱穀した米や麦などを入れて選り分ける農耕器具。芥川の時代には東京近郊でもよく見られた光景だという。炎天の無風状態の中に埃が舞い上がっている写生句。

「蝶の舌」を「ゼンマイ」とカタカナ表記した機械的な生物は芥川らしさを感じる。写生いうより感覚を捉えた感性の句だという。

「皐月」の句は庶民的な蝿を持ってきて明るい情景を描いた秀句だという。虫好きなのも芥川らしさか?

「初秋の」は最初は「初秋や」で切れを入れていた。「の」で一物仕立ての句だろうか?これも写生ではなく手で掴んでの感触の句。

「あてかいな あて宇治のうまれどす」という詞書があるという。俳句より詞書の方が面白くないか?宇治生まれの女の言葉から即興的に作った句だという。「しずもる」という感じが宇治茶だろうか?

「たんたんの」という表記から本人ではなく子供らしい。芥川の辞世の句はなかった。本当は辞世の句ではないと言うのだがこれが一番好きな句だった。

水涕や鼻の先だけ暮れ残る  芥川龍之介

高屋窓秋

川名大は一番信頼できる俳人の批評家で、また俳句史的な本『挑発する俳句 癒やす俳句』を借りてきた。『現代俳句』の延長でもっと一人の俳人について詳しく論じている本。一番初めは中村草田男なのだが、その保守的な精神性がいまいち興味が持てずパス。高屋窓秋は、「イメージと言葉の連想、撹拌」という「ブレーンストーミング(脳の撹拌)」という手法の人だ。シュールレアリズムのような連想ゲームみたいな感じか。

過去にもけっこう取り上げていた。

頭の中で白い夏野となつてゐる
ちるさくら海あおければ海へちる

その中でも誰もが取り上げる高屋窓秋の代表作が「頭の中で」である。この当時は「東京行進曲」が流行ったモダン都市としての東京。

その都市を白という言葉で表現する。「白い夏野」はモダン都市東京のことだった。この映像から伺えるのは白い帽子のカンカン帽かな。そんなイメージと一気にモダンな流行を取り入れる空っぽな頭というイメージもある。

『東京行進曲』は菊池寛の小説を溝口健次が映画化したという。

「白い夏野」の俳句史に刻み込まれた意義として

1、テーマ主義の句作法(方法論)をついて、連作の構成。
2、ブレーンストーミング(脳の撹拌)の手法。心情風景。
3、「白」や「青」というモダニズム・コード。新たな抒情性
4、斬新な口語体。新興俳句の先駆けとなった。

1は、山口誓子のモンタージュの手法。映画的映像。

「頭の中で白い夏野となつてゐる」も連作だったのだ。

我が思ふ白い青空と落葉ふる
頭の中で白い夏野となつてゐる
白い靄に朝のミルクを売りにくる
白い服で女が香水匂はせる

「ちるさくら」もひらがな表記は散る姿を現し、対照的に海の青に引き立つ。それは空の比喩かもしれいない。

高屋窓秋は技巧的な俳句を作ったが同じような西東三鬼の模倣には釘を刺していた。三鬼は俳句を初めたのが三十歳を超えてからで、山口誓子や「ミヤコ・ホテル」の日野草城の模倣から句作を初めた。高屋窓秋の句もパクられたという。川名大は西東三鬼には厳しいのだ。たぶん、白泉のことがあってだと思う。

NHK俳句

山田佳乃「鳳仙花」。「鳳仙花」というと中上健次の小説を思い出す。もう秋の季語だった。歳時記「秋」を探さなくては。

鳳仙花腹違いの子供たち

中上健次の小説から。

夏井いつきさん「流れ星」、山田佳乃さん「椿の実(つばきのみ)」(8/21)
https://forms.nhk.or.jp/q/EC03MJTH

NHK俳句


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