渋さ知らズ=愛だから
『NEVER MIND DA 渋さ知らズ 番外地篇』(2022年/日本)プロデューサー・監督:佐藤訪米 出演:不破大輔、佐々木彩子、渋谷毅、林栄一、加藤崇之、大友良英、山本精一、のなか悟空、スズキコージ、片山広明、金平茂紀、渡部真一、戌井昭人、山下敦弘、高岡大祐、登敬三、伊藤俊行、フェダイン、渋さ知らズオーケストラほか
「渋さ知らズ」は知る人ぞ知るというようなフリー・ジャズ系ビッグバンドだが、最近はライブにも行かなくなったので最近の動向は知らないのだが、結成30周年ということだった。一番聴いていたのは2000年代か。まだ体力があった頃だった。ビッグ・バンドだからエネルギーが凄くて、ジャズという枠に囚われないパフォーマンス型のバンド。もともとがアングラ劇団のバンドから始まったというので納得だった。音楽だけでなくパーフォマンスも見事で祭のような巨大な龍の出し物とか飛び交うダンス・パフォーマンスと音楽に演劇的要素も加わったバンドなのだ。
それは70年代頃のアングラ劇とフリー・ジャズの即興を汲むビッグバンドであり、演劇が祭りの場というような、そう言えば初めて観たのも横浜ジャズ祭だった。そういう大舞台でのパフォーマンスは海外のジャズ祭でも有名になり、歌と踊りの祝祭的なバンドなのである。
その中で核となるミュージシャンやライブハウスの人々の繋がりなどをインタビューを通して、「渋さ知らズ」の成り立ちと人気の秘密を探っていくドキュメンタリー映画。そしてもう一つは京都大学の自治祭に関わるライブがあり、それが2019年最後となって、大学も政府による改革で自治がなくなっていく現状の中で作られた映画だった。
「番外地篇」とあるのは、そのライブの予告篇的な意味合いの映画ということだった。それは大学自治のドラマと「渋さ知らズ」のライブによって自由とは何かを問う映画の予定ということで、今回の映画はそのプロローグ編に過ぎない。ただ予算の関係で(昨今の映画不況もあり)その映画が出来るかどうかの瀬戸際らしい。そういう資金集めも兼ねてのこの映画なのだという。
この映画はそういう自由なる場を求めて、けれどもそういう自由を押しつぶす暴力性について問う映画だということだった。それはリーダーの不破大輔がバンドをまとめるための権力となる暴力についても語っていた。たぶんそれはバンドの方向性と即興演奏という統一と自由の中で抱え込むリーダーならではの悩みなのかもしれない。同じようなことはチャールズ・ミンガスもジャズ・ワークショップの中で言っていた。まあ、ミンガスは暴力性で持って解決していくこともあったのだが。
そういう「渋さ知らズ」というバンドという世界と今の社会の中でリンクしてくる問題、例えばそれが京大の自治寮や自治会の問題なのだ。そういう話が出てくるのだが、実際の演奏シーンに比べると単なる酔っぱらいの戯言のように思えるかもしれない。
それはインタビュアーの佐々木彩子の性格によるものかもしれない。良く言えば愛に溢れた人なんだろうけど、酔っ払って絡んでくると面倒くさい人のように思える。監督が不破大輔もそういう一面があると言っていたので、それが渋さ知らズの魅力でもあるのだ。それは、愛ということだ。ただ渋さ(孤独か?)がないのだ。それは客観的にクールに眺める視線だろうか。それがこの映画なのかもしれない。
なんでライブに行かなくなったのだろうと思ったら一人で行くには辛すぎからなんだと思う。祭りや花火をぼっちで見るのは、そこに観客として参加して初めて楽しさがわかるというものだから、映画を一人で観ていたのかもしれない。
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