【悲しい傑作】『パラサイト~半地下の家族~』を見ました!感想です。

パラサイト~半地下の家族~ 88点
(5段階評価なら☆5)

【点数比較参考作品】
BACK TO THE FUTURE 99点
ダークナイト     98点
告白         93点
2001年宇宙の旅    92点
この世界の片隅に   91点
シン・ゴジラ     88点
カメラを止めるな!  88点
ボヘミアンラプソディー 87点
JOKER        86点
ロッキー1      84点
君の名は       80点
==名作だなと思うライン80点==
シャイニング     78点
えんとつ町のプペル  70点
言の葉の庭      40点


■■■総括■■■
映画を見終わった直後、最も大きく残っていた感情は「悲しい。…なんて悲しい話なんだ。」だった。
この映画には、笑いの要素も、ドキドキハラハラする興奮もある。
映画として、エンタメとして物語として非常に楽しめる作品でもありながら、最後は強烈な皮肉・風刺で幕を閉じる。

全編を通して、おそらく韓国内にある現状に対する皮肉と風刺が利いていて、テーマそのものもそこに帰結する作品だと思う。

傑作の部類に入る作品だと僕は思う。

映画中にある様々な展開が、「きっとあれはああいう婉曲(皮肉)なんだろうなぁ」と語りたくなる要素で詰まっている。

僕がもっと韓国内の現状を知っていたり、そもそも韓国人だったら、さらにもっと感情移入して高評価になった作品かもしれない。
(逆に、「いやそれは誇張しすぎ」となって評価を下げる可能性もあるけど。)

ちなみにこの作品はいわゆる「胸糞系」だと思う。
そういうのが苦手な方は、観てもあまり良い気持ちにはならないかもしれない。

僕は個人的に「胸糞系」は好きです。
ただし『人間心理の深い描写がある場合に限る』、ですが。

この作品は好きな胸糞系です。



■■■以下ネタバレ有りの感想■■■

ここからはネタバレ有りで感想を書きます。
ネタバレを聞きたくない方は、ここで見るのをやめてね!


















では、始めます。


まず象徴的だなと思ったシーンが、始まりのシーンと終わりのシーン。
どちらも「半地下」に少しずつ目線が下がっていくカメラロール。
半地下に始まり、半地下に終わる。
これはまさに「半地下の人間は、半地下から抜け出せない」と言い表されているようだった。
誤解してほしくないのは、これは監督による「半地下は所詮半地下なんだよ」という蔑んだメッセージではないという事。
映画中に巻き起こる様々な「貧困格差」による出来事が、「半地下に生まれた人間」が地上に上がって日を浴びる層になる事を許さない…許してもらえない…、そういうメッセージだ。
染み付いた半地下の『匂い』は、この作中で最もそれを表している。


僕が本当に悲しい、と思った所が2つあって、
まず1つ目から話します。
半地下の4人は「基本的に優秀な人間」なんですよね。
長男や妹は地頭がよく、口もうまい。
父も母も、パラサイト先の仕事はそつなくこなせる。
…つまり、そんな優秀な彼等でさえ、「半地下に生まれた貧困」であるせいで、その優秀な能力の使い道が「曲がった方向」に向いている事。
…そして、彼等にはその生き方しか出来ない社会の現状があるという事…。
染み付いてしまった半地下の匂いが、習慣が、アイデンティティが、彼等に日を浴びさせる事を許さない…。


そしてもう2つ目。
最後に長男は「根本的な計画を立てました。大金を稼いで家を買います。」と言う。
これは本当に根本的な、言ってしまえば「普通のこと」なんですよ。
しかし、半地下の長男はあれだけの惨事を経験してやっと
「普通のこと(思考)」にたどり着いた。
まずそこが悲しい。やっとかよ…ていう(涙)

そして…


そして…!!!


