演劇のオンライン配信について思うこと

コロナ禍になり、多くの演劇関係者は様々な苦境に立たされてきたし、それは今もなお現在進行形で続いていると思うが、あえて演劇の提供側ではなく、一人の演劇ファンの立場で言わせてもらうと、コロナの影響で、演劇のオンライン配信(ライブやアーカイブ)が充実してきた昨今の状況は非常に喜ばしいことであると、私は思っている。
演劇業界においては、将来確実に暗黒時代の一つとして記憶されるであろう、このコロナ禍の時代が、しかし、演劇というジャンルにとって悲しむべきことばかりではない、そんな話である。

有名な劇団・集団であっても、公演は東京でのみ開催されることがほとんどだ。
これは、私のような地方在住の演劇ファンからすれば、改めて言うべきでないほど厳然たる、そして失望の念をもって認めざるを得ない事実である。
厳密にいえば「東京で」というよりは、「その集団の本拠地がある地域」で、というのが事実なのだろうが、ある程度有名であったり注目されていたり、ようするにぜひ見たいと思える(そのための情報が流れてくる)劇団のほとんどが東京近辺に籍をおいている、ゆえに有名劇団「ほど」公演が東京のみで開催されるといったほうが正確かもしれない。
頑張ってたまに大阪公演がついているくらいだ。青年団のように拠点を地方に移したところはレアケースであり、また別の話。

ようするに何が言いたいかというと、見たいとおもったものが、全然見れないのである。金銭的にも時間的にもハードルが高すぎて、現実的に無理なのだ。
休日ならいけるとかそんなレベルではない、年1の旅行気分で計画しないといけない、壮大な心意気と金と労力を必要とする。
それでも無理な時は無理だ。前に東京に行ったのは何年前の話だ?

それが、ここへきて、この配信のムーブメントである。好きな劇団の気になる公演が、仕事終わりにあるいは休日に家にいながら、見れる!!
それが今週も来週も、来月もだ。
「神よ」
と思う。大げさではない。
この一年間で体験した観劇ライフは、これまでのどの期間よりも濃厚で充実していたように思う。
配信を観劇と呼べるのかという意見はあるとしても、だ。

生の舞台が一番良い。劇場でしか感じられない演劇の素晴らしさがある。
わかっている、そんなこと。でも、それしかなければ、我々はそもそも見ることが不可能なのだ。
0%か100%かであれば、0%の選択しかできなかったのだ。
それが配信ではライブの50%しか伝わらないかもしれないが、それでもいい。0よりは断然いい。

音楽だって、ライブで聞くのが一番良い、でも、ここまで音楽が多くの人に伝わったのは、ラジオ、レコード、CD、というメディアの力があってこそだ。
メディアじゃライブの感動が、演者の熱が、観客との一体感が、楽器を奏でる振動が、伝わらないよ、とこだわって、もしライブしかしていなかったら、そもそも、音楽好きの全数(パイ)がこんなに広がってはいないはず。
メディアで気軽に聞いて、知って、そして、いつかライブに行ってみたい、と思うのだ。
そして実際のライブに行ったら感動して、次の日からまた音源を聞くのだよ。次はいつライブに行けるだろうと思いながら。

音楽で言えば、コロナ禍になり、フェスの配信が多くなった。フェスに興味があっても現地へ行くのは難しい。
或いは、私はそこまでフェスに行きたい強い気持ちはなかったが、フェスってどんな感じなんだろうって気になってはいた。
それが配信を通じて、その雰囲気や楽しさの一端を垣間見ることができた。いつか行ってみたいなあ、と思えることができた。
またフェスを通して今まで知らなかったアーティストを知ることができた。

このコロナ禍で、配信をきっかけにして、そんな風にアーティストや劇団の守備範囲を広げてきた人は多くいたのではないか。
そしてそれは、もしコロナ禍になっていなかったら、訪れていなかった世界なのではないか。
そう思う。
だからコロナがよかった、何て言わない。言えない。
でも、音楽に比べて演劇というものが世間一般でいかに、狭い範囲にしかその意義や意味が理解されていないかを痛感できたのがコロナ禍で演劇が苦境に立たされてきたときの実感なのではないか。
要するにパイが小さすぎるのだ。
音楽も映画もテレビアニメも漫画も、元々地方と中央で地域格差があったかもしれない現実をネットの技術をつかって、ある程度格差なく地方でも享受できるように、なってきたし、今もさらにそのリーチを伸ばすように進んでいる。

一方演劇は?
やっぱり生の舞台じゃなきゃ、何て言ってる場合じゃない。そんなことわかっている、わかっているが、
リーチの狭さをどうするんだ?ってこと。両立して考えないといけない。パイが増えれば、実際に見に行く観客も増える。
そしてその裏にその何倍もの、中々見に行けないが、演劇は好きだという理解者、ファンができる。
定点カメラでの配信だっていいんだ。YouTubeでの垂れ流しでもいいんだ。少々音声が聞きづらくてもいいんだ。ゼロよりは全然いい。
そしてそれは、実際に見に来る観客を減らすことにはならないと思うし、収益を減らすことにもつながらないと思う。
むしろそれらが増えることに貢献するのではないかと思う。
だってみんな、生が特別で一番良いっていうのは、きっとわかっているので。わかったうえで、の話なので。

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