タバコ吸い過ぎデカ第一話

粗筋
タバコ吸い過ぎデカと中2デカによる、バディモノ・ギャグストーリー。まずは予言者デカから今回の事件の成り行きを全部ネタバレしてから任務へ。予言者デカの流れ通りに張り込みなどを行ない、犯人を追い込み、無事ネタバレ通りに逮捕する。

タバコ吸い過ぎデカ第一話
(目次の下にあります)


タバコ吸い過ぎデカ第一話

○タイトル。
【巨大本格ミステリー タバコ吸い過ぎデカ】

○喫煙所。
 タバコの煙がパンパンでタバコ吸い過ぎデカの顔しか見えない。

琥珀「タバコってあれだな、これで合法だなんて法律イカれてんな! サンキュー!」
 陽「というか琥珀さん、毎日吸い過ぎですって」
琥珀「中2デカ、オマエも早く校舎裏に行って隠れて吸うようになれよ」
 陽「中学生は吸っちゃダメなんですって、不良のノリならOKとかないんですよ」
琥珀「だからってオマエ、万引きしていたくせによぉ」
 陽「またそのことを言うんですか……勘弁して下さいよ……」

 琥珀、煙をフゥーと吐いて、陽の顔に当てる。

 陽「ちょっと、基本の煙に追い煙しないで下さい」
琥珀「聞いてくれよ、蒸須。コイツ、万引きの償いで今デカやってんのよ」

 ほっこりとした笑顔を浮かべる、蒸須。

 陽「だからそのことをもう言わないで下さいよ!」
蒸須「知ってますって。で、万引き事件をキッカケに陽くんと知り合った琥珀さんが試験結果や道具を偽造して陽くんをデカに仕立て上げてるんですよね」
琥珀「そうそう。でさ、ぶっちゃけデカの世界も若い感性って必要だろ、だから陽をデカにと偽造したわけよ!」
蒸須「そうですねぇ、それはありっちゃありですね」
 陽「いや僕の話はどうでもいいんですよ、それよりも早く予言者デカから今後の展開を聞きましょうよ」
琥珀「でも中2デカ、お金がもらえて嬉しいって言ってんだぜぇ、デカやってるから」
 陽「だから僕の話はどうでもいいんですって! いくらでもゲームに課金できて嬉しいです! はい! もうこれでいいですよね! 予言者デカから今後の展開!」
琥珀「まあそうだな。じゃあ、予言者デカ、これからどういった事件が起きて、最終的にどうなるんだ?」
蒸須「まず犯人は妖術使いです。音を消す妖術を使った暗殺を繰り返しています。でもいざ対峙する時はあんまり意味無いです。妖術使いは武器を持っていない状態なので」
琥珀「なるほど。まあ犯人の特徴は今はどうでもいいとして、どんな道のりを歩むんだ、俺たちは。細かい情報も頼む」
蒸須「ベリーダンスデカからスマホで電話があって、その妖術使いに繋がる犯人を捕まえたという話があります。その犯人を取り調べして、その結果、アパート・ヌスミ荘で張り込みます」
琥珀「陽、ちゃんとメモしているか」
 陽「しています。タバコの煙が少しすごいですけども、メモは見なくてもできるので」
琥珀「すごいヤツだな、アレのゼロ世代だけあるな」
 陽「生まれた時から電子機器がある世代ってヤツですね、多分」
琥珀「じゃあ予言者デカ、続けてくれ」
蒸須「なんやかんやあって、張り込んで狙っていた犯人から妖術使いの居場所の情報を得てそこにすごい突撃をして逮捕。大丈夫、2人とも何をしても無事だ」
琥珀「サンキュー! 最高だぜ! いくぞ陽!」
 陽「えっ、どこに行くんですか? ベリーダンスデカから電話が無いと始まらないんじゃないんですか?」
琥珀「とにかくどこかへ行くんだよ! そのほうがそれっぽいだろ!」
 陽「分かりました!」

