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シン・短歌レッスン24

春めくだな。今日は先人の句から。

春めくといふ言の葉をくりかへし  安倍みどり女

句跨りもいい感じで、読んだ後にもう一度繰り返したくなる句だった。安倍みどり女(じょ)といふ。

葛原妙子短歌

川野里子『幻想の重量』

葛原妙子が男たちから求められた魔女性にしろ母性にしろそれは女をカテゴリー化する男の視線でしかなかった。葛原妙子の女性性である原不安という核戦争後(ヒロシマの原爆投下)やホロコーストでの無神論的不安にまとわりつくものだった。

葡萄とは旧約聖書に書かれているユダヤ人が抱えなければならなかった巨大な葡萄の実(旧約「民数記」エシュコルの葡萄)。それは豊穣であると同時に何かを抱えてしまう人間自身の不安。例えば姦淫という罪は妊娠ということで神の祝福を得るのだが、妊娠に対する喜びというよりも不安を抱えてしまう現代という社会にあって(シングル・マザーの妊娠や望まない妊娠)、むしろ無神論だからこそその運命に恐怖するのであるのかもしれなかった。

敗戦よりも人間性の喪失する戦争という恐怖の姿は巨大な葡萄の房と共に現れてくる。葛原妙子が最初にイメージしたのは球体のガスタンクであった。それが何時転がり爆発するかわからない恐怖を持っていた。それが女性性の子宮という原不安となって現れてくる。

模範十首

山田航『桜前線開架宣言』より「今橋愛」。分かち書き、口語短歌の特異なスタイルだが、むしろ古典の音韻性(本来の歌の形)を踏まえているのではないかという。

そこにいるときすこしさみそうなとき
めをつむる。あまい。そこにいたとき。  今橋愛『O脚の膝』

ゆれているうすむらさきがこんなにもすべてのことをゆるしてくれる  今橋愛『O脚の膝』

濃い。これはなんなんアボガド?
しらないものこわいこわいいつもいつもいうのに  今橋愛『O脚の膝』

過去にだれてもであわないでよ
若いきすしないでよ
今 うまれてきてよ  今橋愛『O脚の膝』

おめんとか
具体的には日焼け止め
へやをでることはなにかけつけること  今橋愛『O脚の膝』

もちあげたりもどされたりするふとももがみえる
せんぷうき
強でまわっている  今橋愛『O脚の膝』

つかいおえるまでこのへやにいるかしら
三十枚入りのすみれこっとん  今橋愛『O脚の膝』

くもがねー
ちぎれて足跡のようだよ。
こんとんをどけたあとがみたいの。  今橋愛『O脚の膝』

きのう家。
軽くこわれて かあさんは
こんな日にだけ むらさきのしゃどうを  今橋愛『O脚の膝』

ぼくもです。と
きみからメールが来て
わたし
こころだけになって
ずっとまっていた  今橋愛『トリビュート百人一首』

ひらがな表記の口語は仮名文字で書かれた和歌に近いような音韻を生み出しているような。リフレインや脚韻の音韻なども詩的でさえある。
「ゆれている」は一行書き。一行書きらしく滞りなく流れてゆく。
ラストは『百人一首』の素性法師の本歌取り短歌。

今来むと 言ひしばかりに 長月(ながつき)の
有明(ありあけ)の月を 待ち出(い)づるかな  素性法師

『百人一首』

俳句レッスン

本の整理をしていたら、図書館で借りたこの本は購入済みだった。まったくだな。積読を返り見ることすらしない。まあ、この本はけっこう俳句作りに役立つ本ではあると思う。

句会は「東京マッハ」のイメージがあるから、正式な句会はけっこう面倒だと思ってしまった。メンバー的には悪くないのに、「東京マッハ」より盛り上がりに欠けた。逆選がないのもあるが、真面目すぎるたのかも。句会のおもしろさは、作った時点よりも読み(解釈)の時点で評価が変わる。

人気の4点句

静寂は爆音である花吹雪  又吉直樹

花吹雪は音はしないのだが、その吹雪かたが爆音という芭蕉の「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」の反対だという。納得。

パイプ椅子ばたばたたたまれておぼろ  堀本裕樹

パイプ椅子がばたばたと畳まれる様子がひらがなによってよく出ている。中七が句跨りなのもバタバタ感があり、結句の「おぼろ」が決まっている。「おぼろ」は春の霞んだ状態。

蝶々よりやわらかいものに○をせよ  藤野可織

藤野可織はホラー系俳句が得意で、これもやわらかいは触ってみなければわからない。そしてそのやわらかいものって何だろうという問い生む。中七が八音だけどゆるい句会だといいみたい。

初蝶や空にノンブルふるごとく  堀本裕樹

「ノンブル」がわからなかったけど「ナンバリング」というような。数え上げていくのだが作者は「初蝶」だから一匹が動いている様子を詠んだのだが解釈として沢山の蝶が飛んできたというのもあった。

鳥雲(とりぐもり)家電みな床置きの部屋  藤野可織

これも藤野可織。この人はなかなか上手いよな。「鳥雲」という季語は春になって冬鳥が去っていく。分かれて急いで引っ越したのか家電が床置きになっている。「家電みな床」「置きの部屋」という配置もばっちり決まっている。空と床の対比とか。

季語の選び方は、実作で覚えたほうがいいのかもしれない。「鳥曇」は使ってみたい季語だった。

第8章が句会で、第9章が鎌倉へ吟行。吟行では俳句を完成させなくても6割ぐらいの出来で、あとから完成させるのがポイントという。それまでいろいろな種を収集するのが目的。だからとりあえず5句なら5句作ってみる。後から添削して完成させてゆく。また同行者がいる場合は、意見交換の場でもある。その批評を取り入れて完成させるというのもあり。

第十章で終わりだった。堀本がワンツーマンで又吉に俳句を作るだけではなく先人の句の感想などを質問して、そこから話を広げていくのは、俳句の詠みよりも鑑賞力を鍛えるということをやっていた。その為に好きな俳人の句集を徹底的に読むということも勉強になるという。誰がいいでしょうね。当たり前だけど芭蕉になってしまうんだよな。

歌人で山崎方代が面白いと思った。又吉推薦の歌人。

『源氏物語』短歌

今日は『源氏物語』で詠もう。どこかいいか?「末摘花」かな。

花粉症マスク美人は
末摘花
涙目見つめ嚏(くさめ)ひとつや

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