きっと彼には無理なんです…。
作中のあの「貧困格差」と「そこにある溝」をさんざん見せられた後に、長男があの台詞を言ったとしても、
無理じゃん…無理じゃねえかよ…!!!って、思っちゃう。

しかも彼はおそらく、少し脳に障害?を残してる。直接的な描写は無いが、物語が始まる前の状態よりは確実に悪くなっているだろう…。
つまり、長男に垣間見えたカリスマ性みたいなものも、多分失われている。

やるせない。
本当にやるせない。

だから僕は、映画が終わった時、物凄く悲しい気持ちになった。


1つ言っておきたいのは、「悲しい気持ちになったから悪い映画」とは僕は思わない、という事。

これだけ大きな感情を作品によって引き出された・揺さぶられたという事が、この作品が優れている証。

悲しさの奥には、現実世界への風刺が利いている。

こんなやるせなさを表現出来る人が居る…。それだけでも、この作品に心が救われる人も居るだろう。


僕個人の人生経験からも、思う所はありました。

僕は生まれこそ半地下というような、貧困層に生まれた訳ではありませんが、少年~青年期を貧困の中で過ごし、
ご存知の方も居ると思いますが、700万の負債を背負わされ18歳以降の人生がぐちゃぐちゃになった経緯があります。

基本「金の無いやつ」という目で見られ続けて来たんだろうな…という感覚は自分にもあり、
しかもその要因が自分本人ではなく、どうしようも出来ない周りに巻き込まれてそうなってしまった…という苦しみは、自分にもわかる。

「ここに生まれさえしなければ、こんなに苦しまなくて良かったかもしれない」という感情。

…誰しも持ちうる感情だとは思う。

ただ僕には運良く明確な目標「漫画で生きる人間になる」があったので、マイナスなものに目を向ける時間はとても少なかった。

少なかったが…、根底にはあった。

「自分は貧乏畑に生まれた、輝かない運命の人間」…という感覚が。


そういう感覚に、その悲しい感覚に触れてくる作品でもあった。

そんな風に思って生きたくはない。
だから思わないようにしてる。
けれど、自分の力ではどうにもならない現実もそこにはある…。
そのやるせなさ…。

僕自身の事と照らし合わせると、そんな風に思った作品でした。



エンタメ的な要素にも目を向けた話もしましょう!

「この先どうなっちゃうんだよ!?」と思わせる、ハラハラする展開が長く続き、見る側をずっとエキサイティングにさせるつくりはお見事!

追い出された家政婦が雨の中戻ってきた時は、もうめっちゃワクワクしたよね。笑
「何なに!?何が始まるの!?」って。

そこからの怒濤の展開。

僕はもう「わかりやすくバレて破滅するのか…!?」とか思いながら見てたけど、その後の展開は予想を超えていった。
なるほど、そうくるのかと。


「俺はここに似合ってるか?」って訊いた長男のシーンもよかったなぁ。

あと家政婦のモノマネは笑ったな~。
あれは吹替じゃなく、字幕で見た方が良い。



少し気になった点で言うと、
金持ち家族がキャンプに行った夜、半地下の家族がリビングでドンチャン騒ぎな団欒をしてるのが「隙だらけだなこいつら…(笑)」とは思ったんだけど、
でも「この家族ならそうするか…」ていう所もあるので、そこは見事に監督の計算の中に僕も取り込まれてるんだろうなって思いました。笑
だって、そのせいでハラハラするもんね。笑

同じように「この金持ち家族、騙されやすいな~」って思ったけど、それも監督の計算の内だとも思う。
「お金持ちで身分的には上だけど、能力は半地下の人間に劣る」みたいな暗喩というかさ。


あと、些細な事だけど、ツートンが読めた金持ち家族の男の子と、最初に出てきた親友の事が少し気になった。
あまり描かれなかったので。
でも作品の主題の事を考えれば、全然カットして問題ないと思うので、OK!



まだまだ「あそこはこうだったね」「ここはこうだったね」と語りたい部分が出てくる作品なので、やはり素晴らしい作品だと思う。

色んな感情を揺さぶってエキサイティングさせてくれる、それでいて痛烈な風刺メッセージ作品。

傑作だと思います。

僕、漫画Artist青徒は、基本「無料公開」で作品を知っていただくスタンスで活動しています。 そこからクラウドファンディングでご支援いただいたり、本を購入していただく等で収益としています。 シーザノケを知ってくださったあなたへ。 お気に召しましたら、サポートよろしくお願いします。