 タバコを吸いながら喫煙所から出る琥珀とそれについていく陽。

○警察署の廊下。
 カットを割るごとにタバコの煙が充満していく。
 喫煙所から出て普通に廊下で煙を吸っているだけ。
 陽は静かに佇んでいる。
 そんな陽のスマホが鳴る。

琥珀「パンティ泥棒の誘いか?」
 陽「いやまだスマホに出ていないんで分からないです」
琥珀「可能性は常に平等だからな」
 陽「まあパンティ泥棒したことないですけども」

 電話に出る陽。

琥珀「パンティ泥棒なら穴場教えるぞ」
 陽「違います。えっと、はい、分かりました。琥珀さんに代わります」
琥珀「パンティ泥棒の誘いか」
 陽「いや違います。ベリーダンスデカなのは確実ですが、用はまだ分かりません。いや予言通りかもしれませんが」
琥珀「パンティ泥棒かなぁ?」

 陽のスマホを手に取り、電話に出る琥珀。

琥珀「パンティ泥棒」
 陽「いや開口一番それは何も分かりませんって」
琥珀「えっ? 何? ……いや……ガチャガチャうるせぇな! おい!」
 陽「ベリーダンスデカはいつもベリーダンスの装飾品が鳴りますからね」
琥珀「まずパンティかどうか言え!」
 陽「パンティではないと思いますけどね」
琥珀「あぁもういい! パンティと言え!」
 陽「もう言ってほしいんですね」
琥珀「……いや何だよ、パンティって! 唐突にパンティと言われても分かんねぇわ!」
 陽「いや琥珀さんがパンティって言えって言ったんですけどね」
琥珀「パンティをどうしたいか言え! まずそっからだろ! デカの会話は!」
 陽「そんなことは無いと思いますけども」
琥珀「パンティを……塩釜の中に入れて……焼いて……海辺のパンティを再現したい……じゃあそうしろよ!」

 キレながらスマホの電話を切る琥珀。

 陽「えっ、本当にパンティの話でしたか?」
琥珀「いや分からん。もう無我夢中だったから」
 陽「じゃあダメじゃないですか」

 と言ったところで、また陽のスマホが鳴る。

琥珀「パンティ泥棒か?」
 陽「多分ベリーダンスデカだと思いますけども」
琥珀「でも可能性はいつも平等だからな」
 陽「そんなことないですよ、ゲームの課金のレアモノ排出率、絶対アレ平等じゃないです」

 と言いながらスマホに出る陽。

琥珀「パンティ泥棒か?」
 陽「えっとぉ……はいはい……えっ? あの、今、ガチャガチャで……あぁ、はいはい」
琥珀「パンティ泥棒じゃん」
 陽「う~ん……そうですね、じゃあ伝えますし、今行きます」
琥珀「マジでパンティ泥棒かよ……本当だと引いちゃう、真人間だから」

 スマホをポケットに戻す陽。

 陽「違いますよ、ベリーダンスデカがあのヤマの犯人を捕まえたらしいです。玄関まで行きましょう」
琥珀「あのヤマだとっ! あのもう既にアレしちゃってる人も出まくっているヤツか! あの事件はスリリングだぞぉ! 急ぐぞ!」
 陽「ちょっと! 良いことみたいに言うのはさすがに不謹慎ですって!」

 タバコを床に落として、走り出す琥珀。
 そのタバコをしっかり踏んでから、ついていく陽。

○警察署の玄関。
 手錠を掛けられているけども、それが丸出しの犯人と、ベリーダンスの恰好をした50代のオジサンデカが徒歩で玄関へやって来る。
 それを見るなり、琥珀が手錠を掛けられた犯人を殴り、倒れたら、馬乗りになってボコボコ殴りまくる。
 呆気にとられる陽を尻目に、ベリーダンスデカはその殴る音に合わせて踊るだけで。
 ぐったりした犯人の胸元を掴んで、上半身を起こさせてから、琥珀が警察手帳を見せながら、

