本当のかぞく
お父さんとお母さんはずっと口を聞いていない。
お父さんは帰ってきてもすぐ外に出てでていっちゃう。
お母さんは、お酒をいっぱい飲んで、机の上で寝ている。
お父さんとお母さんは一緒にいる時はいつも悲しそう。
だから、僕は夜寝れないとき、いつも思っていた。
お父さんとお母さんが出会わなきゃよかったのにって。
ある夜も僕はおんなじことを思っていた。
すると、窓の外が急に明るくなったのを感じた。
そして、それはぐんぐん眩しくなって、部屋の中を真っ白にした。
僕は手を顔にかざしながら、窓の方に近づいていった。
そうすると、そこにはでっかいお月さまがいた。
大きすぎて、ぴっかぴかの光の中の目ん玉しか見えなかったけど、僕はそれがお月さまだと思った。
そしてお月様はこういった。
「ねがいをかなえてあげる」
すると、お月様の目が上に上がっていって、しばらくしたあと、また下からでてきた。
お月様はなにかを巻き込みながら、ぐるぐる回転して、遠ざかっていった。
お月様はどんどん小さくなって、最後は斜めに消えていった。
僕はそれを見届けたあと、目を閉じた。
気がついたときには、僕は空気に漂うちりになってお父さんを見ていた。
お父さんは、知らないおじさんに謝っているようだった。
お父さんは急に笑顔になったり、また謝ったり、何がきているかがわからなかった。お仕事をしているのだと思った。
僕はずっと見ていると、お父さんはお仕事を終えて、家に入っていった。僕の知らない家で、そこには僕の知らない女の人がいた。
女の人とは、帰った後も、あまりお話をしていないようだけど、僕はなんとなくお父さんは幸せなのかなと思った。
次はお母さんを見にいった。
お母さんは僕と一緒に住んでいた家よりも小さい家で、1人でテレビを見ていた。
お母さんも、たまに笑ったり、真剣なかおをしたりしていた。
僕はなんとなく、お母さんも幸せなのかなと思った。
お母さんを見るのはすぐに飽きてしまった。
そう思った次の瞬間、僕は急に怖くなった。
もし、お父さんとお母さんが出会わなかったとしたら、僕はどうなるの?
僕は怖くて、体の力が抜けて倒れ込んでしまった。
すると誰かが耳元でささやいた。
「君はもともと存在しなかったんだよ」
嫌だ、嫌だ、そんなことない!
僕はあたまがおかしくなりそうだった。
僕はお父さんとお母さんと一緒に生きたい!
また、誰かがささやいた。
「君にはお父さんもお母さんもいないんだよ」
僕は自分を落ち着けようとして、必死にお父さんとお母さんとの思い出を思い出そうとした。
でも何も思い出せなかった。
それどころか、さっきまで見てたお父さんとお母さんも本当の自分のお父さんもお母さんなのか、わからなくなっていた。
僕は誰なの?僕はいったい?
僕は誰かがささやいてくれるのを待った。
けど、それっきり誰も僕にささやいてくれることはなかった。
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