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無関心領域に関心を向けるには?

『関心領域』(アメリカ・イギリス・ポーランド/2023)監督: ジョナサン・グレイザー 出演: クリスティアン・フリーデル/ザンドラ・ヒュラー


空は青く、誰もが笑顔で、子供たちの楽しげな声が聴こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から黒い煙があがっている。時は1945年、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘス(クリスティアン・フリーデル)とその妻ヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)ら家族は、収容所の隣で幸せに暮らしていた。スクリーンに映し出されるのは、どこにでもある穏やかな日常。しかし、壁ひとつ隔てたアウシュビッツ収容所の存在が、音、建物からあがる煙、家族の交わす何気ない会話や視線、そして気配から着実に伝わってくる。壁を隔てたふたつの世界にどんな違いがあるのか?平和に暮らす家族と彼らにはどんな違いがあるのか?そして、あなたと彼らとの違いは?

アウシュヴィッツに関心がある人はいいんだけど、無関心領域の人にどう伝えたいのかというと困った映画のように思える。まあ、アカデミー賞取っているし斬新なホラーのようだよと勧めればいいのか?

批評家とか関心領域にある人は面白いのかなと思うのだが、無関心な人は全く響かないだろうなと思ってしまう。ラストの音楽も芸術映画かと思ってしまうほど。わからないということはなくて、アウシュヴィッツの焼却炉とか靴の山とかの映像があるので、そういう歴史はあったと思う。またナチスの幹部の家庭が明るい中に不安定なシーンがあるのもわかるが、この映画を人に勧めるかと思うとちょっと躊躇ってしまうと思うのだ。

関心領域にある人は、毎年のようにアウシュヴィッツの映画は観に行くのだろうけど、無関心の人はまったく見に行かないだろう。有名女優がそれまでにない演技だとか、アカデミー賞は良い宣伝になったかもしれないが、そこまでだった。

ナチス家族の映画なら「映像の世紀」のほうがショッキングだ。今まで観た中では『ショアー』とかのドキュメンタリーの方が響くかな。あるいは、最近では『サウルの息子』とかのストレートな物語の方がいいのかもしれないが、毎年のようにアウシュヴィッツもの映画もあるので、いろいろ考えるんだろうけどそれが芸術的になったりエンタメのようになってしまうとどうなのかなと思ってしまう。


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