見出し画像

依存症女の末路(ベルリンの酒場放浪記)

『アル中⼥の肖像』(1979 年/西ドイツ/108分)監督・脚本・撮影・美術・ナレーション:ウルリケ・オッティンガー 出演:タベア・ブルーメンシャイン、ルッツェ、マグダレーナ・モンテツマ、ニナ・ハーゲン、クルト・ラープ、フォルカー・シュペングラー、エディ・コンスタンティーヌ、ヴォルフ・フォステル、マーティン・キッペンバーガー


2020年ベルリン国際映画祭でベルリナーレカメラ(功労賞)を受賞したドイツの映画作家ウルリケ・オッティンガーが1970年代末から80年代にかけて発表した「ベルリン3部作」の第1作。1980年代の西ドイツでアート&ファッションのアイコン的存在であったタベア・ブルーメンシャインを主演に迎え、酒飲みの女の人生を描き出す。

共演にはパンク歌手のニナ・ハーゲン、「アルファヴィル」のエディ・コンスタンティーヌ、前衛的な芸術運動「Fluxus(フルクサス)」に参加したウルフ・ボステル、戦後ドイツを代表する芸術家マーティン・キッペンバーガーら多彩なキャストが集結。ブルーメンシャインが衣装も担当した。 

アル中女がベルリンを飲み歩くというだけの酔っぱらい映画なのだが、映画になっているのは、アル中についての考察という本をストーリーに織り込んで、女性のアル中がどれだけ隠されているのか?アル中は依存症であり、精神的自殺というような問いがなされているからである。同時にベルリンに降り立つ社会調査団の三人かしまし娘(オバサンだが)を相対的に見せており、アル中女にはホームレス女の友だちが一緒にさまよい歩く。

何より主人公の女がモデルタイプであり極貧の女性ではないのだった(美の象徴として描かれている)。ただアル中であり飲み屋から飲み屋へとベルリンの「吉田類の酒場放浪記」という感じだが、TVではないのでとことん酔い潰れるアル中だった。これは社会問題としての問いを孕んでいる映画なのだ。男には許されて女には許されず奇異な視線を浴びる、実際彼女はアル中であるから保護しなければならないのだが無視される、それはホームレスの女性も同じだった。

主演のタベア・ブルーメンシャインはドイツのファッション・アイコンであるという人で美の象徴として存在するのだが、彼女がアル中なのである。これはアル中以前に依存症として(例えば薬物中毒)よくあるパターンのような気がする。監督の意図はそうした美の先進的な女性が依存症になる世界を描いているのだった。そしてその対極にホームレスの女性もいる。置かれている立場の共通性、人々から無視され、蔑まれる存在なのだった。そんなベルリンという幻想の世界は鏡の世界でありラストのハイヒールで鏡の世界の床を割っていくシーンが素晴らしい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?