琥珀「警察だ!」
 陽「それは分かっていますよ、いや殴りすぎで分かんなかったかもしれないですけども」

 警察手帳に軽くキスしてから胸元のポケットに戻す琥珀。
 琥珀は犯人を立ち上がらせながら、

琥珀「本来自分で立ち上がれ! 組体操じゃないんだぞ!」
 陽「合ってるんですか、その例え」
琥珀「というかベリーダンスデカ! オマエ! いっつもうるさいんだよ!」
箪笥「いや警視長に向かってその口の利き方はなっていないな」
琥珀「うるせぇ! 装飾品の数を少しは減らせ!」
箪笥「減らすのはオマエの減らず口とタバコの量だ」
琥珀「何だと! こっから小粋な掛け合いが始まるのかなぁっ! こっから小粋な掛け合いで笑わせる大人の嗜みが始まるのかなぁっ!」
 陽「多分始まんないですよ」
箪笥「というか中2デカ、君は本当に中2に見えますね。本当に試験をパスしましたか?」
 陽「ドキィ! あっ! 当たり前じゃないですか! 試験をパスしまくりました! もうマジのパスしました!」
箪笥「まあいいでしょう、デカは多ければ多いほど良いですからね」

 そう言いながら踊るベリーダンスデカ。
 その光景をポカンと見ている犯人に琥珀が睨みながら、

琥珀「何ボサッとしてんだよ! オマエが集めたメンバーだろ! オマエも盛り上げろ!」
 陽「パーティの幹事みたいに言わなくても」
琥珀「躍れ! 手錠を掛けられているからこそのダンスもあるだろ!」

 なんとなく腰を振って踊る犯人。

琥珀「パーリー、パーリー」

 そう言いながら手を叩き出した琥珀。
 それに合わせて手を叩く陽。

琥珀「いや陽! オマエはタバコの準備を始めろ! 俺のタバコを作り始めろ!」
 陽「無理ですよ! 僕そういうことは疎いんですから!」
琥珀「いっつも見てるだろ!」
 陽「でもあれって最後の火を付けるとこ、吸っていないとダメなんですよね! さすがに僕ダメです!」
琥珀「じゃあ俺が替わりにやってやる! 一貸しだかんな!」
 陽「いや自分のことをやるのに、一貸しって……」
琥珀「中2デカは俺の分まで手を叩いてな!」

 手を大きめに叩きだす陽。
 タバコを吸い始める琥珀。
 一発目の煙をベリーダンスデカに向かって吐く琥珀。

箪笥「やめないか! タバコ吸い過ぎデカ!」
琥珀「スモーク焚いてやったんだろうがぁっ!」
箪笥「それなら足元に吐け!」
琥珀「顔スモークがいいだろ!」
箪笥「顔スモークがいい時なんて一度たりとも無いわ!」
琥珀「知ってるわぁっ!」

 琥珀のデカい声にベリーダンスデカが驚きすぎてベリーダンスを止める。
 そして琥珀は犯人に近付き、犯人の手錠のチェーンの部分でタバコの火を消す。

琥珀「おい、オマエ。取り調べしてやるからな。こっち来い!」
犯人「ぴえん、通り越して」
犯人・琥珀「ぱおん」
 陽「何ユニゾンしているんですか。というか犯人ってモノはやっぱり強心臓ですね……ここでぴえんと言うとは」

 犯人と琥珀が同時に陽のほうを振り返りながら、

犯人・琥珀「ぱおんな」
 陽「すごい、つーかーの仲じゃないですか……」
琥珀「おい! ベリーダンスデカ! コイツの取り調べは俺がして手柄はもらうからな!」
箪笥「まあいいだろう。私はそれよりもむしろ今はただただ玄関でベリーダンスしたい気分だからな……ただし!」
 陽「……ただし、なんでしょうか……」
箪笥「若い男子の『パンティ』と叫ぶ声が聴きたい! 中2デカ!」
琥珀・箪笥「パンティと言え!」
 陽「……琥珀さん、ユニゾン力(りょく)がすごいですね……」
琥珀「人の気持ちが分かる人間に育ちました」
 陽「まあ分かりました。パンティと叫べば僕と琥珀さんの手柄になるのならば、叫びましょう」
箪笥「いやもう若い男子の”パンティ”聴けたから満足だ」
 陽「いや台詞の中のパンティ!」

