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『ハイティーン・ブギ』の元は『源氏物語』?

『殴り合う貴族たち』繁田信一 (角川ソフィア文庫– 2008)

宮中での取っ組み合いの喧嘩、従者の殴殺。果ては邸宅建設のために平安京を破壊するなど、優雅な王朝時代のはずが、貴族たちはやりたい放題の暴れぶり。当時の記録をもとに貴族たちの意外な素顔を探り出した意欲作。

小野宮実資(ふじわら の さねすけ)の日記『小右記』を元にした「週刊実話」的なスキャンダル記事で『源氏物語』や『枕草子』の優雅な王朝物語とは違って、暴力とエロに満ちたヤクザな裏世界を暴いてみせる。ウィキペディアによると小野宮実資自身がスケベであったそうな。そういう覗き根性がこうした手記を書かせたのかもしれない。

そもそも天皇が日本国を統一したのも暴力と悪知恵だから、その側近にいる貴族もそんなもんです。執政になると血縁関係で地位が決まるから、子息はやりたい放題、下にいる者もなんとか蹴落とそうとするヤクザな世界。貴族は手を汚さずにその従者が主人の意向でやりたい放題。そのお陰で暴力専門とする武士が出てきたのです。

『源氏物語』も裏読みすれば、ヤンキーな兄ちゃんが取り巻き連中に囲まれてあっちこっち女を作る話。『ハイティーン・ブギ』と変わらないのだ(御曹司が不良というパターンの物語は『源氏物語』発なのかも)。従順な女を求めて愛だとかほざくわけです。もてない男の僻みか?

犯罪者を取り締まる検非違使も元犯罪者でそれで暴力でもって統治していた。権力側に付けば暴力も許される。そういうこと。権力側の暴力装置とはそういうことです。まあ政治家がそういうことを言うと顰蹙を買うけど。

こういう庶民側からみた説話物語が『今昔物語集』で説話集だから道徳的な悪例として貴族の奔放な欲望まみれの世界を描いているわけです。「花山法皇の皇女殺人事件」は、着物を奪われた皇女が平安の路上で野犬に食われる無残な姿を描いています。この皇女が花山法皇の隠し子(出家したのにまだあっちのほうが盛んで)で貴族の家に預けられていたのが発覚しそうになったけど事件は揉み消された。

権力側はたえずそういう揉み消し工作をするものなのですね。それを日記で暴いているのは摂関家藤原道長と反する勢力にいたからです。この道長一族がそうとう悪いらしい。藤原鎌足の家系で、その以後の藤原執政の悪政を物語っているのですが、あっちこっち愛人を作っては(当時は一夫多妻制)は子供が権力争いをするものだから、陰謀や策略は当たり前の世界なので、その陰で暴力がはびこる。それも女の奪い合いとか。そして、紫式部や清少納言の父親たちは受領だった(地主階級で貴族世界に憧れる)。その新貴族たちも皇族からは蔑まれていたということです。だから『源氏物語』のようなアウトサイダーの御曹司物語が子女に好まれる。少女漫画と相性がいいはずですね。

女の闘いも凄かったわけですけど、そういうのはファンタジーに隠される。そういうのが明らかになるのは、こうしたスキャンダル手記のお陰ですけど。男たちはそういうスキャンダル話が好きなんですね。『紫式部日記』にもそうした男たちの醜態が書かれているそうです。

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