綺麗すぎる戦争映画
『ラーゲリより愛を込めて』(2022/日本)監督瀬々敬久 出演二宮和也/北川景子/松坂桃李/中島健人/桐谷健太/安田顕
全体的に綺麗すぎる作り。北川景子は戦時の顔ではないのでミスキャストだと思う。ラーゲリーの様子も最初は制服が新しかったり、冬のシベリアで穴を掘るのがサクサクすぎて(凍土なのに)リアリズムでないような。戦争ファンタジーなのかな。
ラーゲリーというと石原吉郎を思いだすのだ、内容はだいたいそんな感じだった。ただ石原吉郎の体験したラーゲリーはもっと悲惨に書かれていた。例えば列車の中は汚物垂れ流し状態で、食料はわずかの状態でそれだけしか考えられなかったと。だからこのラーゲリーはそこまで悲惨には描いておらずごく普通の捕虜映画のようにも思えた。
監督が瀬々敬久でオールキャスト映画を作るけど自分の撮りたい映画のためにこういう映画を撮るのだと思いたい。これは綺麗すぎる映画だもの。ラストの手紙のシーンは、泣けるけど4人も繰り返すと飽きてしまう。トイレを我慢する時間が、その分長くなったようで。
例えばハルピンの幸福すぎる家族を思い出させるシーンは、その裏に隠された絶望があるのだ。それはラーゲリーと同様なものなのに、ハルピンの幸福な家族を肯定してしまうラストは問題あるシーンだ。
原作の辺見じゅんは、後に『男たちの大和』を書いた作家だった。一応、モデルは山本幡男という俳句を作る人だった。それで叙情的なんだと思った。俳句や短歌がそういう叙情詩的な面で批判され、大政翼賛のうたになりやすいと戦後は批評されたのだ。その批評の中から出てきたのが石原吉郎の現代詩であった。二人のまるっきり違うラーゲリーの描写はそういうことだった。
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