見出し画像

猫、膀胱炎になる

我が家のフローリングと我が家の猫が同じ色だと気づいた今日、気持ちよさそうに寝そべるその姿を見て、改めて元気でいてくれることに幸せを感じている。

世界一可愛い我が家の2匹の猫は、イーディとツィギーという派手な名前だが、フローリングと一体化できるほど地味なキジトラである。
御歳13歳とおそらく8ヶ月程。幸いにもここまで大きな病気1つせず、2匹ともシニアになった。

しかし先週、イーディが突然膀胱炎になった。

日曜日の夜20時ぐらいだろうか。トイレの方から「うぉーん」と苦しげな声が聞こえてきた。トイレから戻ってきてソワソワしながら、また「うぉーん」と鳴いた。

ウロウロ、ソワソワ、うぉーん。

これはおかしい。

またトイレに行こうとするので、そっと後をつけると、数滴の血尿と思われる跡があった。
顔面蒼白心臓バクバク。さっきまで元気そうに見えたのに、き、急に何なんだ。

うろたえながらスマホで検索すると、膀胱炎のようだが確証は得られない。
とにかく近くの動物夜間急病センターを探し、電話をかけて症状を説明すると、受付の女性から恐らく膀胱炎だと思うがまずは連れてきてくださいと言われた。続けて夜間急病センターでの初診になるので、数万円程のお金がかかるといった趣旨の話をされたが「うぉーんうぉーん」と苦しそうな鳴き声が耳に入りそれどころではない。

車がないためタクシーを呼び、センターへ向かった。

「どのぐらいかかりますか?」
「うーん、今日は混んでないから20分ぐらいで着くかな」

キャリーケースからは時折弱々しく「…うぉーん…」と小さな声が聞こえ、「もし大病だったら…」という不安で心が満タンになる。
一刻も早く到着して欲しい。祈るような気持ちでタクシーに揺られ、ようやくセンターについた。支払いの際に振り返った運転手さんが言った。

「ああ〜!猫か!お客さんが何や1人でしゃべったはるんかなーおもてたわ」

もしそうなら行き先は動物急病センターではなく別の病院だ。
大阪のタクシー運転手はいつだってキャラが濃い。

すっかり暗くなった住宅街に、それほど大きくないセンターの灯りがやけに目立つ。広い駐車場を通り抜け入り口のインターホンを鳴らすと、セキュリティーが解除されて中へ通される。そして受付で問診票をもらい、記入した。

「お呼びしますので、外でお待ちください」

感染症対策の一貫だろう、診察間近の人しか建物の中で待てないのだ。
外に出て、薄暗い敷地の隅に張られたテントのベンチに座った。蚊取り線香がたくさん置かれている。

そこから先ほどの駐車場を見ると、ほぼ満車状態で中には人が乗っている。みんな診察待ちなんだとこの時に気がついた。
家族や恋人と思しきグループ以外見当たらない。私とキャリーケースの猫だけがテントの下で、ポツンと孤独な存在のように思えて涙が出てくる。

「ごめんな、もうちょっと待ってな」声をかけながらキャリケースに手を入れ、身体を撫でる。もう鳴く元気もないのか、無言だ。

それから30分程でようやく名前が呼ばれた。

診察室に入り、体重を測り、エコー診断を受けた。
そして、ほぼ間違いなく膀胱炎だという事、急病センターでは薬が出せないので今日は注射を打つという事、報告書を書くので、それを持って明日かかりつけの病院へ行き薬をもらう事、など説明と指示を受けた。

「何か大きな病気ではないですか?」
「その可能性は低いと思います。猫の膀胱炎は珍しい病気ではないですし、この歳まで泌尿系の病気がない方が珍しいですよ」

その言葉を聞き、心から安堵した。ああ、ひとまず本当に良かった。

「明日いつもの先生に診てもらおうな」そう声をかけて、また外のベンチで会計を待った。その間もひっきりなしに動物たちが運ばれてくる。

また30分以上待ち、ようやく会計に呼ばれた。


「本日のお会計ですが、まず、初診料が8千円」は、はっせ…

「簡易エコーが3千円」さ、さんぜ…

「注射料2本で3千円」さ、さんぜ…

「注射薬Aが…」「注射薬Bが…」

モウヤメテー!

安堵した途端、高い出費に瞳孔が開く。
しかもタクシー往復で…明日も診察に行って…。
富岳にも負けない私の脳内スパコンが計算を始める。何て卑しく、何て小さい人間なんだ。

翌日かかりつけの病院に連れて行った。

「これは間違いなく膀胱炎やねー」と診断が下された。
1週間分の粒状の飲み薬をもらい、そして、薬の飲ませ方レクチャーを受けた。

まずは、右手で猫の上顎をグッと持ち上げて口を大きく開ける。そして左手のなか指に薬を乗せ、瞬時に口の中(奥の方)へ指を入れて飲ませる。
なんとも高度なテクニックを教わったが、犬歯で指を噛まれる結末しか想像できない。かの有名な映画「ローマの休日」で真実の口に手を入れる瞬間のあの恐怖、伝わるだろうか。

「先生…それ私には到底無理そうです…」

「あはは、やっぱり?これ結構難しいもんな。そしたら粉々にすり潰してちゅ〜るに混ぜてあげて下さい」

その日から1週間、狂喜乱舞のちゅ〜るタイムが始まった。薬を飲まなくていいツィギーからすればタナボタである。

すっかり健康になり薬も飲まなくて良くなったが、あの日からちゅ〜る愛は燃え上がるばかり。毎朝私が起きるのを枕元近くでジットリと待つ始末だ。

その愛に負け、朝のちゅ〜るタイムがレギュラー化されている。

#猫 , #キジトラ , #膀胱炎 , #どうぶつ夜間救急センター ,

#診察料 , #日記 , #ちゅーる






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?