見出し画像

日記 中国行きのスロウ・ボートを待とう。

 7月4日(木)

 6時40分起床。休日。夏空。鈴木真海子流しながら掃除洗濯。洗濯物をためらうことなく外に干せる、という喜び。夫を見送り青いワンピースに着替え、8時過ぎに出発。仕事がない日に仕事と同じ時間に家を出て、職場がある場所に向かっている。でも、今日の私は自由の身だ!

 まずは駅近くのフグレンにて朝読書。暑くなってくると村上春樹が読みたくなるから、鞄の中に忍ばせていた。フグレンのコーヒーは酸味が強くて夏に合う気がする。カウンター席でアイスラテ飲みながら『中国行きのスロウ・ボート』『午後の最後の芝生』読む。どちらも大好きな短編。

 地球儀の上の黄色い中国。これから先、僕がその場所を訪れることはまずないだろう。それは僕のための中国ではない。ニューヨークにもレニングラードにも僕は行くまい。それは僕のための場所ではない。僕の放浪は地下鉄の車内やタクシーの後部座席で行われる。僕の冒険は歯科医の待合室や銀行の窓口で行われる。僕たちは何処にも行けるし、何処にも行けない。

村上春樹『中国行きのスロウ・ボート』


 家の中は相変わらずしんとしていた。夏の午後の光の洪水の中から突然屋内に入ると、瞼の奥がちくちく痛んだ。家の中には水でといたような淡い闇が漂ってた。何十年も前からそこに住みついてしまっているような感じの闇だ。べつにとくに暗いというわけではなく、淡い闇だった。空気は涼しかった。

村上春樹『午後の最後の芝生』


 この短編集、奇跡的な作品だよなあ、とつくづく思う(なんとも陳腐で気恥ずかしい表現だが、私のささやかな語彙力ではこう表現するしかないのでどうか許してほしい)。なんてったって表紙がいい。このさわやかな色合いの表紙にタイトルが『中国行きのスロウ・ボート』なんて、ほんとうにたまらない。どこかの誰かの日記帳から抜き出したかのような裏表紙の紹介文も、一周まわってイイ味を出していると思う。夏のある日の朝にフグレンのカウンターで『午後の最後の芝生』を読んだ日があったということを、きっと私はいつまでも覚えているのだろうな、と思った。


 デパートで開催中のアジアンイベントへ行く。お目当ての台湾のブースに直行し、花柄の布を購入。鮮やかなブルーに紅い牡丹が映えてとても素敵。台所のカーテンにする予定。ふらふらと物色していたインドのブースでは青いカゴバッグに一目惚れし、散々悩んでこちらも購入。小ぶりでつやつやしていて丈夫そうでとても可愛い。

 その後はずっと気になっていた古本屋さんへ。開店したときから行きたい行きたいとずっと思っていて、ようやく行けた。味のあるレトロな通りを抜け到着。なんとも可愛らしい店構えだ。文庫、漫画、カセットテープ、古いマッチ箱などが所狭しと並ぶおもちゃ箱のような店内を物色。残念ながら今日は古本とのご縁がなかったのか、結局なにも買わずに退店してしまった。申し訳ない気持ちを抱きつつ、無理矢理に何か買うのもちょっとちがう気がして。

また来ます。


 古本屋さんを出、小腹を空かせてぶらぶら歩いていると、なんとも気になる店構えのお店を発見。店内の様子を窺えない造りに若干ドキドキしながらも、勇気を出してえいやっと扉を開けてみる。少しずつ少しずつ鍛えている私の外食筋は着実に成長しているようだ。そこはカウンターのみの小さなお店で、感じのいい男性店員さんが迎えてくれた。サーモンと枝豆のキッシュプレートを注文。白い大きなお皿の上には、キッシュだけでなく野菜たっぷりの色彩豊かなおかず(こういうおしゃれなお惣菜のことをきっと「デリ」と呼ぶのでしょうが、私には気恥ずかしくて呼べない)が、所狭しと並んでいた。うれしいなあ、こういう丁寧に作られた食事を求めていた。ビーツのスープはとてもやさしいピンク色。なにを食べてもすべてが美味しく大満足。店員さんと一対一の空間だったので少し緊張しながらのランチだったけれど、会計時にすごく美味しかったです、ときちんと目を見て伝えられたのでよかった。ほんとうに、すごく美味しかったのだ。


 最寄駅へ戻り、スーパーで食材購入して早めに帰宅。昨夜、テレビでやっていた福岡の餃子屋ランキングを観たせいで餃子のくちになっていたので、味の素と大阪王将の冷凍餃子をダブルで購入。帰宅後、早速台湾の布をカットして台所のカーテンを作った。ずぼらなので端の処理はボンドで。我ながらいい出来。

 ムーンライダーズ聴きながら台所に立つ。弁当用の塩味玉、酒蒸しブロッコリーを仕込み、そのまま夕飯の支度。キクラゲの和え物、ピーマン炒め、梅肉きゅうりとトマト、大葉と塩昆布のおにぎりを用意し、メインの餃子は帰宅した夫に焼いてもらった。久々に、ビールをリンゴジュースで割りながら飲んだ。やっぱり餃子にはビールかな、と思って。

 横浜スタジアムでのヤクルト横浜戦観ながら食べる。ふと、今のヤクルトには「村上」と「ハルキ」がいることに気付いた。本日のヤクルト、いいとこなしの完封負け。こんな日もある。

 夫と、もし喫茶店を始めるとしたらどんな店名にするか、というテーマで議論する。私は日本語のシンプルな単語か、好きな本や音楽からインスパイアされた言葉がいいな、と思う。以下私の案。
・喫茶 気分
・喫茶 休暇
・喫茶 静かな生活
・喫茶 光が射してくる

夫はあえて難しい漢字の単語にしたいと言う。以下夫の案。
・喫茶 毛鞠
・喫茶 手毬
・喫茶 絨毯

 どんだけ毛が好きなんだよ、と思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?