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韓国の語れない母と娘たちのフェミニズム世代の葛藤の物語

『年年歳歳』ファン・ジョンウン(翻訳)斎藤真理子

日本語で「従順な子」という意味の名で育った母の哀しみの向こうがわに広がる、それでしかありえなかった歴史の残酷。韓国最高峰の作家が描く母と娘たちの物語。

NHKラジオ『カルチャーラジオ 文学の世界“弱さ”から読みとく韓国現代文学』で紹介されたファン・ジョンウン『ディディの傘』が紹介されたのだが積読になっていた『年年歳歳』を読んだ。ファン・ジョンウンは『野蛮なアリスさん』を読んで興味ある作家だった。

最初の「廃墓」は朝鮮戦争時の家族に起こる悲劇なのでわかりにくい。そのわかりにくさを後章で明らかにするという手法なのだが、素直に解説を読んで理解したほうがいいと思う。韓国の歴史(日本統治時代以降)は知らないことが多いから朝鮮戦争の背景などが出てくる(闇の部分?)。日本では敗戦後の有吉佐和子『非色』で描かれた戦争花嫁差別というようなこと。

それが母親世代の話で韓国の暗部に踏み込んでいる。次章の「言いたい言葉」は長女の視点からで韓国の男尊女卑が『82年生まれ、キム・ジヨン』のようなフェミニズムの視点。この章は読みやすい。それは日本の男尊女卑にも感じることだが韓国はより儒教的だから長男や父親(夫)が優先される。

言いたいことを言える世代の娘と言えなかった母親世代のギャップ。家族のために自身を犠牲にする母親世代の違和感。

第三章「無名」は母の記憶が娘によって語られる。この部分が母が言えなかったことでミステリー風になっているがかなりシビアな男尊女卑が絡んだ戦後の混乱期の話。

第4章は作家となった次女の視点で長女からもより自由に外国を行き交う国際人のイメージ。そのなかでアメリカに渡った叔母さん(戦争花嫁)の受けた人種差別などが語られる。ナショナリズムの問題やアメリカで起きている韓国人移民問題は、映画にもなっていた。まあ、日本の移民政策も同じなのだが。

そういう歴史的背景のなかで従順に虐げられてきた母親世代を次の娘の世代が語っていくという物語である。『野蛮なアリスさん』の背景にはそういう複雑な歴史があったのだ。

関連映画
『ブルーバイ・ユー』



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