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『人間の証明』沖縄版

『劇映画 沖縄』(1969/日本)監督武田敦 出演 ‎ 佐々木愛/地井武男/岩崎信忠/富山真沙子/トニー和田


■「どんなことがあってもこの土地にしがみついて離れないからな! 」
■沸騰する沖縄の地とたぎる人々の血!
■辺野古基地問題のルーツがここにある!

◎土地を奪われた農民たちの怒りと闘いを描く第一部「一坪たりともわたすまい」と教育労働者、基地労働者たちの共通した"民族の自覚に燃えた怒り"を主題に、全編を通じ沖縄の即時無条件全面返還の闘いを描いた第二部「怒りの島」からなる長編映画『劇映画 沖縄』。公開当時、全国のホール等を巡回上映していく流れの中で、日本本土での沖縄復帰運動を大きく高揚させる役割を果たした歴史的映画と言われている。
◎本作が初主演映画となる地井武男の若々しくエネルギッシュな演技、中村翫右衛門(なかむらかんえもん)、加藤嘉、飯田蝶子、花沢徳衛、吉田義夫、戸浦六宏、鈴木瑞穂、佐々木すみ江ら名優達が見せる名演技も見もの。
◎監督・脚本は本作の他、「ドレイ工場」(1968年)等の4本の映画を監督し、後に「金環蝕」(1975年)、「ダイナマイトどんどん」(1978年)、「敦煌」(1988年)等のプロデューサーを務めた武田敦。製作は社会派映画の大巨匠 山本薩夫、音楽は映画音楽の他、特撮ヒーロー音楽の大巨星として知られる渡辺宙明が担当。
◎返還前の沖縄でロケを行っているため、その当時の沖縄の人々の暮らし、バー街等貴重な映像が収録されている。その他、初めてベトナムへ出撃するB52爆撃機を記録した映画と言われている。

(1972年)返還前の沖縄ロケが凄い。その前に観た『沖縄の民』(1956年)よりも明らかに臨場感が違う。戦後沖縄の姿をこれほどわかりやすく、面白く描いた作品はないと思う。エンタメ青春映画になっているのも面白い。どうして、この映画がそれほど知られてないのだろう。広島原爆を描いた映画『ひろしま』に作り方が似ているかも(日教組と市民らと作った映画)。

第一部「一坪たりともわたすまい」

沖縄の土地が米軍に撤収される過程を描いている。畑や田圃がなければ生活していけない農民とアメリカ軍によって甘い汁(軍事産業からの利益)を吸おうとする地主との対立。沖縄の基地反対闘争が一本化ではないことが描かれている。その中で主役となるのは、米軍のパイパンとして働く女が生んだハーフの娘。彼女はおばあちゃん子で老婦の畑作りを賢明に助けている。そこで起きる土地返還運動。沖縄の不良少年たちは、米軍の持ち物を盗んで金に変える。

反対運動を映し出した三線で沖縄民謡を歌うおじいは現地で撮られたのだろうか?そのぐらいリアリティがある。村民の夜の酒盛りでの佐々木愛の踊りがメインとして感動を伝えるが、それは沖縄の娘が反対派と現実派(アメリカに従って、基地の仕事をしよう)の間にわって入って踊るのだ。そういう飲み会は、村民一致みたいで、確かにそういうノリがあるようなドキュメンタリーを見たことがある。

事件は、基地外で畑仕事をしていたおばあが米軍の射撃訓練で殺されたことから、基地闘争はエスカレートしていく。沖縄米軍基地での犠牲者の抗議集会で幕を閉じる。

第二部「怒りの島」

現在(1969年当時)の沖縄。敗戦後すぐの沖縄とは様相が一変していた。米軍の軍事工場で働く沖縄民。元地主は沖縄民を牛耳る産業界のボスになっていた。土地を失った沖縄民は軍事工場で働くか、南米へ開拓民として出ていくか。開拓民の話は、初めて知った。日本本土ではそういう話を聞いた(アントニオ猪木が開拓民の子供だったとか)が、沖縄の開拓民は無国籍で行くから事件が起きたらどうにも出来なで泣き寝入りするしかない。沖縄難民の辛い現実。

軍事工場でのストライキは、組合映画と言ってもいい内容だけど、沖縄の現実が描かれている。組合つぶしの手法とかも描かれていて面白い。米軍の交通事故によるアメリカの不公平な軍事裁判も。怒りのボルテージが上がる。

結局、ベトナム戦争の頃だから沖縄は重要な基地として後方支援していたのだ。その工場でストライキをやるのだから、面白い。この映画の中には、『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』たちのキャバ嬢の構造も『ヤンキーと地元』の沖縄ヤンキーの行き場のなさも描かれている。それが沖縄返還運動につながっていく。

だからその後に日本に返還されても米軍基地がまったく減らない怒りは、わかるような気がする。あの頃は本土でも反対闘争が盛んだったのだ。そう沖縄が嫌で東京に行って、また沖縄に帰ってくる先生も描かれていた。ほとんど上間陽子じゃないか?

左翼運動がまだ激しかった頃だからこういう映画も作られたのだと思う。本土と沖縄が一体となって米軍基地反対闘争が出来た時代なのだ。これがエンタメ青春映画として制作されているのも面白い。宣伝の仕方では『人間の証明』ぐらいはヒットしたのではと思える。黒人のハーフの子の悲劇も描かれている。『人間の証明』沖縄版と言っていいと思う。


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