 ベリーダンスデカの心臓が高鳴る描写。
 サイケデリックなBGMが鳴る。

 陽「なっ、なんですか、この音……」
琥珀「ベリーダンスデカはテンションが上がると、90年代のドラマみたいにサイケな曲が掛かるんだ」
 陽「曲が掛かるってなんですか! 鼻歌ですかっ!」
琥珀「内臓に内蔵されたレコードに針を落とすんだ」
 陽「人造人間なんですか!」
箪笥「そう、内臓にレコードの器官がある!」
琥珀「まあベリーダンスデカのことは置いといて、よしっ、犯人! ついてこい! 取り調べだ!」

 そう言いながら犯人の前を歩きだす琥珀。
 犯人は一瞬逃げようとキョロキョロしたところを、陽が犯人の隣にやって来て、ちゃんと連行する。

○取調室。
 もう煙がすごい。
 琥珀と陽と犯人が取調室にいて、琥珀が犯人の対面に座り、陽が立っている。
 犯人は手錠が掛かったまま。

琥珀「オマエがやったんだろ!」

 黙秘する犯人。

 陽「……琥珀さん、この犯人が何をやったかは分かっているんですか?」
琥珀「いやもう全然分からん! あんまり人の話は聞かないでやらさせて頂いてるし!」
 陽「じゃあダメじゃないですか。だから僕が会議に出ましょうか、って言ったんですよ」
琥珀「中2に任せられるかよ!」
 陽「いやでも中2にもいろいろいますから」
琥珀「そうだよなぁ、おい犯人よ、コイツ、万引きしたことあるんだよ」

 犯人がほっこりとした笑顔を浮かべる。

 陽「ちょっとぉ! 言わないで下さいよ!」
琥珀「焦んな、焦んな、勝負はこっからだ」
 陽「というかあれですよね、あの事件の犯人なわけですから、繋がりを聞いたほうがいいんじゃないんですか?」
琥珀「あのツイッターで見る”ハッシュタグ、パンティ泥棒と繋がりたい”ってヤツか?」
 陽「いやまあ普通は”ハッシュタグ、漫画好きと繋がりたい”みたいなことですけども、そういうことじゃないです」
琥珀「でもさ、あんまりそういうプライベートな繋がりを聞くヤツ、合コンだとウザくね?」
 陽「合コンならウザいですけども、これ、デカの取り調べなんで」
琥珀「実際早々に年収聞いてくる女子とかビンタしちゃったな、俺」
 陽「いやだから合コンの思い出はいいんですよ」

