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踏み潰せ!『麦と兵隊』からの抵抗文学

『南京 抵抗と尊厳』阿壠 (著), 関根 謙 (翻訳)(単行本 – 2019)

抗日戦争の前線指揮官阿壠(国民党軍少佐)が描いた南京陥落の真実。
毛沢東政権下で投獄され、押収された幻の叙事文学。完全邦訳版ついに完成!
歴史に翻弄されながらも戦う姿勢を貫いた、戦闘的文学者・阿瀧の幻の主著。
阿壠は困難な日々の中で、かつて押収された文書の記憶をたどり、原作の原稿ノートを書き綴った。数奇な変遷を経て甦った本書には、阿壠の描く南京防衛戦の生々しい戦闘と苦悩する群像の姿すべてがおさめられている。
巻末では阿壠の年譜、さらに訳者が様々な観点から検討した「南京」を詳細に解説。

阿壠は軍人作家だったので、「南京陥落」を中国国民軍の視点から、一人の主人公(個人)の視点というより、国民軍(群像劇)の各部隊の物語をルポルタージュ的に描いているのですね。映画『南京!南京!』だと序盤の国民軍の戦い、見事に?破れていった(軍事的失敗もあり)戦争のリアリティを描いています。

映画『南京!南京!』だと序盤の国民軍の戦いのエンタメ部分で、見事に?破れていった(軍事的失敗もあり)戦争のリアリティを幾分ヒロイニック的に描いています。それは、中国国民の尊厳や抗戦を鼓舞するためでもあったのでしょう。「南京陥落」という事実を、それでもまだ抗戦の火は消えていないのだという抵抗としての「文学」。

エピローグはそのプロパガンダと言えるような勝利の設計図だ。中国としては持久戦に持ち込むしかないので、南京陥落を国民軍の退却として、ソ連がドイツ戦で戦ったような戦術としての総力戦での勝利としてみるならば、ショスタコの交響曲の役割だったのかもしれない。


「南京陥落」の悲惨な戦争を見ておののくは中国軍兵士ではなく、日本軍なのだ。

1937年12月13日、 南京――。
「それは日本兵の首吊り死体だった。 それもどうやら自殺のように見えた。
厳龍には絶え間なく落ちてくる大粒の水滴が、
これらの死体の目から流れ出る声なき涙のように思えた。」 (本文より)

阿壠の悲劇は国民軍に属して共産軍のスパイをしながらも、反勢力として共産党からは監獄へ入れられてしまう。そのためにこの原稿も細部を完成することが出来ずに残ったノートからの遺稿集と見るほうがいいでしょう。


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