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意地悪な茂吉短歌

『斎藤茂吉の百首』大島 史洋 (歌人入門)

◆収録内容より
放り投げし風呂敷包ひろひ持ち抱きてゐたりさびしくてならぬ  (『赤光』より)

寂しい、寂しいという気持ちがこんな上句によって見事な一首として成立した。風呂敷包みを思わず放り投げてしまい、そのあと、仕方なく拾いあげて抱きしめている茂吉の姿が目に浮かんでくる。短歌は、こんななんでもない行為を表現するだけでも、それが深い寂しさに裏打ちされることによって大きな力を発揮する。

『斎藤茂吉の百首』大島 史洋

 ふらんす堂の「歌人入門」シリーズは、『石川啄木の百首』がわかりやすかったので、わかりにくい斎藤茂吉も読んでみようと思った。その前に中野重治『斎藤茂吉ノート』を少し読んだけどど難しすぎたので、一首解説のこのような本の方が初心者には優しい。

 だからと言って斎藤茂吉の短歌が優しいわけではなく、動物虐待はするし、大和魂とか言いそうだし、男尊女卑な短歌が見受けられる。なんでそんなに崇められるのかというのが正直な感想だ。ただ斎藤茂吉はなんでも短歌に詠んでいたようで、そのスタイルは真似てもいいのかも。あと感情が激しいので、それだから短歌を作ることで冷静だったのか?、その感情を詠み込むのも面白い発見だった。母を看取る短歌とかは精神科医の冷静さとマザコンじみた行為とがある感じである。

死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる  『赤光』
にんげんの赤子を負える子守居りこの子守も笑はざりけり  『赤光』
めんどりら砂浴びゐたれひつそりと剃刀研人(かみそりとぎ)は過ぎ行きにけり 『赤光』
放り投げし風呂敷包ひろひ持ち抱きてゐたりさびしくてならぬ  『赤光』
ふり灑(そそ)ぐあまつひかりに目の見えぬ黒き蛼(いとど)を 追ひつめにけり  『あらたま』
サルスベリの木(こ)の下かげにをさなごの茂太を率(ゐ)つつ蟻をころせり  『あらたま』
鼠等を毒殺せむとけふ一夜心楽しみわれは寝にけり  『暁紅』
この野郎小生利(こなまぎき)なことをいふともひたりしかば面罵をしたり  『遠遊』
丹沢の上空にして小便を袋のなかにしたるこの身よ  『たかはら』
あまのはら冷ゆらむときにおのづから柘榴は割れてそのくれなゐよ  『霜』

『斎藤茂吉の百首』大島 史洋


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