 と言った刹那、琥珀が前にのめり出し、対面に座っていた犯人の顔をビンタする。

琥珀「年収聞いてくるんじゃねぇぇぇええええええええええ!」
 陽「聞いてないです。混乱しないで下さい」
琥珀「顔が似ていたから……」
 陽「結構ボーイッシュな相手と合コンしていますね」
琥珀「あういう男に見えるような女が好きだから、たまらねぇだろ、あのスレスレなところが」
 陽「まあ個人的な趣味趣向なので、何でもいいです」
琥珀「というか犯人! 聞いていいか!」
 陽「聞いていいかじゃなくて聞くんですよ。聞いていいかどうか聞いちゃダメなんですよ」
琥珀「いや性交渉は同意が必要不可欠だろ! 今は付き合っているとしても合意ナシに性交渉はダメなんだぞ!」
 陽「せっ、性交渉とかっ、あっ、あのっ、や! やめて下さい!」
琥珀「中2デカはまだまだ中2ということか……じゃあ教えてやる……イヤよイヤよも好きのうちってもう古いからなぁっ!」
 陽「そっ! そうなんですかっ! イヤって言って興奮させてくるんじゃないんですか!」
琥珀「ふぅ~、いつもは常識的な中2デカもこっちはまだまだか……あとでエロい映画、貸してやるよ、三貸し分だぞ」
 陽「それは確かに三貸し分の価値がありますね……乗りましたっ」
琥珀「じゃあ決定だな! 早速! DVD屋に借りに行くぞ!」
 陽「えっ! 琥珀さんが所持しているDVDじゃなくて借りたDVDを貸すんですか!」
琥珀「当たり前だろ! 自分で選んだヤツを見たいだろ!」
 陽「いやまあそっちのほうがある意味効率的ですけども、普通こういうのって本人のオススメじゃないんですか?」
琥珀「俺のオススメだと大体男の子の恰好をした女子の映画になるぞ! それか女の子の恰好した男の子のヤツ!」
 陽「前者はまだしも、後者は困るんで、じゃあ分かりました、自分で選びます」
琥珀「そうそう! 大人は何でも自分で選ぶからな! これは社会勉強だ!」

 そう言って立ち上がる琥珀に、ハッとして琥珀の肩を下方向に押し込んで、また座らせる陽。

琥珀「おっ、オマエ、結構力強いな。どうした?」
 陽「まだ取り調べの途中でした! すみません! 犯人!」

 ほっこりとした笑顔を浮かべる犯人。

琥珀「そうか取り調べの途中だったとは。どうりでタバコで充満しているわけだ」
 陽「いや琥珀さんのいるところはどこでもタバコで充満していますけども」
琥珀「じゃあ犯人! オマエがやったんだろ!」
 陽「……とにかく、繋がりを聞きましょう。ベリーダンスデカによると下っ端らしいので、上司の居場所とか聞きましょう」
琥珀「ベリーダンスデカは玄関」
 陽「いや自分の上司じゃなくて、犯人の、です」
琥珀「いや犯罪するヤツに上司とかそういう社会的な概念は無いだろ!」
 陽「あるんですよ、犯罪する人々もゴリゴリの縦社会なんですよ」
琥珀「そうなんだぁー、じゃあもう犯罪者になるのも嫌だなぁ」
 陽「まあそうじゃなくても犯罪者になっちゃダメですけどもね」
琥珀「おい、犯人。偉いヤツの居場所を教えろ」

 沈黙を続ける犯人。

琥珀「しょうがない、ここはカツ丼だな」

 そう言いながら、机の引き出しからカツ丼を取り出す琥珀。

 陽「そんなところにカツ丼入っているんですね」
琥珀「朝一にここへカツ丼入れていくんだ、定食屋が」
 陽「勝手に、みたいに言わないで下さい。そういう発注をするんですよね」
琥珀「当たり前だろ! そうじゃなきゃ定食屋の不法侵入だろ! しょっぴくぞ!」
 陽「そんな強い当たりで言わなくてもいいじゃないですか」
琥珀「そうだな! 中2に強く出過ぎるヤツは社会不適合者だからな! ガハハハハ! フゥー」

 タバコの煙を陽の顔に当てる琥珀。

 陽「いやもう中2に煙を当てるのもすごいですよ」
琥珀「まあな」
 陽「認めちゃった」
琥珀「というわけでカツ丼は……手錠掛かってるから食えないか……食べさせてやるよ」

 そう言って割り箸を割って、その割り箸をめちゃくちゃしゃぶり出す琥珀。

 陽「琥珀さん、その割り箸、犯人用の割り箸ですよね」
琥珀「いっけね、いつもの自分のルーティンしちゃった。まあ新しい割り箸を使うのも、もったいないからこれを使うか」
 陽「もったいないって今の時代ですよね」

