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映画界に食われた少年

『世界で一番美しい少年』(2021年/スウェーデン)監督クリスティーナ・リンドストロム/ クリスティアン・ペトリ 出演ビョルン・アンドレセン/ 池田理代子/ 酒井政利


解説
ルキノ・ビスコンティ監督の「ベニスに死す」(1971)で主人公を破滅に導く少年タジオ役を演じたビョルン・アンドレセンの50年間に迫ったドキュメンタリー。巨匠ルキノ・ビスコンティに見いだされて「ベニスに死す」に出演し、「世界で一番美しい少年」と称賛されたビョルン・アンドレセン。世界中から注目を集めた彼は、日本でもファンに熱く迎えられ、池田理代子の漫画「ベルサイユのばら」の主人公オスカルのモデルになるなど、日本のカルチャーに大きな影響を及ぼした。それから50年近い年月が流れ、アリ・アスター監督作「ミッドサマー」(2019)の老人ダン役でスクリーンに登場し、その変貌ぶりが話題となったアンドレセン。年老いた彼は、かつて熱狂の中で訪れた、東京、パリ、ベニスへ向かい、懐かしくも残酷な、栄光と破滅の軌跡をたどる。その旅路とともに、人生を運命づけられてしまったひとりの人間の心の再生を映し出す。

ビョルン・アンドレセンの数奇な運命というようなドキュメンタリー。ムービープラスでやっていたので見入ってしまった。父親が違う妹がいて、ビョルンが1月生まれで妹が12月生まれというのが、疑似双子と言われるという。これだけでもけっこう凄いのに、その後幼い子供たちを残して母親が自殺してしまう。母親は芸術家タイプのボヘミアン。たぶん祖母との間(母娘関係)に問題があったと思う。自由を求めていたがそれが叶わなく自殺ということだろうか?

それは幼い兄妹に深い傷を残すことになったようだ。その後に祖母がビョルン・アンドレセンの美貌に気がついて映画界にデビューさせる。ヴィスコンティ『ベニスに死す』で注目されるが、彼の立場はジャニーズだった。子役スターによくあることなのか、彼等(映画関係者)のトロフィーという言葉が残酷さを物語る。そのなかでゲイ・コミュニティの餌食とされたようだ。彼にはゲイである資質はなかった。

むしろマザコンタイプだったのか?幼い子供たちに突然母親が消滅してしまったのだから、喪失感を抱えて生きてしまったのだろう。それが彼の表情に魅力を添えてしまった。思春期ということもあって、さらに忙しい芸能活動で、それが当時の日本でもアイドル歌手としてデビューするほどだったのだ。池田理代子『ベルサイユの薔薇』のオスカルのモデルだったのは有名な話。池田理代子は当時は表面的なものしか見てなかったと告白しているがそうだったと思う。内面的なものを描いていたというが、それは別の話(池田理代子の内面)だろうと思う。

子役スターが大人の食い物になる例はジュディー・ガーランドの例もあるように、非常に似ていると思う。中でも日本の芸能界の仕事では薬を飲まされてまで働いていたという。

その後結婚をして平和な家庭を築くかに見えたが長男の突然死、彼は泥酔状態で側にいたので責任を感じてしまう。そうなると破綻人生の始まりのような。いや母の失踪からして破綻人生だったのだろう。

なんでそんなプライベートを映画にするのだろうと思ったが彼の復讐なのかなとも思った。見せることに長けている才能はあるのだと思う。様々な苦労を乗り越えての再生というドキュメンタリーになっているが、彼を食い物にした大人への告発は#metoo運動と同じような感じを受けた。そのおもしろさかな。興味本位なスキャンダラスなドキュメンタリーだけどビョルン・アンドレセンの美貌と母親の聖女性は保たれているのだ。むしろ宗教的にも感じる世界の話だ。それを彼は見事に作り替えたのだ。

日本デビューレコード。すでに変声期に入っているので売れなかったんだろうな。彼は本来恥ずかしがり屋で隠していたいのに裸になって(上半身だけだが)オーデションを受けなければならなかった。娘の証言が印象的だった。

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