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監督の盗作事件そのものの映画だった

『英雄の証明(2021)』(イラン/フランス/2021)監督アスガー・ファルハディ 出演アミル・ジャディディ/モーセン・タナバンデ/サハル・ゴルデュース/サリナ・ファルハディ


解説/あらすじ
イランの古都シラーズ。ラヒムは借金の罪で投獄され服役している。そんな彼の婚約者が偶然にも17枚の金貨を拾う。借金を返済すればその日にでも出所できる彼にとって、まさに神からの贈り物のように思えた。しかし、罪悪感に苛まれたラヒムは落とし主に返すことを決意。そのささやかな善行は、メディアに報じられると大反響を呼び“正直者の囚人”という美談の英雄に祭り上げられていく。ところが、SNSを介して広まったある噂をきっかけに状況は一変する。周囲の狂騒に翻弄され、無垢な吃音症の幼い息子をも残酷に巻き込んだ大事件へと発展していく。

SNSでアスガー・ファルハディ監督の盗作疑惑の記事が出ていて、その興味もあった。アスガー・ファルハディ監督は、イラン映画を代表するアッバス・キアロスタミの次世代の監督としてこれまで『別離』や『セールスマン』は、傑作だと思いました。『セールスマン』は、アーサー・ミラーの戯曲『セールスマンの死』をメタフィクション的に演じる俳優たち状況を描いて面白かった。

監督がイランの英雄から罪人となる重なるところが多い映画だが、一番描きたかったのはSNSで左右されてしまう世論というか、それを狙っての動画の出し方とか、イランでもそうなんだと思った。どの世界でも世論の感情で左右される正義。ただ、この囚人の場合、警察に利用されたのだ。

警察が囚人の正直さを利用して、刑務所内の矯正が正しいと見せかけようとしたのが、最大の過ちであったのだ。正直者が馬鹿を見るの現実版なんだけど、映画としてはそれほど傑作というほどでもなかった。ファルハディのこれまでの作品に比べてという話で、やっぱアイデアは尽きたのかと。

イラン警察の内情がもう一つわかりにくかった。一番の問題は吃音がある息子を使っての父親への同情の引き方を演出したというところなのだろうか?それを借金を踏み倒された人が息子を観て嫌になったというのは確かにあるだろう。その後のSNSに映像をアップするシーンは、わかりにくかった。

日本でも最近は感情論で左右される言論界であるように思える。「東京オリンピック」に関わった河瀬直美監督もそれまでの評価から一気に評価が落ちたと思う。それは白黒二分法で判断されるSNSの影響も大きい。まさに、『英雄の証明』はそういう作品なのだろう。傑作とは言えないが駄作でもない。



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