 割り箸でカツ丼を挟み、割り箸を持っていないほうの手の指でタバコを一旦挟み、口を空けてから、そのカツ丼に優しくキスし、そして犯人の口へ持っていく琥珀。

 陽「付き合いたてみたいで何だかいいですね、憧れます」

 カツ丼を食べる犯人。
 そのまま割り箸をしゃぶる。

 陽「あっ、しゃぶるほうー」
琥珀「おいしい?」
犯人「……おいしい」
琥珀「チャンス! 犯人が喋った今がチャンスだぞ!」
 陽「そういうの多分口に出さないほうがいいですよ」
琥珀「母さんが、夜なべをして、手袋、編んでくれた」
 陽「歌うんじゃなくて、朗読なんですね」
琥珀「母さんが、夜なべをして、手袋、編んでくれた」
 陽「そこしか知らないんですね」
琥珀「手袋……(投げキッスをして)チュッ」
 陽「手袋の一点突破はなかなか難しいですね」
犯人「参りました」
 陽「いやそんな将棋みたいな」
犯人「オレの上司は金髪のパンチパーマで額にタトゥーで彫ったホクロがあります」
琥珀「それだけ分かれば十分だ! 行くぞ!」
 陽「いやでも、いつもどの辺にいるかどうか聞かなくて大丈夫なんですか」
琥珀「中2デカ、覚えていないのかよ……引いちゃう……真人間だから……」
 陽「えっ、犯人言いましたっけ?」
琥珀「予言者デカがアパート・ヌスミ荘で張り込むって言ってただろ!」
 陽「あっ、そうでしたね、それがこれに繋がるんですねっ」
琥珀「行くぞ! ヌスミ荘へ直行だ!」

 と言うと引き出しから缶ビールを取り出し、空けて飲む琥珀。

 陽「ちょっと、琥珀さん。これから琥珀さん、運転するんですよっ」
琥珀「迎い酒だろうが!」
 陽「酔ってたんですね」
琥珀「あと運転は飲酒運転してからが本番だろ!」
 陽「ゲーム性の話ですか?」

 缶ビールを一気飲みし、決め顔で陽のほうを見ながら、

琥珀「……人生だ」
 陽「いや別にカッコ良くはないですけどもね、飲酒運転ってしないほうがポイント高いから」

○アパート・ヌスミ荘の前。
 自動車を駐車禁止の看板の真ん前で止めて、張り込みをしている琥珀と陽。
 琥珀は車の中で、陽は外に出ている。
 琥珀が窓を開けて顔を出すと、大量のタバコの煙が出てくる。

琥珀「陽、パンと乳牛の乳はどうした」
 陽「いや琥珀さんがコンビニ寄らなかったので、持ってないです」
琥珀「いやまずは張り込みの場所に行くことが大切だろうがぁっ!」
 陽「あっ! 大きい声!」

 ヌスミ荘のほうへアップになって、金髪パンチパーマの男が一瞬2人のいる側を見る。

琥珀「ニャー!」
 陽「激しい猫!」

 また金髪パンチパーマの男にアップになり、

金髪「猫かぁぁぁあああああああああ!」
 陽「めちゃくちゃデカい声で助かりますね、心の中が丸わかりですね」
琥珀「つまり誤魔化せたというわけか、サンキューぅぅううううううう!」
 陽「あっ! 感謝をデカい声で!」

