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ドキュメンタリー映画の醍醐味

『アダミアニ 祈りの谷』(2021年製作/120分/G/日本・オランダ合作)監督:竹岡寛俊


チェチェン紛争で「テロリストの巣窟」の汚名を着せられた東ジョージアの山岳地帯パンキシ渓谷で暮らすチェチェン系ジョージア人「キスト」の人々を3年間にわたって記録した、日本・オランダ合作によるドキュメンタリー。
東ジョージアの山岳地帯、パンキシ渓谷。 レイラはチェチェン紛争で難民となり、シリア内戦で二人の息子を失った。息子たちの死後、彼女は美しい庭を作り、娘のマリアム、両親とともにゲストハウスを始める。 いとこのアボは、レイラの元を訪れる旅行者をコーカサスの山々へと案内するガイド。戦士の一族に生まれ、戦争の重いトラウマに苛まれていた。やがて二人は戦争で荒廃し、谷に残された負のイメージを払拭するため、ポーランドからきたバルバラと旅行会社を作ることになる。 だがある日、テロ容疑でパンキシ渓谷の青年が殺害され、新たな分断が生まれてしまう...

このドキュメンタリーはNHKで見た記憶があった。「アダミアニ」はジョージアの言葉で「人間」という意味だという。もともとジョージアにいるキリスト教徒でキストと呼ばれる人たちはチェチェン紛争のときにイスラム教徒も助けた歴史があるという。そしてパンキシの名はジョージアと国名が変わってもテロリストの村として悪名が世界に流れていた。

実際にチェチェン人が多いから迫害を受ける彼らは過激なイスラム教徒となる場合も多くそれは男たちの社会なのだが、このドキュメンタリーの主役となるゲストハウスの女性は、息子二人をそうした争いで亡くしたことから、男たちのように対立するのではなく、キリスト教徒と共存していく道を探るのだ。

またもう一人の元兵士のアダもポーランド人の女性の力によって村の観光案内役をやりながら、自分はこのままでいいのか葛藤する日々を送っているのである。筋肉隆々の鍛えられた身体に街中より自然の中が落ち着くという野生人で、かなりユニークな人だった。

このドキュメンタリーが面白いのは交流の場のフェスティバルに参加しようと計画を立てていたレイラ母さんが、イスラム教徒の息子が殺された事件によって変化する気持ちを捉えていた。イスラム人の父親がそんな祭りなど墓の側で開かせるわけにはいかないと抗議集会をするのだが、直前まで祭りに参加するはずが、レイラも急遽行くのを止めるのだ。それは彼女も二人の息子を殺されているので、その親の気持ちが痛いほどわかるので、行くことが出来ないのだった。頭ではそんな自分では駄目だと思うが身体がいうことを聞かないという。

その後に息子の嫁から電話がかかってきて、孫と話をする姿がなんともあわれな感じだった。多民族の交流と言っても理想通りに行かない現実と次世代の娘がそうした問題に向き合っていく姿も映し出し、素晴らしいドキュメンタリーだと思う。

やっぱ女性の力だよな。男だけで議論しているうちは対立しか生じないような。男のネガティブさと女のポジティブさを映し出したドキュメンタリーだった。違いはやはり子供を産むことと関係があるのかもしれない。その子供を喪失する悲しみも論理では解決出来ないのだと思った。


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