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高橋源一郎と読む「戦争の向こう側2024」

高橋源一郎と読む「戦争の向こう側」

今年のテーマは、戦時下の「不適切」。戦中戦後、発禁処分とされた作品を軸に、時代によって変わる“正しさ”とは何か、そして表現の自由を守るために戦った作家たちの姿に迫ります。


江戸川乱歩『芋虫』

のちに映画化された『キャタピラ』は反戦映画として制作された。

江戸川乱歩は、これは反戦映画ではなく日本的な「もののあはれ」の作品としている。『キャタピラ』も江戸川乱歩原作とはされていなかった。伊藤比呂美の感想として、ポルノ的なSM小説というような。当時はモラル(道徳)を乱すものとして発禁になったようだ。谷崎潤一郎の影響。谷崎の作品もことごとく発禁になった。

面白いのはこの作品の発表時には発禁処分を受けてはいず、当時はエロ・グロ・ナンセンスの作品として、『ドグママグラ』の作者夢野久作などの作品と共に大衆文学として取り扱われたようだ。今読んでもそんな感じを受ける。表現的には耽美主義的な谷崎とか三島作品に近いように思える。ただ軍人の「金鵄勲章」を貶める作品として目を付けられたようだ。これ以降、江戸川乱歩作品はすべてが発禁処分となっていく。谷崎も同等だった。今だったら介護小説として芥川賞ものではないのか?市川沙央『ハンチバック』の性描写的作品のさきがけかもしれない。 

新興俳句弾圧事件

京大俳句の結社の自由律である「新興俳句」が当局によって弾圧され多くの俳人が検挙された。放送の中で俳句というダイレクトな社会風刺が当局によって目を付けられたとする。いま読むと戦争俳句であり、弾圧されるような内容でないものも含まれている。放送では触れなかったが「新興俳句弾圧事件」としては、有季定型の虚子が日本文学報国会の日本俳句作家協会会長だったこともあり、新興俳句潰しとして新聞記者である小野蕪子によって密告されたようである。

一般の女性俳人として藤木清子は不幸にしてこれ以降俳人であることを辞めている(再婚の条件だった)。

ひとりゐて刃物のごとき昼とおもふ 藤木清子
戦死せり三十二枚の歯をそろへ 

石川 達三『生きている兵隊』

石川達三が従軍作家として南京陥落を小説にしたもの。最初は出版社による自主規制で問題部分を削除されるが、後に発禁処分となる。石川達三は裁判を起こし、これは反戦文学ではないと主張する。同じような本、火野葦平『麦の兵隊』はベストセラーになる。

当時の自主規制のコンプラは現在にも蔓延しており、表現がネット社会によって監視され弾圧されていく(芸能人発言など)。


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