服を買って砂の惑星から帰って来た。

数ヵ月ぶりに服を買った。
原稿がひと段落したので、雨に濡れながら近場のユニクロまで行った。
秋になって頭が働くようになり、今のままではいけないと思ったからだ。

忘れもしない緊急事態宣言が発令された春以降、私は精神的に、服を買う余裕がなかった。
因みに、緊急事態宣言中は近所のアパレルショップが全て休業になっていた。
大型商業施設に囲まれた生活をしていた都民は、一夜にしてパンツ難民になってしまった
コンクリートジャングルの中でパンツすら買えない生活というのは、なかなか味わえるものではない。

緊急事態宣言が解除され、私は念のために予備のパンツと靴下を買ったが、それでも服を買う気にはなれなかった。
春の始めに買っていた、無印良品のアースカラーの上着を羽織り、中はあり合わせの服を着て外出していた。

そうしているうちに、夏なった。
なんとなく素肌を晒す気になれず、引き続き、アースカラーの上着の腕をまくり、七分袖にして外を歩いていた。冷房がある場所だと身体が冷えやすいので、上着があるのは便利だった。

そうしているうちに、アースカラーの上着は使用感が増していき、ヨレヨレ度が上がって来た。
メンテナンスはしていたのだが、恐らく、ここまでダラダラと着ることを想定して作られていなかったのだ(多分)。

ショーウィンドウに映る自分を見て、こう思うようになった。
砂の惑星に不時着した旅人だ、と。
ベージュの上着は、砂にまみれたボロボロのコートのようになっていた。
完全に、防砂のためにボロ布を羽織りましたという姿だ。

おかしい。
無印良品の服って、こんな感じだったっけ。
そもそも、購入した時点で、モロッコの砂漠に化石発掘へ行く探検隊の風貌だったが。

購入した時は、珍しくナチュラルカラーの服を着て、ちょっと落ち着いた装いの自分になりたかった。
しかし、今の自分はどう見ても、文明が失われた星を彷徨う旅人だ。
ナチュラル感ではなく、SF感が出てどうする。

私は仕事がキリのいいところまで終わった時点で、砂の惑星の放浪者コーデで、ユニクロへと向かった。
色のコントラストがハッキリした服を何着か試着してみたら、自らに文明を感じることが出来た。

私は、パンパンになったユニクロの紙袋を手に、砂の惑星から地球に帰って来た。
アースカラーの服は、しばらくの間、購入しないだろう。
ベージュを着れば砂の惑星の旅人、深緑を着れば密林の探検隊になってしまう。
そもそも、私が地球に近づこうなどとおこがましかったのだ。

砂の惑星の放浪者コーデは、本日で終了。
明日からは、地球の文明が感じられる装いになる。
だが、また砂の惑星を感じたくなった時は、こっそりと放浪者コーデになるかもしれない。

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