山口果林はほとんど思い出せない。美人だった記憶だけだな。
『安部公房とわたし』山口果林 (講談社+α文庫)
「君は、僕の足もとを照らしてくれる光なんだ――」その作家は、夫人と別居して女優との生活を選んだ。没後20年、初めて明かされる文豪の「愛と死」。死であり、伴侶。23歳年上の安部公房と出会ったのは、18歳のときだった。そして1993年1月、ノーベル賞候補の文学者は、女優の自宅で倒れ、還らぬ人となった。二人の愛は、なぜ秘められなければならなかったのか? すべてを明かす手記。
「君は、僕の足もとを照らしてくれる光なんだ――」
その作家は、夫人と別居して女優との生活を選んだ。
没後20年、初めて明かされる文豪の「愛と死」。
師であり、伴侶。23歳年上の安部公房と出会ったのは、18歳のときだった。そして1993年1月、ノーベル賞候補の文学者は、女優の自宅で倒れ、還らぬ人となった。二人の愛は、なぜ秘められなければならなかったのか? すべてを明かす手記。
普段はあまりこういう本を読まないのだが、安部公房の『砂の女』を読んだばかりなのと、たまたま読書本を忘れたのでKindleの読み放題に入っていたので時間つぶしに読んでみた。
ノーベル賞候補作家というより大学の演劇科の講師と生徒の関係だから、今だったら問題だよな。生徒が失恋中に言い寄ってしまうんだから、安部公房が悪いというか、当時はこのぐらいのことはよくあるようで、演出家と俳優の関係も取りざたされているし、珍しいことではなかったようだ。
それでも安部公房には奥さんもいたのだし、それがバレてしまったようで島尾敏雄『死の棘』のような状態まで奥さんがなったようなことが書かれている。
山口果林にしてもNHK連続朝ドラ中のことなのでバレないか気が気でなかったようなのだし、妊娠中絶までしているのだからその代償は大きいだろう。ただ山口果林が安部公房に対して恨み言を言ってないのが救われる。デビュー作でいきなり大作家になってしまったから大人になれなかったバブル時代のオヤジなんだろうなと思う。
安部公房の趣味も高級車とカメラとかホビーもの関連(閉じのものマガジン的な消費主義者)、まさにバブル時代の贅沢品を求めていたようである。その頃の贅沢文化繋がりで、バブルの時代に二人の世界で閉じこもったのが『箱人間』や『砂の女』以後の作品に反映されているという。『砂の女』も女に対しての欲望は動物的なものでもあるし。
ただ安部公房との関係はそれほど詳しく書かれてはいない。むしろ山口果林が60年代後半から日本の高度成長期に受けてきた文化や映画の享受の仕方が羨ましいというか、面白かった。ヌーヴェル・ヴァーグをその時代に触れたとか。それと安部公房の影響も大きいので、その当時の最先端の文化にも触れたということも。ただ彼女は舞台女優を目指していたので、その努力は並大抵のものではない。先生と寝るぐらいはいいステップだったのかもと思えるところもある。
もともと彼女は孤立タイプの我が強い性格なので、結婚は出来なかっただろうと。それに幼少期の性的いたずらとかもあったようで、そのことを最初に打ち明けれたのも安部公房とかいう話だった。まあ彼女にとっては精神的支柱だったのは間違いないことなのだが、それでも代償はあったのだ。肝心なときに会えないとか、ラブホテルで出会う生活とか、やがてアパート暮らしになるのだが、そこでも人目を気にしなくてはならないとか。箱根での逢引が多かったようである。それも奥さんにバレていくのだが。
幼少期の思い出はほんとにわがままに育ったようで、読み物としても面白い。それと舞台女優で生きていこうと思ったのに、いきなり朝ドラで有名人になってしまったとか。同世代では付き合えないよな。NHKの朝ドラだとそういうスキャンダルが一番駄目なわけで、よく隠せ通したと思う。まあバレたら大変なことになるのはわかっているから、その裏で日陰者として妊娠中絶を一人でしなければならなかったり。
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