 金髪パンチパーマの男が一瞬2人のいる側を見る。

琥珀「ニャー!」
 陽「また猫を飛ばしましたね」
金髪「また猫じゃん! 猫の発声量すげぇぇえぇえええええええ!」
 陽「すごいですね、もう会話しているみたいですね」
琥珀「繋がっているかもしれない、ハッシュタグで」
 陽「ハッシュタグでは間違いなく繋がっていませんよ」
琥珀「いやでも俺のSNSで呟いた”ハッシュタグ、デカくて甘いパン好きと繋がりたい”と繋がっていたかもしれない」
 陽「まあ可能性はゼロじゃないですけども」
琥珀「あっ、可能性は常に平等だからな」
 陽「何で自分が得意とする言い回しに言い換えたんですか」
琥珀「俺が上だということをハッキリさせたかった」
 陽「それでそうなるんですかね、いや分かってますって、琥珀さんのおかげでデカやれてお金稼げているんですから」
琥珀「デカ? デカくて甘いパンの略?」
 陽「僕らの職業ですよ、琥珀さんは勿論、あの署の人たちはみんなデカで呼び合っているじゃないですか、地域課の人もデカ呼びじゃないですか」
琥珀「……ところで何で中2デカは俺のこと琥珀さんって呼ぶんだ? タバコ吸い過ぎデカでいいだろ」
 陽「それはリスペクトからくるアレですよ」
琥珀「いやデカでいいぞ、別に」
 陽「僕調べたんですけども、デカって刑事の蔑称らしいんですって、犯罪者側が言い出した悪口というか」
琥珀「でも何かデカそうでカッコイイけどな」
 陽「身長高いほうがまあカッコイイですけどね」
琥珀「いやチンコ」
 陽「名称にチンコのサイズの話を挟んでいるのだとしたら失礼ですよ」
琥珀「でもチンコデカいの憧れるじゃん、自分たちが成せなかった側だからなおさら」
 陽「そんな天下獲れなかった武将みたいな言い方されましても。というか僕は別にチンコ小さくないですし」
琥珀「マジかよ……いやそれは中2の中で、では、だろ?」
 陽「いやいや、普通にチンコデカいと思いますよ、僕」
琥珀「じゃあ見せろよ」
 陽「いやでも今張り込み中なんで」
琥珀「いいじゃん、いいじゃん、チンコ見せろよ」
 陽「というか外なんで」
琥珀「ズボンとパンツ浮かせて上から見るだけでいいんだよ」
 陽「それだと本当のサイズ分かりづらいじゃないですか」
琥珀「じゃあ全部脱いでチンコ見せろよ」
 陽「嫌ですよ、チンコってそんな簡単に見せるものではないじゃないですか。チンコってお高いんですよ」
琥珀「中2のチンコなんて激安セールだろ」
 陽「逆に中2にはプレミアム付いていますから。中2のチンコ見たい勢だってこの世にはいるんですから」
琥珀「そんないねぇよ」
 陽「いますって。若いってだけでプレミアムなんですって。中2のチンコなんて特に乗ってきている時じゃないですか」
琥珀「そんなことねぇよ、チンコってのは白髪が生え始めてが本番なんだよ」
 陽「それはもうチンコの最終盤じゃないですか、これからのチンコを愛でる勢がいるんですよ」
琥珀「うるせぇぇぇぇえええ! チンコ見せやがれぇぇぇえええええええ! ニャーぁぁぁぁぁあああ!」
 陽「同時!」
金髪「盛った猫がいるなぁぁぁああああああああああああああああああ!」

 肩で息をする琥珀。

琥珀「……デカくて甘いパンと乳牛の乳で許してやる……買って来い」
 陽「パンと牛乳ですね! 分かりました!」

 その場を一旦去る陽。
 車内の窓を閉めて、俯きながら、静かにタバコを吸い始める琥珀。
 張り込みのほうは全然見ていない。

琥珀「畜生……絶対大人のチンコのほうが価値あるのによぉ……」

 ボロボロ泣き始める琥珀。
 同時に10本のタバコに火を付けて、吸い始める。
 程なくして陽が戻ってきて、車に駆け寄ってくる。

 陽「ひぃっ! 練炭自殺の車がある! ちょっと! 開けて下さい!」

 窓を開けて顔を出す琥珀。

琥珀「ここは駐車禁止ではないと思っている」
 陽「あっ、琥珀さんだった……そうか、これ琥珀さんの車か……道理で似ているわけだった……」
琥珀「おぉ、買ってきたか」
 陽「はい、デカくて甘いパンと牛乳です」

 あんぱんと三角形のパックの牛乳を琥珀に渡す陽。
 琥珀がぷるぷると震えだす。

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